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第24話 (前編)「石にする」と言い換えているにすぎない

 メレンケリは自分のことを話すことに抵抗があったが、言えば、彼が貴族の屋敷に入った目的を知ることが出来る。そしてそれを報告すれば、この仕事から下りることができる、と思った。


(今日、私が石にした男にしたことだけを言えばいいのよ……)


 それに、彼が宝石を盗んだ理由を知ることが出来たら、弱みを握ることにもなる。いい取引ではないか。


「私が先に話せばいいのね」

「そうだ。君の仕事の嫌なところについて話して」


 メレンケリはグイファスの金色の瞳を見て、彼の心の中を想像する。

 彼は今何を考えて、自分にそんなことを言っているのだろうか。仕事の愚痴を聞いて、この施設の情報でも獲得することができると思っているのだろうか。それとも、本心からメレンケリの相談に乗ろうと思っているのだろうか。


 グイファスは、メレンケリが話始めるまで黙っていた。浅黒く引き締まった顔立ちに、柔らかな微笑を浮かべていた。


(……仕事の愚痴を話すなんて、初めてかもしれない)


 彼女はそんなことを思いながら、ゆっくりと話始める。


「本当に、ただの愚痴になるわよ?」

 メレンケリは手袋がかけられた自身の右手を、ひらひらと振って見せた。

「いいよ。聞くから、言ってみて」

「他言無用なら」

「勿論」


 グイファスが頷く。信頼できるものかどうかは全く分からない。だが彼女は覚悟を決める。上手く話せば、彼の目的がはっきりするのだから。

 メレンケリは手を下ろし、ふうっと息を吐く。


「私は今日、取調室で尋問されていた人を石にしたの。この右手で」

 すると彼は理解するためなのか、何度か小さく頷いた。

「そうか……」


 メレンケリは俯いて、自分の手を見下ろした。白い左の手と、手袋で覆われた右手がそこにある。


「恐怖で怯えている男を角に追い込んで、この右手で触れる。するとね、触ったところから石になっていくの。徐々に、徐々に全身にまで私の力が伝わっていく。男は苦悩していた。唸ってた。布を噛まされていたから、言葉ははっきりとは分からなかったけれど、私を罵倒していたのでしょうね」


「石になった人はどうなるんだ?」


 メレンケリは自嘲する。


「あなたは見たでしょう? 砕くのよ。一度石になったら戻らない。だから、時間が経ったものから順番に壊されるの。置いておいても邪魔だから、それこそ容赦なくね」

「……」

「でも、私の仕事はそれだから。犯罪者たちを石にすることで、ジルコ王国の秩序が守られている――って思っている」

「じゃあ、それは君の誇りなの?」

「誇り?」

「そう」

「それは――」


 メレンケリは答えに詰まってしまった。


(私はこの仕事を誇りに思っている……? 父は「誇りを持っている」けれど……私は?)

「どうかした?」

 グイファスに聞かれ、メレンケリははっとする。

「ああ、ええっと……そうね。そう。誇り、よ……」

 グイファスは不思議な様子で彼女を見つつ、再び質問をした。

「その力を持っている者は、君以外にいないのか?」

「それは――」

 どう答えたらいいか悩んだ末、

「……前に父が……でも、今はいないわ」

 と答えた。


 父は、現役を退いているので数には数えられない。それに「他にも数人いる」と嘘をついたところで、グイファスには偽りだと見抜かれるだろう。


(もし私以外に「石にする力」を持っている者がいたとしたら、わざわざ私だけを監視に付けないでしょう。グイファスが反応を変えたのは、私の力を見せたとき。つまり特殊能力を持っていたら、私じゃなくても同じ反応をしたということだもの)


「そうか。……それは、こくな仕事だな」


 グイファスが呟き、メレンケリは目を大きく見開く。そして、ゆっくりと顔を上げた。


「酷な仕事?」


 聞き間違いではないだろうか。そう思って聞き返す。

「ああ、そう思う」


 頷くグイファスを見て、どうやら聞き間違いではないことは分かった。


「……理由を、聞いても?」


 すると彼は言葉を選びながら、ゆっくりと言った。


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