第73話 奔走
北の山を訪れてからの二週間、マルスはリセムスのところに足繁く通うことになった。
しかし、本来彼は部署の違うリセムスとの接点はほとんどない。そのため最初の二日間は、メレンケリに助けてもらいながら話をするための時間を作ってはみたが、そう容易なことではなかった。
なぜ、マルスが仕事の合間に別の部署の大尉を訪れるのか——。
そこからさまざまな推測が噂話となったのである。
部署異動のためにしているのではないか、という憶測も聞こえたが、別のことを口にする者もおり、周囲の目から逃れるのが一苦労だった。
しかしそのとき、思わぬ助っ人が現れた。リックス・レイダルである。彼が、リセムスとの会話を始め、色々なことについて手助けをしてくれたのだ。
リックスは軍事警察署でも一目置かれた存在。しかも「国境の番人」の任に就いているというと、実力も伴っている。そんな彼が、勤務中のマルスを呼び出すとなると、彼の上司すら何も言えない。それに何を聞いてもリックスがのらりくらりとかわすので、聞きようがないのだ。
またあちこち連れて行っているのを見ると、はた目からは「地位も力もある人間が無理矢理マルスをあちこちの部署に連れ回している」ように見える。実は、リックスは自分の一番近い部下に対して、無理難題を命じるときがあるという噂があり、それが真実かどうかは別としてよいカモフラージュとなった。
その上、リックスが本当に雑用をマルスに押し付けることもあったものだから、誰も羨ましいと思わないので、近づこうともしない。しかもその内容が、本当に難しいものなので猶更である。
マルスはリックスに押し付けられた雑務を片付けつつ、自分の仕事もこなし、その上リセムスとの時間をとってサーガス王国に関する話をしていたため、当然睡眠時間を削られた。よって初めの一週間ほどで隈が出来たが、お陰で周囲の関心がなくなったのである。その頃には、リックスがマルスを呼び出しても「またか」と思うくらいで済むようになっていた。
そしてマルスの苦労がようやく形となり、グイファスとリセムス、リックスが対面することになったのである。
マルスが奔走してから二週間。
その日は、取調室にグイファス、リセムス、リックス、マルス、メレンケリが揃った。そしてグイファスの話を見極めるために呼ばれた、中将のアッサム・レシカとリセムスの上司である少佐のセシル・アイナンも同席している。
アッサム・レシカは、軍事警察署実質戦闘部隊に所属する一人であり、ジルコ王国全体の警察署の管轄を行っている五十代の男である。彼が呼ばれたのはリックスの人選で、話をして通じる相手であり、上に話を付けてくれる可能性があるからだ。
セシル・アイナンは、軍事警察署調査部に所属する一人であり、リセムスの上司でもある。中佐や大佐を連れてきた方が良かったのだが、その大佐はリッチャー・ヒベロクである。メレンケリにグイファスの監視を無理矢理押し付けた人物だ。
彼はサーガス王国に対して敵対心を持っているとの専らの噂で、ここへ連れてきた日にはまずいことになると予想された。また、リッチャー同様、中佐も同じことが言えたので、その下にいるセシルが呼び出されたのである。




