第48話 到着
天候は、次第に悪化していった。
曇り空から涙が零れ落ちるように、ぽたぽたと冷たい雨が降り始める。木々が生い茂っているせいもあってか雨脚は強くなかったが、土を湿らすには十分な量だ。
三人は山を上る準備をきちんとしてきたので、雨具を身にまとい、これから冷えることも備えて防寒の対策もしていた。だが、ぬかるんだ足元はどうしようもない。
「わっ!」
メレンケリは足を滑らせて前のめりになった。両手と片膝が地面につく。するとグイファスがすぐに手を差し伸べてくれた。
「大丈夫か?」
「ええ」
メレンケリは反射的にその手を掴もうと左手を出そうとするが、その瞬間頭の片隅でブレーキがかかり引っ込めようとする。
だが見かねたグイファスは自分の腕を伸ばし、メレンケリの手を掴むとぐいっと引き上げる。そして彼の広い胸に寄りかかるような格好になった。
「あ、ありがとう……」
メレンケリは恥ずかしくて彼の顔をまともに見れなかった。すぐに離れようとすると、グイファスは掴んだ彼女の左手を強く握ってから、そっと離した。
「左手に触れても石にはならない。だろ?」
グイファスはそう言うと、またしっかりとした足取りで前へ進んでいく。メレンケリはきゅっと左手を胸に当てると、彼の背中を追った。
「……」
マルスは、その二人の様子を黙って眺めていたが、メレンケリがちゃんと歩きだしたのを見て、再びその後ろをゆっくりと歩を進めた。
三人の足取りは順調だった。警察署を出て三時間ほどかかったが、何とか山の中腹より先にあった一軒家に辿り着いた。
「着いた……」
メレンケリは平らにならされた大地に立ち、ほっとする。ずっと坂を上って来ていたので、真っ直ぐな場所に立つと足が楽になったためだ。
一方でグイファスとマルスは、メレンケリに聞こえないように、小さな声で話をしていた。彼女に余計な心配をかけさせない為である。
「後ろはどうでしたか?」
グイファスがマルスに尋ねる。すると、彼は肩をすくめた。
「ついてくる気配はなかった。だが、この雨だ。足跡が土にくっきり残っているだろう。後を追おうと思えばできる」
「しかし、いくつか分かれ道があったでしょう?」
マルスは頷いた。
「その辺りは、上手く消しておいたつもりだ。だが、分かれ道のないところはさすがに消してない。先に進めば、彼らも俺たちの足跡を見つけられるだろう。もっと強い雨が降らなければ、消えるんだけどな……」
グイファスは頷いた。
「そうですね」
「あの、二人とも? どうかしましたか?」
メレンケリが二人に聞くと、グイファスもマルスも笑顔を見せた。
「今、行く」
「何でもない」
変な笑顔だったが、メレンケリはその理由には気づかなかった。それよりも二人が仲良く話している姿が新鮮で、不思議と嬉しい気持ちになっていた。




