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第61話 命を懸けるか否か

 メレンケリはそろそろと、グイファスの方に視線を向ける。すると彼はフェルミアからメレンケリに視線を移したが、すぐにフェルミアに戻した。


「ここにないのであれば、諦めるしかない。ジルコ王国にあるであろう封印の石を探すだけだ」


「それならそれでいいが。どれほど時間がかかることだろう。お前は貴族の家に不法侵入して捕まっているし、密偵の疑いもかけられている。つまり信用が置けない人間だ。そんなお前の話を、誰が聞いて協力してくれるだろうか?」


「それは……」


「危機が迫っているからこそ、急いでいたのだろう。そうじゃなきゃ、貴族の家に無断でなんて入ろうとはしないさ」

「……」


 フェルミアはグイファスの顔に自分の顔を近づけた。


「それでもお前は冷静だね。本当は急いで国に帰りたいと思っているだろうに、そうしない。それは封印の石を手に入れられなかったからか。それともメレンケリという存在を知ったからかな」


「……やめて下さい」


「凄い力だと思っただろう。触れたものを全て石に変えてしまうのだから。この力があったら大蛇を何とかできる、そう考えていたのではないか?」


 その瞬間グイファスはテーブルを叩いて大声を出した。


「やめろと言っているんだ!」


 部屋の中がしんと静まりかえる。マルスはグイファスを慎重な様子で眺め、メレンケリは困ったように視線をせわしなく動かしていた。これほど心を乱されているグイファスを見るのは初めてだった。


「俺は、そんなつもりで彼女と接していたわけじゃない……!」


 ずっとひた隠して来たのだろうか。一人称も、「私」から「俺」に変わっている。メレンケリはじっと二人の話に耳を傾けた。


「どうだか」


 フェルミアの反応に、グイファスは彼女を睨んだ。


「あなたには分からないだろうが、彼女はその右手の力でずっと悩んできたんだ。人を石にするたびに、酷く落胆しているようだった。心は擦り切れているにも関わらず、一人で悩んで。人に心配を掛けたくないから感情も出さなくなって……そんな優しい彼女に、どうしてそんなことを考えようと思えるんだ……!」


「じゃあ、どうするんだ」


 フェルミアはグイファスの言葉にも揺るぐことなく尋ねた。


「諦めるのか」


 グイファスは一度俯いたが、すぐに顔を上げフェルミアを見た。まるで挑戦者のごとく、力強い意志が灯った瞳だった。


「封印の石にも頼れないというのなら、俺は自分で戦いに行く。大蛇は俺が葬り去る」


 するとフェルミアが鼻で笑った。

「剣で戦えないから、封印の石が必要だったのではないのか?」


「そんなのは分かっている。だがそれでも、メレンケリの力を借りてまで成すことじゃない。確かに国民の命はかかっているかもしれないが、俺は彼女には辛い思いをしてほしくないんだ。だったら俺がやれることをやるだけだ」


「その命に代えてでも?」


 グイファスはフェルミアの問いに言葉を詰まらせた。


「それは……」


(命に代えてでも……だと?)


 彼は命を懸けてまで、大蛇を倒すつもりはなかった。確かにサーガス王国では大蛇が問題になっている。しかし、己の命を懸けて奴を倒すことができたならいいが、そうでなかったら何の意味もなさない。


(命に代えてでも奴を倒すことは正しいことなのだろうか……)


 そう思ったとき、ふとメレンケリを見た。彼女は心配そうな顔を浮かべ、胸の前で祈るように手を組んでいる。その姿を見たとき、彼は「生きたい」と思った。


 彼女と共に、「生きたい」と。


 彼は長い沈黙の後フェルミアの質問に、首を横に振った。


「命を懸けるなど、簡単には言えない。だが、勝負がつくまで手を尽くす」

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