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第26話 初めての仕事

『石膏者』としてはじめて仕事をしたのは、17歳のとき。


 それまで学校へ行かず、家に家庭教師を呼んで勉強をしていた。メレンケリと関わったことがある人間は、家族以外にマルスとその家庭教師くらいである。


 家庭教師はリフィルよりも年上の女性で、長身のほっそりとした人だった。顎がとがっていて、目が細くややつり上がっているせいか、あまり優しそうな人ではない。その顔の印象通り、彼女は必要以上のことは話さない人で、勉学に関しては親切だったが、十五年近くアージェ家に通っていても、少女に心を開くことは決してなかった。


 メレンケリの家は丘の上にぽつりと建っている。そのため近所と言っても丘のふもとに降りなければ、誰かと会うことは出来ない。だが、父はそれを望んでいたに違いない。メレンケリが外に出たがると、父か母が常に付いて歩き、他人と接触をしないように目を光らせていた。


 メレンケリの少女時代は、友人を作ることが許されず、家族でさえも容易に彼女に触れることは叶わないという、とても寂しい生活だった。


 そんな日常を過ごしてきたせいだろうか。


 父の後継者として軍事警察署に赴き、脅し用のりんごを石にしたとき、快感だったことを覚えている。それまでは、手袋を自分の判断で外すことは許されなかったし、父がいるところだけでしか右手で何かに触れることは決してなかった。それ故、今まで封じ込めていた力がようやく使う場所を得たからなのか、不思議と心地がよかった。


 それから人間を石にした。


 最初に石にした人物は、彼女よりも強そうな男だった。その男が、メレンケリを見て怯えている。その男を追い詰め、石にする。


 すると仕事仲間から「よくやった!」「偉かったぞ!」と褒められ、心の充実感を得られた。それは、初めて自分の居場所を手に入れたような気がしたからかもしれない。


 家に帰ると、いつも険しい顔をしている父が褒めてくれたし、母は御馳走を作ってくれた。兄は羨ましいと言って、妹は自慢の姉だと言った。

 だが、夜になると急に恐ろしくなった。

 石にした男の雄たけびが、耳の奥で鳴り響くのだ。



 ――やめてくれ!

 ――助けてくれ!



 男の絶叫が聞こえてくる。


 目をつむるとその時の状況がまざまざと目に浮かび、夢では男に追い回される夢を見た。


 次の日の朝、恐る恐る勇気を振り絞って父にそのことを相談すると「そのうち慣れる」、と言われただけだった。母には話せなかった。言えば心配すると思ったからだ。そのため、頼りになる兄のトレイクにも聞いてみたが「羨ましい悩みだ」と笑っていた。妹が謙遜をしていると思ったようだった。


 軍事警察署で働いているマルスに相談すると、彼だけは唯一真剣に受け止めてくれた。


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