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第14話 宿舎

「ここは?」

「軍人用の宿舎よ」

「……宿舎」


 メレンケリがグイファスを連れてきた場所は、拘置所から五十メートルほど南側にあるG1と言われる宿舎である。ここには軍人たちが寝泊りしている。


 リッチャー大佐からの指令は「グイファスをここに泊まらせ、彼の行動を監視するように」である。


 メレンケリは宿舎自体には何度か出入りしたことはあるが、部屋に入ったことはない。そのためグイファスにあてがわれた303号室に入ると、案外ちゃんとした部屋になっていたので感心した。


 一人一部屋で、ベッドとクローゼット、小さいテーブル一つに、木の椅子が二つ。それに簡易的な流し台が右手の奥にある。だが、それ以外の家具はない。部屋だけ見れば殺風景だったが、大きい窓からは、ファイレーンの街がよく見えるのだった。


「さすがに、留置所よりずっといい場所だ」


 グイファスは眩しそうに外を眺めながら言う。それに対しメレンケリは素っ気なく答えた。


「そうでしょうね」

「窓を開けても?」


 グイファスに尋ねられたので、メレンケリは頷いた。


「逃げないなら構わないわ」


 彼女はさりげなく左手を右手に添える。もし逃げるような行動をしたら、すぐにでも石に出来るように準備した。


 だが彼は「逃げないさ」と言うと、にこっと笑う。そして窓を開けると気持ちよさそうに入って来る風を浴びていた。


(やっぱり、変わった人……)


 日が差す明るい場所で彼の横顔を見ると、取り調べの際に軍人に殴られた跡や、傷つけられた跡が見えた。だが、それにもかかわらず黒い肌の中に黒い宝石をみるかのように美しかった。


 尋問の時には気づかなかったが、背が高く、しなやかな筋肉がついた体をしている。姿勢もいい。彼は傷ついてもなお自身の優美さを失っていなかった。


(どうしてこの人は、こんなに眩しいのかしら。罪を犯したというのに、堂々としている。尋問した私たちに対しても敵意があるように見えない。それともそう振舞って、油断させようとしているのかしら。そうだとしても、並大抵の精神力ではないわね)


 メレンケリはぼんやりとグイファスを見ていたときだった。石を砕く、あの音が聞こえた。


 どうやらメレンケリが石にした男が、軍人によって壊されたようである。


「これは工事でもしている音?」


 グイファスはその音に気が付き、メレンケリに尋ねた。


「真実を言わなかった者が、壊されていっているのよ」

「それはつまり、君が石にした人が破壊されているってことかな」

「……そうよ」


 するとグイファスが意外なことを聞いてきた。


「君は、この仕事が嫌いではないの?」


 メレンケリは虚を突かれたが、すぐに白い顔に不敵な笑みを浮かべる。


「あなた、人の心配をしている場合? 真実を語らなければ、あなたも同じようになるのよ」

「石になるのが怖くないかと言ったら、それは嘘だが――」


 グイファスは真剣な眼差しで、メレンケリを見た。


「その力と君のことが気になってしまったのだから仕方ない」


 メレンケリの瞳が揺れる。


(この男は一体、何をしたいのだろうか……)


「あらそう。でも気遣いは不要よ。私は必要とされてここにいる。この仕事に誇りを持っているわ」

「そうなんだ」

「ええ」


 メレンケリは平静を装い、素っ気なく答えるとグイファスに背を向けた。一旦ここから離れたかった。


「着替えとかタオルとか生活に必要なものを用意してくるから、あなたはここで待っていて頂戴」


 グイファスは何か言いたそうだったが、言葉を飲み込む。何度か小さく頷き、メレンケリの背に答えた。


「……分かった」

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