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第79話 人探し

「――それで街に出て来たのはいいけど、本当に見つかるのかな……」


 マルスは、軍事警察署がある街・ファイレーンを一人で歩きながら、独り言ちた。


 グイファスの仲間を探す作戦に駆り出されたのは、マルス一人だけである。


 一応、リックスも探すとは言っていたが、さすがに「国境の番人(イーガルド・フォー)」の仕事をほったらかしにしすぎたのか、軍事警察署に置いてある連絡鈴れんらくりん(電話のようなもの)で長話をしていた。連絡鈴は国境近くに通信機が設置してあって、軍事警察署と繋がっている。思った以上に多くの燃料を使うのでほとんど使われていないが、直接赴かなくても話が出来るという点においては優れているので、リックスはそれを活用して「国境の番人(イーガルド・フォー)」の状況把握をしているのだろう。


 そのほかのメレンケリたちは、別の理由で動けないでいた。


 まず、グイファスはその姿が問題である。容姿がサーガス王国の血を色濃く継いでいるので、街中を歩くだけならマントでも羽織っていれば何とかなるが、人探しとなると人に尋ね歩く必要があるので目立ってしまう。


 グイファスが出られない、ということは監視役のメレンケリも動けないし、リセムスは事務の仕事が滞っているということで、人探しに時間を割けない。


 また今回のことに協力的なアッサムに頼もうにも地位が高すぎる。だったらセシルがいるではないかと思うが、彼は頼んだところで断られるのが落ちだろう。そのため、現在「リックスの仕事を押し付けられていると思われている」マルスが、一日中探すほか方法がないのだった。


「本当に見つかるのかな……」


 グイファスから探すべき人物の特徴などは聞いてメモはしてきた。しかしジルコ王国にいる人々とよく似ていて、探すのは難儀しそうである。

 マルスはため息をつきつつ、冷たい秋風が吹く、ファイレーンの街を捜し歩くのだった。



 そのころリックスは、ファイレーンにある時計屋で待ち合わせをしていた。店の中には彼以外の客はおらず、カチカチと時計の秒針が動く音くらいしか聞こえない。


「……」


 ――もう少しで来るだろうか。


 そう思ったときだった。


「待っている間、お茶でもどうだい?」


 時計屋の店主が、店の奥から声を掛けた。


「気にしなくて大丈夫ですよ。待たせてもらっているだけで十分です」


 遠慮がちに断ったが、店主は店の出入り口に立っているリックスを手招きする。


「そんなことは気にしなくていいんだよ。ちょうど客もいないし、私の話し相手にでもなっておくれ」


 店主はすでにお茶の用意をしていて、店の奥にあるガラスケースの上には、湯気が立っているティーカップと焼き菓子が用意されていた。


 リックスはふっと笑うと、「そういうことなら」と言ってガラスケースがある方へ寄った。


「いただきます」

「召し上がれ」


 出されたお茶は、ほっとさせる香りがする。この茶は、店主の妻が作っているのでここでしか飲めない。学生だった頃は、よくここで飲ませてもらっていたが「国境の番人(イーガルド・フォー)」として国境付近に行くようになると、疎遠になってしまった。


 作戦はあるし、常に緊迫した状況にある場所では里帰りも容易ではない。少将という地位を与えられてからは、だいぶ自由が利くようにはなったが、それ以前はファイレーンに帰るのは、1年に1度帰ることができたらいい方だった。


国境の番人(イーガルド・フォー)」に着任し、六年が経ったころ、久しぶりにこの時計屋に寄った。時計を買うつもりではなかったのに、店主はいつも通り、リックスが来ると学生のころのようにお茶を淹れてくれたのだった。


 戦いに疲れ、身も心もすり減っていたからだろうか。六年ぶりに飲んだお茶は、ほっとさせてくれたのを覚えている。


 ――故郷に帰って来た。


 そう思うということは、リックスにとってこれは故郷ふるさとの味なのだった。


「相変わらず、美味しいお茶ですね」

「ありがとう。そう言ってくれると、妻も喜ぶよ」


 微笑まれて、リックスは笑みを返した。それは軍人として浮かべる笑みとは違う、自然で青年らしさのあるものだった。


「無理はしていないかい?」


 店主に問われ、リックスは困ったように笑う。


「していないと思います」

「そっか」

「おじさんは、お変わりありませんでしたか?」

「うん。お陰様で」

「それなら良かった」


 そのとき、時計屋のドアが開き、チリンチリンとドアに付けている鈴の音が鳴る。リックスがそちらの方へ顔を向けると、そこにはコートを羽織ったクディルが立っていた。


「ごめん、待った?」


 クディルに問われ、リックスは優しく笑う。


「いいや。ちょうどいいくらいだよ」

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