第6話 兄の友、マルス・リコア
この日、予定されていた取り調べが終わったのは、十八時を回ったところだった。彼女の仕事は、予定分が消化されればそれで終わりである。
しかし今日は仕事が立て込んでおり、普段よりも二時間も遅くなってしまった。その上、グイファスとやらのせいで、疲れはいつもの数倍のように感じられる。
(帰って休もう……)
職員室で、自分の机の上の片づけをしながら帰る準備を支度をしていたとき、
「メレンケリ」
と、彼女の背に声をかけた者がいた。
振り向くと、そこにいたのは白い肌をし茶色い髪をした、体格のいい男だった。
「大丈夫か? グイファスって奴の取り調べが大変だったって聞いたけど」
彼の名はマルス・リコア。軍人であり、メレンケリの兄・トレイクの友人である。グイファスの取り調べの担当ではなかったが、誰かから聞いたのだろう。そのやり取りについて心配していたようだった。
「……何がでしょう?」
マルスが何を心配してメレンケリに聞いていたのかは分かっていたので、あえて気づいていないふりをする。
するとマルスはため息をついた。
「『変な質問をされたこと』に決まってるだろ」
「何も問題はなかったはずですが」
そう言いながら彼女は「お疲れさまでした」と挨拶をし部屋を出たが、マルスは彼女の後を追ってきた。二人はコンクリートがむき出しになった廊下を辿って、出口に向かって歩く。
「石になったりんごが『元に戻るのか、戻らないのか』って聞いたらしいじゃないか」
マルスが尋ねると、メレンケリがぴたりと歩を止める。急に止まったので、マルスは危うく彼女にぶつかりそうになった。
「わっ」
驚くマルスのことは気にせず、彼女は振り向くとむすっとした顔で言った。
「変なのはいつものことですよ。彼だけが特別ってことないです」
「いつも変って……でも君に、わざわざ石になったものを元に戻すか、戻さないか聞いてきた奴なんて今まではいなかっただろう?」
その問いに、メレンケリは彼から目線を逸らして答える。
「……いましたよ」
「ホントか?」
重ねて問われメレンケリは俯くと、諦めて正直に答えた。
「……嘘です」
「ほら、見ろ。しかもやっぱり、気にしているんじゃないか」
メレンケリはため息をついた。マルスには適わない。兄のトレイクは、メレンケリの力を心配して、友に「妹をよろしく」といつも言っているせいか、彼はよく見てくれている。そのためよく気が付くし、その上優しい。
メレンケリは観念して、本心を打ち明けた。




