第50話 挨拶
すぐに三人に近づくことはなく、廊下の一番奥の位置から腹に響くような強い声が発せられる。グイファスはそっとメレンケリを離し、その女性に向き合った。
「私の名は、グイファス・ライファ。サーガス王国の者です」
グイファスが女性に問われた答えとして自己紹介をしたので、メレンケリも挨拶をした。
「私はメレンケリ・アージェです。ジルコ王国の者です」
「俺はマルス。マルス・リコア。彼女と同じく、ジルコ王国の者です」
女性は見定めるように三人を遠くから眺めると、また質問をした。
「私に何の用だ」
「あなたがまじない師であることを前提にお話いたします。今、我が国では封印の石が必要で、あなたを訪ねました」
グイファスが答える。
「我が国……つまりサーガス王国のことだな。他の二人も同じ理由か?」
女性の鋭い視線がメレンケリとマルスに向けられた。
「俺はただの付き添いです」
メレンケリはグイファスとマルスを見て、そして女性に視線を戻すと遠慮がちに言った。
「私は、自分の右手のことで……」
「右手?」
「はい」
すると女性がつかつかとメレンケリに近づくと、いきなり右手を掴んだ。まじない師であれば、このように異能のある手を恐れずに触れることもできるのだなと、メレンケリは思いながら、じっとしていた。
女性はまじまじとメレンケリの手袋を見ると、今度はメレンケリに視線を移した。
「お前、ガイスの娘か?」
ガイス・アージェ。
それはメレンケリの父の名である。
「え? はい、そうです……」
「では、お前はメレンケリだね」
「はい……」
メレンケリは気圧されながらも、こくりと頷いた。
「ここのことはお前の父親が教えてくれたのか?」
「はい」
女性は考えるしぐさをした後、メレンケリを見て、そして彼女の後ろに視線を移す。
「……?」
そこに何があるのか。メレンケリは不思議に思って振り向いたが何もなかった。
「あの……?」
「その様子だと、メレンケリは知らないようだね」
「え?」
そして女性はマルスとグイファスを交互にじろりと睨んだ。
「まあ、後で説明してもらうとしようか」
そう言いながら、女性は三人の間をすり抜けるように外に出ると、家の周りで育っている数本の木に近づき、持っていた煙管でその幹を軽く叩く。理由はよく分からなかったが、彼女がそれを終えた後、木々の間の空間が一瞬歪んだような気がした。
(気のせい……?)
「さあ、これでいいだろう。中に入れてやるからお入り」
女性はそう言うと、さっさと家の中に入ってしまう。三人は女性の背を見つめたのち、顔を見合わせると、後を追って家の中に入ることにした。




