第33話 右手の手袋
メレンケリは自分の右手を覆った手袋を見たが、そんなことはないと首を横に振った。
「そんなことはないわ。だって、これは父が私にくれたものだもの」
「ではその父は誰からもらったんだ?」
問い続けるグイファスに、メレンケリは眉を寄せた。
「もらったって、どうして断言できるのよ。この手袋は代々伝わっているものだと聞いたから、父も誰からもらったのか分からないと思うけど……」
「だけど、君の右手は石にする力を持っているはずだろ。なのにどうしてこの手袋だけ、君の手に一番触れられているのに石にならないんだ?」
グイファスに言われ、メレンケリは頭に稲妻が落ちるような感覚を感じた。
「あ……」
言われてみたら、確かにおかしい。
柔らかく革のような素材でできた、くすんだ緑色に染められた手袋。
小さい頃から当たり前のように付けて、当たり前のようにこの手袋で力を押さえることができると思っていたが、それは確かに不思議なことだと、彼に言われて初めて気が付いた。
「そうね……。どうして、この手袋は石にならないのかしら……」
するとグイファスが徐に、メレンケリの右手を掴む。
「あ、ちょっと待って! あぶな――」
メレンケリが「危ないから、触らないで」と忠告するよりも、グイファスの行動は早かった。
「すまない、ちょっとよく見せて」
グイファスの顔がメレンケリの手の近くにある。
「……っ」
手袋越しに、彼の手の温かさも少しずつ伝わってくる。彼女はどきどきしながら、彼が手袋を見終わるのを待った。
彼は納得するまで手袋を見ると、そっとメレンケリの手を離した。
「見せてくれてありがとう。そしてやっぱり、その手袋は呪術師が作ったものだ」
メレンケリは心臓が早く脈打つことを悟られないように、できるだけ冷静を装って彼に聞き返した。
「何で分かるの?」
「ここを見て」
彼は、メレンケリの右手の親指の付け根を指す。そこには黄色の糸で大樹の小さな刺繍が施されていた。
「彼らは術を施したものに、大樹の印を付けるんだ。だからこれは間違いなく呪術師が作ったものだ」
「呪術師……」
「そうでなければ、とっくにその手袋は石になっているよ」
その時ふと、メレンケリはあることを思いついた。
――力を封印する手袋を作れる人がいるのなら、この力自体を消してくれる呪術師がいるのではないか。
いや、消すことは無理でも、封印することは可能ではないか、と。




