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第39話 父の過去(前編)

 父の過去の告白にメレンケリは息を飲んだ。


 自身について語ることはほとんどなく、堅実で、亭主関白な父が冗談を言うはずもない。


「石に……」


 メレンケリが乾いた唇をようやく開いて、ぽつりと呟く。すると父は手を伸ばして、部屋の隅に置いてあった木でできた簡素な椅子をメレンケリに渡した。座れと言うことだろう。メレンケリは黙ってそれに従い椅子に座ると、父は娘に語り始めた。


「私がまだ八歳くらいのときの話だ。あの時はまだ右手の力のことをよく分かっていなかった。手袋をかけるのは鬱陶か《うっとう》しく、嫌でたまらなかった。よく外しては父に――お前の祖父に怒られていた」

「……」


 父にもそういう時期があったことが意外だった。


 メレンケリも幼いころ、庭で遊んでいた際に手袋を外していたことがある。それは彼女が手袋を外したのは、単に開放感を味わいたかったからだ。家の中ではちょっとでも何かに触れると石になってしまうので、外なら大丈夫だろうという考えから、時々手袋を外してはその手で風を感じていた。もちろん、何かに触れることがないように、細心の注意も払っていた。


 幼い子供にとって、家でも外でも手袋を付けていなければならないというのは、煩わしいことこの上ない。そのためこの僅かなときが、メレンケリにとっては大切な時間だったのである。


 しかしそうやっているところを父に見つけられたときは、こっぴどく叱られたことを鮮明に覚えている。


(あの時の父は恐ろしかった。後ろから近づいてきて、私が振り向いた途端、何も言わず頬を思い切り叩いた……)


 それは幼い娘にやるにしてはあまりにも強すぎる力だった。

 メレンケリは訳が分からず、初めはきょとんとしていたが、その後恐ろしいほどの怒りを父にぶつけられた。メレンケリは当然のごとくわんわん泣きじゃくった。叩かれた頬の表面に痛みが伝わってきて、みるみるうちに腫れてくるのが分かった。


 ――ごめんなさい! ごめんなさい!


 何度も謝った。

 だが、父は許さなかった。メレンケリの右手に手袋をはめると、彼女の襟首を掴み部屋に閉じ込めた。その日の夕食は抜きだった。


 右手に手袋を掛けないと、痛い目に合う。

 この教訓はずっとメレンケリの中にあって、今でも手袋を外すときはとても慎重になる。理屈とかではない。体に染みついているのだ。


「私は、お前のように親の言葉に聞く耳を持つ子ではなかった。それにお前の祖父も、最初に生まれた私が可愛かったのだろう。何だかんだ言って、許してしまうところがあった。だがそれが悲劇を生んだ」


「……」


「ある日、私が友人と遊びに出かけた時だった。その日は良く晴れた春の日で、私は一番の友達に自分の力を自慢しようと思っていた。野原に咲いた花を、石にして見せようと思ったんだ」


「花を石に、ですか……」


 メレンケリは何が楽しくてそんなことをするのだろう、と思っていると、父がそれを察して説明してくれた。


「大して面白くないと思うだろう。だが私はこの力をよく遊びに使っていて、上手くするとただの石ではなく、表面が象牙色のような深みのある白っぽい石になることが分かっていた。だから綺麗な花を摘み、右手で触れて石にすると、永遠に咲いた花を手元に持っていられるというわけだ」


「石の質も変えられるのですか?」


 メレンケリは驚いた様子で尋ねた。己が人を石にするときは、そんな風になったことがない。いつも灰色で表面がざらざらとした質感の石にしかならない。


「そうだ」


 ガイスは頷いた。


「右手にある力は、触れた物を石にするが、力の加え方の違いによって石の質を変えることができるんだ」


「それも初めて知りました」


 メレンケリがそう言うと、


「知らなくていいことだ」


 と、ガイスは冷たく言い放った。


「それが悲劇を生んだのだから……」

「……」


 ガイスは話を続けた。


「メレンケリは知らないだろうが、子供はキラキラしたものや、変わっているものが好きなんだ。それに私が花に触れると石になる過程も楽しめる。それが面白くて、この右手で遊んでいたんだ」


「でも、どうして友達が石になってしまったんですか?」


 メレンケリはそこが聞きたかった。どうして、父は友人を石にしてしまったのだろうか。


「本当に些細なことだったんだ。実際に花を石にして遊び、野原から帰る時だった。その子が転んだんだ。私は助けようと思って、その子に触れたんだ。だが触れた右手には手袋がかかってなかった。私は楽しさのあまり、普段の癖が抜けてて彼を素手で触れてしまったんだよ」

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