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第22話 問い

「何かあった?」


 部屋で昼食を取っていたグイファスが、メレンケリに尋ねた。


「別に……」


 メレンケリは素っ気なく答える。


 あれから彼の監視に戻ったのはいいが、窓の傍に椅子を寄せて座り虚ろなまま外を眺めていた。軍人たちはメレンケリにねぎらいの言葉をかけてくれるが、本当にそれでよかったのか、という問いが頭の中でよぎる。


 もちろん、石膏者としては正しい仕事だ。


 だが、人としては? 本当にそれでいいのか?


 兄が人を笑顔にするために働いている一方で、メレンケリは人を罰するために働いている。


 軍人たちは、メレンケリがいるからこそジルコ王国は安全なのだという。だが、だからと言ってあの力を行使していいものなのか。人の「せい」を、抗いようのない力で止めていいのだろうか。


 そんな問いが次から次へと現れる。


 それゆえに、グイファスの監視どころではなかった。彼のことなど、正直どうでもよかったのだ。


「それならいいが」

「ええ。放って置いて頂戴」

「だが――」


 そう言って、グイファスは気遣うように言葉を続けた。


「気持ちが沈んでいるのなら、無理しない方がいいのではないだろうか。監視役もずっと君一人がやらなくてもいいのだから」


 その瞬間、メレンケリの中で色々な感情が溢れ出した。

 苛立ち、悲しみ、無力さ、優しさ、気遣い、恐怖、恨み――。


 そしてその中で特に、怒りが彼女の中で暴れる。だがメレンケリは、それを押さえるようにぐっと手を握りしめ、彼を睨みつけると低い声で言った。


「どうしてあなたに、そんなことを言われなければならないのよ」


(あなたが来たせいで、私はここにいるのだ。あなたが私の同僚の問いに答えないから、私はあなたの監視をしなければならなくなったのに……‼︎)


 鋭い眼光を向けれたグイファスだが、それを受け流すとあっさりと言う。


「それもそうだな」


 そして彼はロールパンをちぎって口に運び、食事を再開する。


「……」


 メレンケリはそれを見てため息をついた。


(きっと、お兄ちゃんが焼いたパンだ……)


 そして兄が心を込めて作ったパンを黙って食べるグイファスを恨めしそうに眺める。


「いいわね、あなたは。何もしなくても食事にありつけて」

「……」


 軍事警察署の当初の方針は、彼を泳がせるために、食事はきちんとさせ、人間らしい生活をさせておくというものだったが、それはすでに失敗に終わっている。なぜなら、グイファスが軍人用の宿舎に連れてきた時点で、自分の状況を冷静に予測しており、それについてメレンケリに話したからだ。


 しかしこの計画が続けられているのは、彼女がそれを上に報告していないからである。信頼できるリセムスに対しても話していない。


 その一つの理由に、監視の仕事も増えて忙しくなってしまったことが挙げられる。とはいえ、報告しようと思えば、その時間を作ることも不可能ではなかった。


 では、他にどんな理由があるかというと、彼が言う「メレンケリが信用してくれたら話す」という言葉が、彼女の中で引っかかっていたせいである。


 上手くすれば、彼が口を割ることが出来るかもしれないという期待があったのだ。もしそれが早く実現すれば、監視の任から解放されるだろう。元々グイファスを監視するのは、彼がこの国に来た目的を知るためなのだから。


 だが、あれから一週間。

 グイファスは自分から何かを語ることはない。それならば、こちらの計画が既に彼にバレている、ということを上司に報告した方がいいような気もする。


「本当に、楽でいいわね……」


 メレンケリはため息をつきながら、心の言葉を吐き出した。このまま彼が悠々自適に過ごすのは面白くない。


(私が辛い思いをしているのだから、あなたも嫌な思いをしたらいい……)


 グイファスはそんなことを呟く彼女の様子を見つつ、食べ終わった食事を流し台に持って行って片付ける。そして戻ってくると、彼はこんなことを言った。

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