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第72話 もう一人

 一方でグイファスとマルスは、連れ立って軍事警察署にあるグイファスの部屋(宿舎G1、三階の303号室)と戻ってきていた。


「さて、これからどうするかな……」


 マルスは椅子に座りながら呟いた。

 しかし、すぐに「いや、それよりもまずはグイファスを解放してもらう方法を考えないと」と、言い直す。大蛇のことは心配だが、まずはグイファスを自由にしなければ何も始まらない。


「俺が解放される方法はないに等しいだろうな……」


 テーブルを挟んだ向かいに座るグイファスが、ポツリと呟く。それに対し、マルスはため息をついた。


「ジルコ王国の国境を越えたことも、貴族の邸宅に無断で忍び入ったのも立派な罪だからな……」


 そして、キッとグイファスをねめつけた。


「グイファスがもっと先のことを考えて行動していたら、こんなことにはならかったのに」


 マルスの少しきつい物言いに、彼は困ったように笑う。


「すまない」

「笑っている場合か!」

「しかし……」


 すると、マルスはテーブルを叩いて立ち上がった。


「お前しかサーガス王国と通じる奴がいないのに、そんな呑気なことを言っている場合か!」


 グイファスは新しい友を目を丸くして見つめた。こんなにも心配してくれている人がジルコ王国(この国)にもいる。それが嬉しかった。


「……すまない」

「なんで嬉しそうに言うんだよ」

「マルスが優しいから」

「なっ……!」


 思いもよらぬ言葉に、マルスは恥ずかしくて赤面する。


「お、おお、俺は別に! メレンケリのことを心配しているだけだからな! グイファスのことは心配していない!」


 取り繕うように慌てて言うが、グイファスには彼の心が透けて見えているようで、にこっと笑ってお礼を言った。


「分かっているよ。でも、ありがとう」


 マルスは恥ずかしさを隠すように、そっぽを向き、少し熱が冷めるとそろそろと椅子に座り直した。


「……だけど、このままじゃ何もできない。俺は軍事警察署のなかで大して力がないから、まずは話が通じるであろう、リセムス大尉に話そう。今回北の山に行けたのも、大尉の協力があってのことなんだ。だから、きっと力になってくれる」


 マルスの提案に、グイファスは大きく頷いた。


「分かった。頼む。それから私からもサーガス王国の現状について、大尉に話をさせてくれ」


「もちろんだ。俺やメレンケリが代わりに話すよりも、事実がきちんと伝わるだろうし……そうできるように取り計らう」


「それからメレンケリのことも話さなくては。彼女の力を借りなければならないから」


 グイファスが「彼女の力を借りる」と言ったとき、マルスの頭には色んな問題が浮上した。


「そうだった……、それもあったんだった。フェルさんのところにいたときはよく考えなかったけど、『石膏者せっこうしゃ』をジルコ王国から連れ出すとなると、多分大事(おおごと)になるぞ」


「だろうな。しかしここで悩んでいても仕方ない。とにかく一つひとつ、できることをやっていこう」


 マルスはしっかりと頷く。


「そうだな」

「ただ、俺の解放を考えるのは最後でいい」

「……は?」


 マルスはきょとんとする。グイファスを解放しなければ、サーガス王国との話し合いも出来ない。メレンケリをサーガス王国に送る、ということは、ジルコ王国の力を貸すということなのだ。彼女は軍事警察署に所属する軍人の一人。そのためこの件に関しては、ジルコ王国はもちろん、サーガス王国も納得しなければならない。


 よって、二つの国の仲介をグイファスが行うとばかり思っていたマルスは、「解放を最後にしていい」と言われて耳を疑ったのである。


「馬鹿なことを言うな! グイファスが解放されなかったら、サーガス王国に連絡することだった出来ないんだぞ。そりゃ、こっちの軍人を送って話をするという手もあるだろうけど……、そんなことをしたら大蛇を葬り去るより前に、二国間で戦争が始まるぞ」


「分かっている」


 するとグイファスは、向かいに座るマルスの右腕を軽く手で叩いた。


「大丈夫。サーガス王国に行って話が通じる奴が、もう一人、この国にいるのだから」


 マルスは目を何度か瞬かせて、目の前に座る異国の友人が言っている意味を理解すると、眉を寄せて「はぁ⁉」と声を出していた。

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