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第67話 まじない師の息子、クディル

 メレンケリが北の山に行っている間、彼女の父であるガイスは自室に客人を迎えていた。


 彼は木くずにまみれた部屋に二人分のお茶を持ち込み、木の椅子に座って待っていたその人にカップを渡す。


「今頃、娘は君の家にお邪魔しているはずだけど、会わなくて良かったのかい?」


 すると、客人は「ありがとう」とカップを受け取りながら、微笑を浮かべた。


「ええ。私はあなたに手紙を貰ってから、母と話し合い、このようにすることを決めていましたから」

「そうか」


 お茶を渡されたその人は、耳までかかるごわついた黒い髪が特徴で、骨格のしっかりとした若者だった。服装は切れ端を継ぎ合わせたような生地でできており、手は寒いのか寒くないのか、指先があいている手袋をはめている。少し変わった格好をしたその若者の名は、クディル。フェルミアの息子だった。


 彼は目の前に座ったガイスをちらりと見る。クディルは背を正せばガイスと同じぐらいの目線になるはずなのだが、猫背が癖になっているせいで常に彼を見上げる形になった。


「母は、メレンケリさんたちに呪術師やまじない師のことをはじめ、石になる力を持った右手やその過去について全て話すと」


(会った日に、全てを話すとは……。そこまで急ぐ必要があるのか?)


 ガイスが右手の力のことを教えてもらったのは、メレンケリよりも若いときだった。彼は大切な友人を石にしてから家に引きこもり、それを心配した父(メレンケリの祖父)が、北の山に住むまじない師の元に連れて行ってくれたのだ。


 そのとき、フェルミアはすでにまじない師として活動していたが、右手の話をしてくれたのはフェルミアではなく、彼女の父親だった。そして、ガイスは少しずつ右手の力のこと、自分の手に宿った経緯や向き合い方などを教えてもらっていったのである。それを全て知るまでには、三年の時を要したのだが、メレンケリにはそのすべてを今回会った時点で伝えるという。


 クディルの言葉にガイスは何かを感じ取りつつも、静かに尋ねた。


「……その理由は?」

「サーガス王国の大蛇です。噂を耳にしたことはございませんか?」


 ガイスは顎を撫でながら「いいや」と答える。


「そうですか」

「差し支えなければ、聞きたいのだが」


 クディルは頷いた。


「ええ、勿論。サーガス王国を守っていた大蛇がいたのですが、それが姿をくらましたのです。そして、いつしか人を襲うようになったようで。近頃その噂でもちきりです。いつ誰が襲われるのか、気が気でないと言うように」


「姿をくらました蛇が犯人だとどうして分かるのだ。森から逃げた蛇かもしれないじゃないか」


「森から逃げた蛇だったら、城の一角の塔を絞め壊すなんてしませんよ」


 クディルの話に、ガイスは驚いていた。


「大蛇とは……それほど大きいのか」

「ええ。元々国を守るほどの大きさですからね」

「国を守る?」


「サーガス王国の国王と盟約を結んでいたんです。国を守るという約束をしていたようで。しかし、大蛇はそれを裏切ったようです」


「……それが人を襲っているというのは、大事だな。しかし、なぜ捕まらないのだ。それほど大きかったら何とかなるだろうに」


 ガイスの指摘に、クディルは首を横に振る。


「残念ですが、大蛇は知恵を持っておりまして、言葉も喋れますし、姿も変えることができるのです。そのため、今は人の姿を取っているのです」


「その人の姿とは? 君は見たことがあるのか?」

「あります。物陰からひっそりと」

「どういう姿をしていのだ?」

「それが……」


 だが、クディルはガイスの質問にすぐには答えられなかった。


「どうした?」


 催促され、クディルは悩んだ末に答えた。


「申し上げにくいのですが、あなたのおばあ様のお姿をしていたのです」


 クディルの真実に、ガイスは言葉を失った。

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