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第32話 滅ぼされようとしている国

 メレンケリは再び考えて、城にあった塔が破壊されたことに話を戻した。


「城の塔が壊された……。もしかして、大蛇は王家に恨みでも持っているのかしら?」

「どうだろう……そこまでは分からない」


 グイファスは目を伏せ、言葉を続けた。


「とにもかくにも、大蛇の一件を何とかしなくてはならないってことになった。そこで現在の国王陛下が、私に『封印の石』を探してきてほしいと頼んできたんだ」


 ――現在の国王陛下に頼まれた。


 グイファスは何気なく言った言葉。それは重要な情報を含んでいた。

 その言葉が意味するのは、グイファスがサーガス王国の要人であるということ。調査部の上層部が、彼のことを「只者ではない」と言っていたが、予想通りだったということだ。


 グイファスはサーガス王国の危機を乗り越えるために、国王直々に任務を与えられた人物。それ相応の信頼があったからこそ、彼に頼んだに違いない。

 しかしメレンケリはあえてそれには触れず、大蛇の方の話を続けた。


「『封印の石』……」


 グイファスは頷く。


「最近めっきり見かけなくなったけれど、昔は呪術師じゅじゅつしという人たちがいたんだ。その人たちが作った道具の一つが『封印の石』なんだ」

「呪術師?」


 メレンケリは問い返した。


「知らない?」


 尋ねられ、彼女は「初めて聞いたわ」と素直に答える。実際、そういう人たちがジルコ王国にいるなど聞いたことがなかった。


「そうか」

「どういう人たちなの?」


「呪術師っていうのは、主に人の悪しき心を受けて、姿が変わってしまった動植物たちを鎮める力を持つ人たちのことなんだ。『封印の石』はそういうものたちを抑えるときに使われる」


「人の悪しき心が、動植物たちの姿を変えるの?」


 グイファスは頷く。


「この世界はね、〝意思〟によって動いていると言われているんだよ。人も動植物も、〝意思〟を持ってそれぞれに生きている。そして影響し合っている。いい意味でも、悪い意味でも」


「意思……?」


「そう。人間の〝意思〟の力は、単体の動植物よりも強いんだけど、制御するのが難しいことがあってね。そういうときに人の中で悪しき心が育つと言われているんだ。それが傍にいる生き物たちに影響し、彼らを狂暴な魔物へと変貌させてしまうことがある」


「そういう言い伝えなのね」


 メレンケリが「言い伝え」と言ったことに対し、グイファスは少し悲しそうな表情で頷いた。


「……そうだね」

「『封印の石』を手に入れて、どうするつもりだったの?」

「もちろん、大蛇を封印……つまり長い眠りにつかせるつもりだ」

「見つけたら倒すのではなくて?」


 メレンケリが不思議そうに聞くと、彼は首を横に振る。


「それは難しい。今までも試みて来たことだが、奴を殺すことは相当な犠牲を払うことになってしまう」

「それで、『封印の石』を手に入れるために、ジルコ王国へ?」


 グイファスは頷いた。


「うん。『封印の石』はサーガス王国の中にはない。呪術師もいないため、新たに作ってもらうこともできない。だから、他の国にある『封印の石』を譲り受けようと思ったんだ」


「でも、ジルコ王国にも呪術師はいないのよ? それに譲り受けるって……あなた、捕まっていたじゃないの」


 グイファスは貴族の家に宝石を盗みに入った罪で捕まっている。譲り受けようと穏便に済ませようとしていたならば、今頃こんなところにはいないというのが、メレンケリの言い分だ。


「まぁ、捕まってしまったのはそうなんだけど……。その前に、ジルコ王国に呪術師はいないんじゃないかって言ったよね。確かにジルコ王国の人たちは、自分の国に呪術師がいるとは思っていないようだけれど、彼らはその昔サーガス王国から他の国に移ったと言われていてね。他国に移ったのは、サーガス王国では生きにくくなったかららしいんだけど……。それで隣国のジルコ王国に呪術師が作った『封印の石』が残っているんじゃないかと思ったんだ」


「でも『封印の石』なんて聞いたことはないわよ?」


「『封印の石』っていうのは、宝石みたいにきれいな石らしいんだ。だから、呪術師たちは自分たちの生活のために、それを量産して、使い方も知らない貴族に売っていたんじゃないかって言われているんだ」


「どうしてそう断言できるの?」

「それはサーガス王国でもあったことだから」

「だったら、サーガス王国で探したらよかったじゃない」

「それがどうしても見つからないからジルコ王国に来たんだよ」

「……そうだったわね」


「『封印の石』は、きっと貴族が持っていると思った。さすがに大蛇の話はできなかったけれど、その石が必要であることを彼らに話をして譲ってと思ったんだけど、中々取り合ってくれなくて……。だから仕方なく、あるかないか存在だけでも調べておこうと思って、窓から侵入したところを捕まえられたんだ」


「あなたってしっかりしているんだか、間抜けなんだか分からないわね」


 グイファスは肩をすくめた。


「自分を過信した報いだ。君の国の軍人を甘く見ていたのも悪い」

「それはいけないわね」


 メレンケリはちょっと呆れて、ため息をついた。


「だけど――……」


 グイファスはそういうと、メレンケリを見て笑った。


「捕まらなかったら、君に出会えなかっただろうね」


 思わぬ言葉に、メレンケリは目を見開いた。

 メレンケリの心に温かいものが降りてきて、何かきらりと光るようなものが優しく触れたような気がした。


「私に……?」

「ああ」


 メレンケリの胸が「とくん」と震える。この気持ちは何だろう。メレンケリは自分の心が分からなった。

 それからグイファスは不思議なことを、メレンケリに尋ねた。


「それから聞きたかったんだが、君のその右手の手袋。きっと呪術師が作った物じゃないのか?」

「え?」

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