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第47話 信じている人がいるから、信じてみる

「メレンケリは信じているのか?」


 マルスはメレンケリの方を向いて尋ねた。


「私は……自分の能力のこともあるので、半分は信じています」

「右手の力か」

「はい。グイファスの話では、サーガス王国にいるのは呪術師と言われる人たちなのでしょうけれど、私の力を抑えてくれているこの手袋を作ったのが、まじない師と呼ばれる人たちならば、もしかしたら本当なのかもしれない……と思うところはあります」

「……そうか」


 するとマルスは急に真面目になり、長い溜息をく。

 それはまるで自分の中にある、何か重苦しい気持ちを吐き出すようなしぐさのようにも見えた。

 暫く彼らは黙って歩いていたが、マルスが足元を見ながらこんなことを呟いた。


「もし……仮に、だぞ。それが本当だったとしたら、大変なんだろうな」

「え?」


 グイファスはマルスの意外な言葉に、思わず目を丸くした。


「今、なんて……」


 マルスは不機嫌な顔をしながらも、言葉を続けた。


「俺はあんたの話を信じてはいない。信じてはいないが、メレンケリも俺の信頼のおける人もあんたの話を信じている。だから……絶対に嘘だとは言い切れない」

「……」

「だから! 俺が言いたいのは、もしその話が本当だったとしたら、大変なことだろうなと思っただけだ!」

「……」


 グイファスは金色の瞳で、マルスを見つめた。自分は信じていないくせに、しかしそれを信じている人たちのことを裏切りたくなくて、そんなことを言ってくれる軍人がいると思わなかったのだ。

 グイファスは目を細めて笑った。


「あなたは……いい人ですね」


 ぽつりと呟くと、マルスは虚を突かれたような顔をし、すぐに顔をあらぬ方向へ向けた。


「褒めたって無駄だ」

「ええ、分かっています」

「……」


 二人のやりとりに、メレンケリは思わず小さく笑う。もしかすると、案外気が合う二人なのかもしれない、などと心の中で思っていた。

 警察署から約一時間ほど歩いたころ、北の山の麓まで辿り着いた。地図ではこの山の中腹の先にまじない師が住んでいるようだ。

 しかし先程までの晴天が嘘のようで、雲行きが怪しい。空に薄い灰色の雲がかかり始める。


「急いだほうが良さそうですね」


 グイファスが言うと、マルスが空を仰ぎながら頷いた。

「ああ」


 するとグイファスは真剣な顔つきになり、声を潜めてマルスに尋ねた。


「私の《《外出に付いてきている軍人》》は、本当にあなただけですか?」

「は?」


 訝しそうに返事をするマルスに、グイファスは獣のように視線を静かに動かして周囲の状況に神経を尖らせる。


「気配を感じます。数十人くらいいるのではないでしょうか」

「まさか……今回の任務は俺だけ行くように頼まれていたはずだが……」


 だがマルスも集中して、周りの情報を的確に捉えようとする。すると彼の目が一瞬何かをとらえたようだった。


「確かに。君の言う通りだ」


 グイファスとマルスがひそひそと話し合っている一方で、メレンケリは一休みと言った様子で、山の入り口で腰を下ろして座っていた。その時、彼女の目に紫色の小さな花が映った。そして父の過去の話を思い出す。


(父上は、花を石にしていたと言っていたわね……)


 するとメレンケリは徐に右手の手袋を外し、その花に躊躇いがちに触れてみる。


(あれ?)


 だが、触れた花は石にならない。メレンケリは不思議に思ってもう一度触れてみるとが、やはり石にならない。


(どういうこと?)


 首を傾げていると、マルスに声を掛けられた。


「メレンケリ、先を急ごう」

「え? あ、はいっ」


 メレンケリは急いで手袋をかけると、すでにグイファスが先に進んでいた。メレンケリは慌てて彼の後ろをついて行き、さらにその後ろをマルスが歩いた。


「……」


 マルスは何かを確認するように自分の後ろを振り返った。だがすぐに前を向き、歩き出す。

 山道はほぼ一本道だ。細い道の為、三人は一列になって先に進んだ。

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