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第84話 条件

「まぁ、いい。あんた達の目的は分かった。嘆願書についてもグイファスから聞いたんだろ。在処ありかは俺が知っている。だけど、まだあんたたちのこと信用できない。さすがに敵陣に乗り込んで、さっさと捕まったグイファスみたいに自分の国のことを簡単に話す勇気は俺にはないし、信じる度胸もない」


 包み隠さないゼンの様子に、リックスはふっと笑う。「グイファスみたいにはなれない」とは言いつつも、十分彼に似たような素直さはあると思ったのである。


「何だよ」


 彼が笑った意図が掴めなかったため、ゼンは訝しい顔をする。リックスは気に留める様子もなく、「いいや」と首を軽く横に振った。


「潜入している者としては懸命な判断だと思っただけさ。だが、こちらも早く君に信用を得て、嘆願書を上に提出したい。上の連中の気が変わらないうちにね」


 リックスは青い瞳をゼンに向ける。それを受けた彼は、静かに聞いた。


「脅しているのか?」


「そうじゃない。大蛇の件を話して上に納得してもらうには時間がかかる。しかし、サーガス王国の状況を聞く限り、そんな悠長なことを言っている場合じゃないだろう。だから、一刻も早く何とかしたいと言っているんだ」


「……」


 二人の様子を傍で見ていたクディルは、ただただこの交渉が今この時点で成立することを祈った。


 リックスの言う通り、事は一刻を争う。サーガス王国を手助けするとしても、それが多くの犠牲者を出してから救うのと、それを未然に防ぐとでは貢献度が大きく変わってくる。一つひとつの判断を渋り、「助けに来るのが遅かったくせに何を言う」などと、サーガス国王に言われたとなれば、ジルコ王国が介入する意味がなくなる上に、リックスが願っている国交正常化も叶わなくなるだろう。それに、メレンケリのこともある。


(母さんの予想では、彼女の力を無くすには大蛇と対峙させる必要がある。というより、大蛇を消滅させるには今のところそれ以外の方法がない……)


 長らくアージェ家の人々と寄り添って来たまじない師たちは、その力が消えることをずっと願ってきた。一族の中には、ジルコ王国の山の中にいてもアージェ家に伝わる力を消滅させることは出来ないからと、旅に出た者もいる。クディルの叔母もその一人で、これまで誰も有益な情報を手に入れることが出来なかったが、彼女がそれがようやくその情報を掴み、フェルミアに連絡を寄越してくれた。それがどれほど大変なことだったのか想像出来るだけに、彼はこのチャンスを絶対に逃すわけにはいかないと思っていた。

 クディルは気持ちをこちらに戻し、静かに紅茶を一口飲んだ。


(最悪……本当に、もうどうしようもないときだけだけど、僕が嘆願書をまじないで探すという方法もある。リックスは望まないだろうけど、そうせざるを得ないときが来たら僕は喜んでそれを実行する)


 卑怯な手かもしれないが、そうやってでも今回のことは何とかしたい出来事だった。

 ゼンは暫く黙っていたが何かを決断したような表情をすると、彼は身を乗り出してリックスに言った。


「分かった。嘆願書は用意しよう。だがその前に、グイファスに会わせてくれ」

「……」

「グイファスに会い、話をしたら嘆願書をあんたに渡す」

「出来ないと断ったら?」

「帰国する」


 はっきりとした返事だった。

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