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第31話 蛇の消息

「姿を消した?」


 メレンケリは眉をひそめる。「国を守る」と約束したのに、どうして消えてしまったのだろうか。


「国王が崩御してからのことだ。大蛇が盟約を交わしたのは国王だから、契約が終わってしまったということだろう」


「契約の終わり……。つまり、その大蛇は『サーガス王国をずっと守る』つもりはなかったということ?」


 グイファスは頷く。


「どうやら大蛇との約束は、『契約を交わした王が生きている間』という制限付きだったらしいんだ」


「契約をするとき、確認しなかったのかしら?」


 メレンケリの指摘に、グイファスは肩をすくめる。


「もっともな意見だね。でも、過去のことは今はもう分からない。だからそれは仕方ないとして、問題なのは今も大蛇がサーガス王国のどこかにいて、国を滅ぼそうとしているということなんだ」


「え?」


 意味が分からなった。

 国を守っていたはずの大蛇は、王の崩御と共に姿を消したはずである。それなのに何故今、サーガス王国を滅ぼそうとしているのだろうか。


「国を滅ぼすなんて……。どうしてそんなことを? だって、国を守っていたんでしょう?」


 メレンケリの問いに、グイファスは首を横に振った。


「理由は分からない」

「それに、大蛇はいなくなったはずでしょう? 居場所が分かったというの?」

「いいや、まだ分からない。だけど最近、蛇に噛まれて亡くなる人が続出しているんだ。それも全員首から血を吸われ、干乾ひからびた状態で発見されている」


 彼の話に違和感を覚え、メレンケリは小首を傾げた。


「どういうこと? だって大蛇は、城の地下で眠らなくてはいけないほどの大きさだったはずでしょう? それなのにわざわざ人間の首を狙って血を吸うなんて……まるで体が小さくなっているみたい……。それに人々を襲っているからと言って、国を滅ぼそうとしているとも思えないのだけれど……」


 メレンケリの疑問に、グイファスは頷いた。


「そうだよね。一つずつ説明するよ。まず、大蛇の大きさだけど、それは自由に変化させることができるみたいなんだ。その上、厄介なことに人の姿に化けることも可能だ」


 彼女は「信じられない」と言った風に、首を横に振った。


「……人の姿に?」

「うん。奴は姿を変えることが出来ると言われている」


 まさか、そんなことはあり得ない――。

 そう一蹴しようとしたが、先ほど自分の力を聞かれて答えられなかったように、あり得ないと思えたことがあり得るのかもしれない、とメレンケリは思う。


 普通だったら、「巨大な蛇が人間の姿に変わる」などと言われても、きっと信じることは難しいだろう。蛇は蛇だ。毒がある蛇に噛まれれば、死ぬこともあるかもしれないが、人間に変身できるなど信じられない。


(だけど――)


 メレンケリは、視線をグイファスから自分の手元に移すと、くすんだ緑色をした手袋に包まれた自分の手がそこにある。


 この不思議な力が代々受け継がれているとして、どこから来たのかと問われると答えることは不可能だ。物心ついたころから、当たり前に生活に組み込まれた力であるために、今まで疑問に思ったこともなかったが、他の人が持つことが出来ない力を何故自分が持っているのだろうと不思議に思う。

 そう考えると、大蛇の話も「嘘」と言うことは出来なかった。


「そのことを信じるとして――」


 メレンケリは言葉を続けた。


「国を滅ぼすというのは? どうして分かるの?」

「人が襲われるようになった事件が起こってから、夜中に城の一角にある塔が壊されていたせいだ」

「でも、それが大蛇と関係するとは限らないでしょう」


 グイファスは彼女の言葉に頷いた。確かにただそれだけでは、大蛇がやったことにはならない。


 しかし彼は言葉を続けた。


「崩れた塔の破片を集めた者が、こんなことを言っていた。『蛇に絞められたかのような跡があった』と。城は王がいる場所だ。そこが大蛇によって破壊されたということは、国を滅ぼそうとしていると考えてもおかしくないだろう」


「一理あるけど……他の可能性もあるかもしれないじゃない。大蛇がやったように見せかけた人間の仕業かも」


「その可能性も捨てきれない。でも、血を吸われ干からびてしまった人々の仕業はどう考える? 被害に遭った人々の首筋には、蛇の噛んだあとがくっきりと残っているんだ。それを人間がわざわざ模倣するだろうか? それに人が干からびるまで血を採り出すことは、今の我々の医療技術では不可能……。それに、一回に何体もの死体が周囲に転がっているのも人間技とは思えない」


「複数犯でやったのかもしれないわよ?」

「それだったら、何故血が必要なんだ?」

「血液が必要な医療行為があるのかもしれない」


 ジルコ王国では、怪我をして多く血液を失った者に対して「輸血」という方法をとることがある。健康な人から血液を採取し、怪我をした者に血を提供するという、治療の一環だ。

 だが、グイファスはそれに疑問を呈す。


「そうだったとしても、被害者を殺してまで必要なことか?」


 蛇の噛みあとがあった者たちは、みんな殺されているとグイファスは言った。確かに、「輸血」をする際は血を採取するが、健康な人を害してまですることではない。


「……それは必要のないことだわ」

「だよね」

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