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第17話 彼の持ち物

 兄のクリームパンは優しかった。

 柔らかくて、ほんのり甘くて、自然と心が解けてしまう。お陰で体が温かくなり、不思議と力が湧いてくる。


「がんばろう……」


 彼女は自分で自分を励まし、そして再びグイファスがいる部屋へ向かおうとしたときだった。突然、建物の内部からリセムスがメレンケリの方へ走って来た。


「大尉? どうなさったのですか、そんなに急いで……」


 すると彼は乱れた息をすぐに整え、説明した。


「ああ、いやいや。君のことをちょっと探していてね。それでここにいるって、さっきすれ違った人に聞いたから、走ってしまっただけなんだけど」

「何か御用でしょうか」

「うん。実はこれを渡すように言われてね」


 そう言って彼が彼女に渡したのは、腰に装着するタイプのポーチだった。


「これは?」

「グイファスの持ち物だそうだよ」

「持ち物?」

「現行犯逮捕したときに没収したらしいんだけど、戻すそうだ」

「戻すのですか? でも、どうして……」


 通常容疑者の所持品は、罪状が決まるまで軍事警察署に保管されている。その後刑が確定してから、彼らに返すかどうかを判断し、服役する場合は脱走などに使えるような道具を省いて返却することになっていた。


 それにも関わらずグイファスは刑も確定していないままに、所持していたものを全て返すという。


「荷物の把握が完了したから、だそうだよ。でも僕が確認したら、ナイフも入っていて……。それでもいいのか聞いたんだけど、それもそのまま返して欲しいそうだ」


 メレンケリは眉を寄せ、リセムスを見た。


「ナイフも、ですか?」


 彼は彼女が考えていることを察している風に、神妙な面持ちで頷いた。


「そう言っていた」


 それはつまり、メレンケリに刃物を向ける可能性があってもいいということを示している。


(確かにここは軍事警察署だけど……私は軍人じゃない……)


 それでも、グイファスをどうにかしたいということなのだろうか。

 メレンケリはポーチを見つめながら聞いた。


「……彼が《《逃げる》》ことを望んでいるからですか?」

「どうだろう」


 そして、リセムスは呆れたように呟いた。


「グイファスに関しては、上の考えていることはよく分からない」


 メレンケリもそれには同感だった。しかしここで何かを言っても、困るのは大尉である。彼女は小さくため息を吐くとこの件に関して諦め、上司に言う。


「とりあえず、これをあの人に返します。それでいいということですよね?」


 彼は少し間を置いて、申し訳なさそうに頷いた。


「うん。ごめん、悪いけど頼むよ」

「はい」


 彼女は頷き、それを持ってグイファスの元へ向かった。




 メレンケリはグイファスがいる部屋の前に向かうと、扉の前で目を瞑り深呼吸をする。そうすることで、彼の前では冷徹な『石膏者』でいられるように気持ちを整えるのだ。そして彼女はノックをする。


「入るわよ」


 すると「どうぞ」と返事が聞こえた。

 ドアを開けると、グイファスは部屋の奥に設置されたベッドの上に腰掛け、短い髪をタオルで拭いていた。どうやら、早速この階にあるシャワー室で体を流したらしい。


「シャワー室をお借りした。ありがとう」


 律儀に頭を下げてお礼を言う彼に、メレンケリは監視する人間として素っ気なく答える。


「……どういたしまして」

「やはり、体を清めると心地よいな」


 そう言ってグイファスは使っていたタオルを丁寧にたたむと、メレンケリを見た。すると、彼女が持っていたものに気が付く。


「あ、それは――」

「あなたの持ち物よ。返していいと言われたから、返すわ」

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