第30話 蛇とサーガス王国の盟約
「座ろう。君は私に話してくれた。だから、私も全てを話そうと思う」
メレンケリはこくりと頷くと、グイファスに促され、再びテーブルを挟んで彼の前に座る。まだ、胸がどきどきしていた。しかし不思議と嫌な感じはしない。寧ろ、体がぽかぽかとして温かかった。
「私がジルコ王国の貴族の家に忍び入ったのは、特殊な石を手に入れるためだった。そこまでは話したと思うけど、いいかな?」
メレンケリはゆっくりと頷く。
「ええ」
「その特殊な石と言うのは、サーガス王国に潜む、大蛇を封印する石なんだ」
「大蛇?」
聞き返すメレンケリに、グイファスは「そうだ」と言った。
「サーガス王国は、蛇と盟約を結んだ国と言われている」
「蛇と盟約を結ぶ?」
「そう。一五〇年くらい昔のことだ。当時のサーガス国王が、戦いのたびに多くの民が犠牲になることに心を痛めて、どうしようか悩んでいた時に、蛇が現れてこう言ったんだ。『私がこの国を守って差し上げましょう』とね」
「まさか……蛇がそんなこと言いっこないわ」
メレンケリは「信じられない」と、グイファスの話を疑う。まるでおとぎ話のようだ。こんなことがサーガス王国の一大事とは到底思えない。
しかし彼は次に、こんなことを言った。
「君はそう思うかもしれないけど、だったら君の右手の力はどう説明する?」
「え……?」
メレンケリは首を傾げる。
(私の右手?)
「君は、その右手の力が当たり前だと思っているかもしれないけれど、他の人から見たらとても特殊だ。当たり前じゃない。なぜそんな力が存在するのか、そして受け継がれているのか、理由は分からないのだろう?」
「……」
メレンケリはグイファスに言われて、手袋を掛けた右手を見つめる。
言われてみれば確かにそうだ。
なぜ石になる力が、この手にあるのだろうか。
そしてどうして代々受け継がれてきたのだろうか。
確かに右手の力を引き合いに出されたら、この世に喋る蛇がいることを否定できない――。
「……」
信じるにはまだ早いが、今は話を先に進めるためにも蛇の話を受け入れることにした。
「そうね……分からないわ。話を続けて」
グイファスは頷き、話を続けた。
「蛇はサーガス王国を守る代わりに、二つの条件を出した。一つは、国王の血を数滴飲ませることと、もう一つは城の地下に穴を掘りそこで生活させること」
「どうして国王の血と、城の地下が必要なの?」
「王の血は蛇が大蛇になるために必要で、城の地下は大蛇になった蛇が寝起きするための場所として必要だったからだ。国王は蛇の言葉に従い、蛇と盟約を交わした。王の血を飲んだ蛇は城を囲めるほどの大蛇となり、城の地下で静かに生活した。そしてそこは誰も出入りしてはいけない場所となった」
「蛇は……、いえ、大蛇は本当に国王の約束を守ったの?」
「うん。何故なら大蛇の噂が広がると、他の国からの攻撃がなくなったからだ。実際最初の頃は大蛇も姿を現して、敵の兵士を追い返していたようだから、その効果もあったのだろう」
「それなら、大蛇を封印してはいけないんじゃないの? 助けてくれたのでしょう?」
グイファスが探しているのは大蛇を封印する石。それを見つけて封印してしまったら、国を守る大蛇がいなくなってしまうのではないか。
「いや、問題はここから。大蛇はその三十年後、その地下から姿を消してしまったんだ」




