第4話 盗人、グイファス
メレンケリが「毎日同じことを繰り返している」ように感じていたある日のことである。
この日は、《《貴族宅への不法侵入》》と窃盗の容疑で捕まった男の取り調べがあった。
貴族宅へ忍び入って捕まったという話はあまり聞かないが、窃盗はよくある罪状だ。その理由も様々だが、それに対し彼女はいちいち感情移入することはない。罪を犯した者の悲しい人生に同情していたら、この仕事は勤まらないからだ。
メレンケリはいつものように、取調室の隣にある別室の小窓から軍人が問いただす様子を冷たい瞳で眺める。そこには、二人の軍人と向き合う男がいた。
その男こそ今回捕まった人物なのだが、浅黒い肌をした細身の青年だった。目鼻立ちがはっきりとしていて、きりりとした顔をしている。
(肌の色が……。ということは、この国の人じゃない)
ジルコ王国の人間はほとんど白い肌をしている。メレンケリは自分の推理が正しいことを確認するため、手元に用意されていた書類を見ると、やはりこの国の人間ではなかった。彼は西の国、サーガス王国の出身だったのである。
メレンケリはついでに、改めて彼の罪状について書類で確認した。
(貴族宅への不法侵入したため現行犯逮捕。でもこの国に忍び入ったことがすでに罪だし、窃盗未遂もある。……確か宝石を盗もうとしていたのよね)
犯行に及んだ場所は、公爵貴族の家だった。だが軍人に言わせると「窃盗」が本来の理由であるかが疑わしいという。
盗みに入った貴族の家は、名門中の名門で、下手をするとこの国の軍人、五分の一を動かすことができるほどの権力を持っている。
そのためグイファスは、メレンケリが住む国、ジルコ王国を偵察するために派遣されたスパイなのではないか、と疑われていた。
「何のために、屋敷に忍び入ったのだ」
「貧しくて、お金にするために宝石を盗もうとしました」
「それは聞いた。だが、他に理由があるのだろ。言え」
「ありません」
「他に理由があるだろ、と聞いている!」
「ありません」
熱を帯びて問いただす軍人に対して、グイファス冷静だった。
「ありません」
何の感情も籠らないその一言が、取調室に響く。
メレンケリはそのやり取りを静かに見ていた。
(変わった人……)
軍人に捕まった者たちを見て、初めて芽生えた感情だった。




