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第49話 風ノ術

 まじない師の家は、木でできた平屋だった。外から見た限りは、小さい印象である。家の窓には、葉っぱを乾燥させるためなのか紐に吊るして幾つか掛けてあった。


「変わった家だな」


 マルスはそう呟いた。ジルコ王国に住んでいる者であれば、誰もがそう思うに違いない。平屋はあるがそれほど多くはないし、ほとんどが石造りである。また、窓に何かを引っ掛けておくというのも、田舎ではあるかもしれないが都市部では見ない。


 ただ、そのなかでも、メレンケリが素敵だなと思ったものがあった。出入り口にあったランプである。それほど強くもないが、日中でも付けているようで、柔らかな光が客をもてなしているかのようだ。


「行こうか」

「ええ」


 グイファスに促され、メレンケリは玄関に立った。マルスは少し後ろの方で、様子を見ている。


「こんにちは」


 ドアを叩いて挨拶する。しかし、返事はない。


「まさか、留守……?」


 心配そうに呟くと、グイファスが否定する。


「いや、俺の国にいた呪術師も家にこもっていることが多いと聞いている。多分、聞こえないだけだろう」


 そう言うとグイファスは少し迷ってからドアノブに手をかけた。


「おい、まさか勝手に開けるんじゃないだろうな?」


 不安そうにマルスが尋ねる。ジルコ王国ではノックをして誰も出て来なかったら、引き返すのが習わしだ。


「いえ、そのまさかです」


 そして扉を開け、大きい声で挨拶をしたのである。


「すみません! お尋ねしたいことがあるのですが!」

「本当にやりやがった……これ、怒られるぞ……」


 マルスが怯えながらそう言った時である。

 家の奥から奇妙な音が聞こえた。


「何の音?」

 メレンケリは耳を澄ませる。するとその音が次第に大きくなって聞こえて来る。

「風……?」

 そして「ひゅうおぉ……!」という風音が聞こえたと思うと、突然メレンケリたちに向かってその風が飛んできた。


「きゃっ」

「危ない!」

「うわっ!」


 メレンケリはグイファスにかばわれて家の脇へ避難し、マルスはグイファスに押されて何とかその風にぶつからずに済んだ。

 風は外に出ると滞空し、メレンケリ達の周囲に強い風の渦を作ったが、まるで絡んだ糸がするりと解けるように力の塊がなくなり、その場からさあっと消えてしまった。


「何だ、今の……」

 マルスが驚いていると、グイファスは淡々と答えた。

「呪術師……いや、まじない師の『風ノ術』だ」

「『風ノ術』……?」


 メレンケリがグイファスの腕の中で呟くと、家の奥から中年の女性が出てきた。

 長い油っ気のないぼさぼさの髪を高い位置で一つに結わえ、麻生地でできているような白く長いワンピースに不思議な模様のベストを羽織っている。そして手には、羅宇ラウの長い煙管きせるを手に持っており、腕を組んでメレンケリ達を見つめる。その目は細く鋭かった。


「お前たちは誰だ」


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