第34話 機会
「ねえ、それじゃあ……呪術師という人を見つけたら、私のこの手の力を消してくれるかしら?」
「え?」
「消せなくてもいいの。封印してくれるとかでもいいの。手袋をかけなくてもいい状態に出来ない?」
グイファスは、勢いよく聞いてくる彼女に少し驚きながらも、顎に手を当てて考える。
「どうだろう。簡単なことではなさそうだけど……」
「どうして?」
「君の父や、祖父もその力を継いできたのだろう? なくすことができるのなら、とっくにしていないだろうか」
メレンケリは首を横に振った。
「父と祖父は私とは違うわ。力を崇めていたもの。あの人たちは、自分にこの力が宿ったことを後悔なんてしていないわ」
自分の生きる方向性を決めた父に腹立たしさが込み上げてしまい、つい強い口調で変えてしまったが、グイファスは彼女のその様子に何かを感じとると静かに頷いた。
「そうか」
「ねえ、その呪術師に会えたら頼めないかしら」
気を取り直して、少し前のめりになりながらメレンケリは尋ねた。だが、グイファスは肩を落とす。
「残念だけど、呪術師の居場所は分からないよ。分かっていたら、『封印の石』を貴族の家で探して捕まったりしていない」
「それもそうよね……」
メレンケリはため息をついた。
「そして呪術師のことなんだが、私よりも君の方が詳しいんじゃないかと思うんだが」
グイファスの意見に、メレンケリは自分を指さした。
「私? まさか。呪術師について、今初めて聞いたのに?」
「しかし、呪術師が作った手袋を君は身に着けているだろう。だったら、君にその手袋を渡してくれた君の父親に聞けば、何か分かるんじゃないだろうか」
そう言われ、そろそろと自分の手袋のはまった右手を見つめる。
「……」
「どうした?」
「気が乗らないのよ。そもそもこの手袋を私に渡したのが父なんだもの」
グイファスは額に手を当てる。彼女がそう思ってしまう出来事には心当たりがありすぎる。昨日、メレンケリの父が彼女の考えを尊重していない、という話をグイファスがしたばかりなのだから。
力は家の象徴。アージェという家を繁栄させてきた力。だから、メレンケリよりも右手の力のことを父は考えている、と。
それを思い出し、グイファスは彼女に謝った。
「すまない、今のは忘れてくれ。別の方法を考えよう」
「……別の方法、あるの?」
「いや、そう簡単には見つからないだろうけど、君が嫌な思いをする必要はないよ」
彼は柔らかく笑う。しかしメレンケリには、とても痛々しいものに見えた。目の前に一つの可能性が見えていたのに、それを閉ざしてしまうことが悪いことのように思えたのである。
確かにグイファスは犯罪者で、今は彼の動きを軍の上層部が神経をとがらせて見極めようとしているくらい、悪いことをした人物なのだろう。
だが、メレンケリと話す彼は、ただ母国の為に尽くそうとしているようにしか見えなかった。そしてそれが作戦の一つだったとしても、これはメレンケリにとっても一つの機会ではないかと思うのだった。
(それでも、何か分かるのなら……)
「いいえ。やっぱり、聞いてみるわ」
「メレンケリ?」
「私、父に聞いてみる」
ずっと受け身だったが、今度は自分の意思で、この力のことを知りたい。そう思った。




