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第18話 軍が恐れている男

 メレンケリは、部屋の中央に置かれたテーブルの上にポーチを置く。するとグイファスは彼女とポーチとを見比べ、不思議そうに尋ねた。


「中身を確認しても?」

「どうぞ」


 彼はベッドから徐に立ち上がると、ポーチをそっと手に取り中身を見た。その様子を、メレンケリはドアの近くに立ち右腕を左手で押さえながら見守る。

 すると彼は眉を寄せて言った。


「全て入っているようだが……」

「ええ。そうよ」


 グイファスは、あっさりと答えた彼女の方を向く。


「いいのか?」

「何が」

「ナイフまで入っている」

「それがどうしたの。何か不満?」


 彼の問いに、メレンケリは淡々と答える。心の中で「不満なのは私の方よ。グイファスの監視について、具体的なことは何も知らされていないのだから」と呟きながら。


 するとグイファスは、何を思ったのかメレンケリを真っ直ぐ見据えた。美しい金色の瞳がじっと見つめるので、身じろぎしそうになったがぐっとこらえる。


「……何?」

 短く尋ねると、彼は何故かちらりとドアの方に視線を向ける。

「?」


 メレンケリは不思議に思い、そちらの方を向いたがそこには何もない。再びグイファスの方を見ると、何故か彼は姿勢を正し、固い口調で次のように言った。


「不満など何ひとつない。人間らしい生活をさせてもらい、私物も返して頂いた。しかし、これらの待遇から考えられるこの先のことを予想するに、私はあなた方が考えている行動を起こすことはないということだ」


 これを聞いた瞬間、メレンケリの背筋が寒くなった。まるで、この先どのようなことが起ころうとしているのか、こちら側の意図が分かっているかのような口ぶりだ。


 そして彼女が驚いて、何も言えなくなっていることをいいことに、彼は言葉を続けた。


「私が何故なにゆえ、この国に参ったのか。それを知るにはここの軍人の尋問では難しいだろう。そしてあなたのような、特殊な女性を監視役に据えることで何か起こることを期待しているのであれば、こんなことはやめた方がいいと伝えて頂けないだろうか。私は、この国に危害を加えるために訪れたわけではないのだから」


 落ち着き払って話す彼を見て、メレンケリは初めてこの男に対し恐怖の感情を抱いた。自分の置かれている状況を冷静に分析し、待遇が改善された現状を楽観視してはいない。その上、これから先に起こることを想定している。普通ではありえないことだ。


 メレンケリは初めて、軍の上層部が彼を恐れている理由が分かった気がした。このような相手は、今までにいない。


「では、何故この国に来たのか。それを答える気は?」


 彼女は丹田に力を入れ、彼の言葉に動じていない風を装いながら尋ねる。

 すると彼はきっぱりと言い放つ。


「否」

 だが、その後にこう付け加えた。

「あなたが私の話を信じて聞いてくれるというのであれば、話は別であるが」

 メレンケリは目を瞬かせた。

「私が? 何故?」

 グイファスはその問いに答えようと口を開こうとしたが、部屋の外で物音がしたせいでそれを閉じてしまった。

「今は、言えぬ」

「どうして……」

 すると彼はふいに、ふっと笑う。

「君は質問が多いな」


 その口調からは、先ほどまでの堅苦しさが抜けていた。何故そんなことをしたのか、メレンケリには分からなかったが、元に戻ってほっとしたのは確かである。


「悪い?」

「いいや。お互い分からない者同士。聞くしか相手を知る方法はないのだから、聞くしかないと思うよ」

「じゃあ、この国に不法入国した理由を言いなさいよ」

「それは出来ない」

「今言えない、というのであれば、いつなら言えるの?」

「……すまない。それは分からない」

「どうして」

「いつまで問うても答えは同じだよ。悪いけど、今は言えないんだ」

「……」


 これはいつまで経ってもらちが明かない。メレンケリはそう思い、諦めたように大きくため息を吐く。


 一方でグイファスは、彼女に向けていた柔らかい視線をポーチの方に視線を落とした。そしてそれを手に取りベッドの方へ持っていくと、中から小さくて丸いケースを取り出す。蓋を開け、中に入っていたとろりとした物体を手に取ると傷ついた体に塗りはじめる。それはどうやら軟膏のようだった。


 怪我をすることも考えていたのだろう。捕まった後に使うとは思っていなかっただろうが、用意のいい男だ。


 メレンケリは監視役なので出ていくわけにもいかず、テーブルの傍に置いてあった椅子をドアの方に寄せて座った。


(どうやっても口を割らない相手……。私が監視役についたところで何も変わらないんじゃないかしら……)


 それから長い時間が過ぎたが、あれからグイファスが何かを語ることはなかった。

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