第83話 真面目な話
注文した菓子と茶もテーブルに並べられ、店員が暫くこないことを確認したのち、ゼンがリックスに尋ねた。
「それで、あんたたち何者? 俺をどうやって見つけた? あと喫茶店に入るなり、女の視線が痛いほど刺さって来たんだけど?」
おごってくれることは有難いと思っているようだが、それを食べる前に彼らがどういう人物なのかを把握しようとしているようだった。
「俺はこの国の軍人、リックス・レイダルだ。こっちは、友達のクディル」
リックスはご婦人方の視線については触れず、簡単に自己紹介をした。
「軍人? で、そっちは軍人じゃないの?」
「僕は手伝い」
するとゼンは左手で頬杖を付き、隣に座ったクディルを見ながら「ふーん」と言った。それから、目の前に座るリックスに視線を戻す。
「まあ、大体のことは想像できる。『グイファス・ライファ』を知っていて、俺の名が分かるってことは、グイファスが俺のことを話したってことだろう。それで奴は何て?」
「君たちが必要としていた『封印の石』はこの国にない。だが――」
リックスが淡々と言うのを、ゼンは見定めるように聞いていた。
「それに代わるものを見つけた、と言ったら?」
そう尋ねると、ゼンは力んだ体から緊張を出すようにため息を吐き、頬杖を付いた。
「グイファスの奴、どこまで喋ったのかねぇ」
「全部話してくれた。大蛇のことも、『封印の石』のことも」
「正直すぎるだろ」
「俺たちも最初は疑っていた。彼はあまりにも真っ直ぐすぎる」
「それは分かる。――で? 代わりになるものって何?」
「もちろんそれについて話そう。だがそれは、君が主君から預かっている嘆願書を持っていたらの話だ」
ゼンは一瞬きょとんとしたのち、にやりと笑う。
「それを使ってどうするつもり?」
「こちらの主君を動かす」
リックスの迷いのない反応に、ゼンは驚き、内心では慌てていた。ジルコ王国の人間が、サーガス王国の大蛇の為に主君まで動かすということが、信じられなかったのである。
「主君を動かすって……この国のてっぺんの人間に話すってことか?」
「そうだ」
「だけど、どうして?」
「理由は二つある。一つは、大蛇の影響がこの国にないとはいえないこと。奴には国境がないそうじゃないか。君たちの国でなんとかできなかったとき、次に犠牲になるのは我が国かもしれない。軍人として捨て置けない」
「……なるほどな。じゃあ、もう一つは?」
「国交を正常化させたい。こちらが協力することで、二つの国にある隔たりを無くしたいんだ」
「お前、本当に軍人?」
リックスの正直な物言いに、ゼンは呆れた様子で言った。
「よく言われるが、正真正銘の軍人だ。それなりの地位にも就いている」
「そんな奴がなんで? 戦をしていたほうが、仕事もあるし金も得られるだろう? それに、この国の人間はサーガス王国をよく思っちゃいない」
リックスは肩を竦める。
「知っているさ。だが、俺はもう戦争には飽き飽きしていてね。さっさと終わらせたいと常々思っていたんだ」
はっきりとした言い方に、ゼンは思わずクディルに視線を向けた。
「こいつ、ホントーに、マジメに言ってんの?」
「本気で言ってますよ。そういうあなたこそ、よく真面目に話を聞いていらっしゃいますね」
思いがけず自分のことを言われ、ゼンは満更でもない様子で肯定した。
「人の話くらいは聞かねぇとな。聞かないから喧嘩になって、戦いになるんだ」
「まっとうだな」
ふっと笑ったリックスは、きれいな所作でカップを手に取り紅茶を優雅に飲んだ。
ゼンは思わず見とれてしまったが、慌てて「言葉にしなくていいって!」と、恥ずかしさを紛らわすように言うのだった。




