第51話 まじない師、フェルミア
「私の名前は、フェルミア。フェルと呼んでくれ」
フェルミアはメレンケリ達を、玄関から通じる廊下から左に入った部屋へ案内した。
室内の中央には、長方形で重厚感があるテーブルが置かれている。それの右手にはダイニングキッチンがあり、左側には壁に押し付けられた大きなソファが配置されてあった。大きなソファの方には、大きな窓があるので、天気が悪いにも関わらずキッチン側と比べると明るい。フェルミアはそこで作業をしていたのか、布生地が周囲に散乱していた。
だが、外は雨が降っており暗かったのだろう。まだ時刻は昼過ぎだったが、テーブルの上にはランプが置かれ、火が灯っていた。
電気が通っていない山奥であるがゆえに当然ではあったが、強い光を放ち、思った以上に明るい。
「このランプの光、何でこんなに明るいんだ?」
マルスが疑問に思って、ランプをまじまじと見た。
「熱エネルギーよりも、光のエネルギーに変換しやすい物質を燃やしているんだ。ただそれだけのことだよ」
フェルミアは当たり前のように答えた。
「光のエネルギーに変換しやすい物質って?」
マルスが尋ねると、フェルミアは鼻で笑う。
「お前はただの付き添いだろ。それとも明るいランプを作るための助言でも聞きに来たのか。それならそれで対価がいる。情報は取引だ。タダでもらえると思うな」
マルスはフェルミアの言葉に顔を引きつらせた。
「なっ……」
「勘違いするな。聞きたいことは教えてやってもいいが、私は自分にも価値があるものとの交換をしなければ取引はしない」
そう言って、フェルミアは言葉を続けた。
「まじない師なんて、どこから見ても胡散臭いだろ。だからかな。サーガス王国が住みにくくなり、私の祖先はジルコ王国へ移った。だがここでもひどい扱いだ。草をいじってるとか、変な薬を作っているとか嫌な噂ばかり立つ。その癖に、噂を立てた奴は自分が困ったら縋りついてくる。知恵のないやつらがいけないのに、泣きべそをかいて助けてくれと言ってくるんだ。
そういうやつを幾度となく見てきた。だから私から何かを聞くときは、必ず対価を支払ってもらっている。シビアに。金での取引だ」
「お金を払ったら答えて下さるんですか?」
メレンケリが尋ねると、彼女はすかさず頷く。
「そうだな」
しかしその後にフェルミアは目を細め、メレンケリを見た。
「だが、お前は特別だ。私の祖先から託された存在だからね。聞かれたことに関しては、対価なしで全て答えてやるよ」
「どうしてそんなに親切なんですか?」
マルスとの対応の違いに驚くと、フェルミアは当たり前と言わんばかりにこう言った。
「右手の力。それは我々が招いてしまった出来事が原因だからね」
「我々が招いてしまった出来事……?」
メレンケリは首を傾げていると、フェルミアは「まあ、まずはお座りよ」と言って三人を席につかせた。
グイファスとマルスが部屋の出入り口の方、メレンケリがその反対側にフェルミアと並んで座った。
それからフェルミアが思い出したようにお茶を出してくれた。マルスには「取引はお金だ」と言っていた人だが、その飲み物代は徴収されなかった。案外優しい人である。
出してくれた飲み物と言うのが、濃いお茶に熱々のミルクで割った「ミール・キース」というものである。雨の中歩いてきたので、温かいお茶が有難かった。三人は美味しく頂き、お陰で体の芯から温まったのだった。




