第55話 大地の神と呪術師
「勇者……呪いの代償……?」
メレンケリが驚いて目をぱちくりさせていると、フェルミアは笑った。
「その話はもう少し後で。私たち呪術師の話をしてからだ」
メレンケリは今すぐにでも聞きたかったのだが、渋々と頷く。
「……はい」
フェルミアは「いい子だ」と言って、彼女の手をぽんぽんと軽くなでると呪術師について続きを話した。
「それで、恐ろしいものを生み出すと言ったが、『大地の神』は人々の感情を敏感に感じ、その感情に力を与えようとする。何故そうなるのかはよく分かっていないが、多分人の感情を《《種》》のようなものだと思い込み、そこに成長するための力を与えてしまうのだろう、と私たちは考えている。そして、その感情に力が与えられると、欲望や憎しみ、嫉妬と言ったものが人から離れ具現化し、ときには森に棲む動物や生き物たちに寄生し、人を襲ったりするようになるのだ。そして、それを清めるために生まれたのが、私たちの祖先である呪術師と言うわけだ。
そして呪術師は、『大地の神』の力を少し分けてもらうことができて、『大地の神』が判断しきれなかった『悪』の存在を浄化させていたんだ」
「成程」
マルスが頷き、言葉を続けた。
「しかし、それならば呪術師はとても重宝されていた存在でしょう。自然との共存は、我がジルコ王国でも重要視されています。それなのに何故サーガス王国を追いやられ、力も失っているのですか? そもそもなぜ呪術師は我々の国にはいたことがなくて、サーガス王国にはいたのでしょうか?」
「ジルコ王国に呪術師がいないのは、呪術師の発祥の地がサーガス王国だったからだ」
「発祥の地?」
メレンケリの呟きに、フェルミアは頷いた。
「そこには呪術師としての技術を持った先人たちが沢山いて、学び舎もあったようだ。若者たちはそこでよく学んだという。そのため技術も突出していた。だからサーガス王国にいる呪術師たちに、他国から呪術に関する依頼が多くあったと言われている。またサーガス王国では呪術師を重宝していたし、人前で術を使っても、呪術師以外の者もよく知っていたから驚かれなかったし差別もなかった。その一方で他の国ではやはり変な術を使うせいで敬遠されたことがある。あとは、呪術師というものとを知らない人間が、『呪術師』と名乗って怪しい商売をしている輩もいた。そのため『サーガスの呪術師』として動いた方が、信頼もあったし仕事がしやすかったんだ」
「そういうことか……。だからジルコ王国には、呪術師がいた歴史がないんだ」
「しかし、安定した暮らしを得ていたと思った呪術師だったが、その後、サーガス王国から追い出されることになる」
「え? どうしてですか?」
メレンケリの問いに、フェルミアは静かに答える。
「王国が戦争を始めたからだ」
「戦争……」
メレンケリの呟きに、グイファスが眉の皴を濃くした。フェルミアは視線の端でそれを捉えつつも、続きを話す。
「しかもその戦争の仕方が森や山の木々を切り倒し、新しく防壁を作ったりしたせいで、自然の秩序が大いに崩れた。これにより私たち呪術師は強く反抗をした。だが、当時の国王にとってはその抗議が煩かったのだろう。意に反した者を追放したのだ。それから自然と人との間を取り持たなくなった呪術師は、『大地の神』の加護が少しずつ消え去り、徐々に新しい道具を作ることもできなくなった。
それでも私のように山から離れられない者もいる。そういう奴らはこうやって山で身をひそめ、以前のようにはいかないまでも、自然にある力を使ってメレンケリが使っている手袋なんかを作っているのさ」
フェルミアの話を聞いて、メレンケリは緑色の手袋をじっと眺めた。




