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第12話 リックス・レイダル少将

 メレンケリが留置所へ向かうと、入り口で二人の男が立ち話をしていた。


 一人はそこの管理をしている者で、もう一人は肩口にさりげない装飾具が付けられた仕立ての良い制服を身にまとっている。いかにも位が高そうなその男が、メレンケリに気が付き声を掛けた。


「あれ、メレンケリ? おはよう、久しぶり。元気だった?」


 その人は話していた男と「じゃあ」と言って別れると、深い緑色の瞳を彼女に向けた。柔らかな笑みを浮かべ挨拶をする。


「お久しぶりです。えっと、リックス少将は息災のようで……。でも、どうしてこちらに?」


 リックス・レイダル。

 彼は三十歳になったばかりでありながら軍事警察署の幹部の地位に就いている。穏やかで端正な顔立ちからは軍人とは思えないが、武器を持たせると軍事警察署の中でも五本の指に入ると言われている程の強者だ。また後輩の教育に優れており、その上若者からの信頼が厚い。


 リックスが所属する部署は、軍部にある「実質戦闘部隊」。しかも彼の場合は国境警備を専門とする「国境の番人(イーガルド・フォー)」である。そのため、警察側で取り調べを行う「調査部」に所属するメレンケリとはほとんど接点がないはずだった。


 しかし軍部に所属するマルスを彼が指導していたせいか、彼を通していつの間にか、すれ違ったら会話をするくらいの仲にはなっていた。


「国境付近の警備隊が入れ変わったんだよ」

「では、休暇なのですか?」

「うん、あまり長くはないけれどね。でも折角戻って来たから、ちょっと立ち寄って、管理人と四方山よもやま話をしていたってわけ」

「ですが、何も留置所でなくても良かったのでは……? 皆さん、少将が帰ってくるのを楽しみにしていると思いますよ」


 本部に行けばリックスを待っている人たちは沢山いる。きっと色々な話を聞きたって群がるに違いない。


「それは嬉しいけどさ、あっちに行くと挨拶とか行かなくちゃいけないでしょう? 面倒で」


 へらっと笑うリックスに、メレンケリはつられて表情が緩んだ。


「少将らしいです」

「そうかな。ところでメレンケリはどうしてここに?」


 リックスの問いに、メレンケリははっとする。グイファスを宿舎に連れて行かなければならなかったのだった。


「えっと、ちょっと仕事で。すみません、急ぎますので失礼いたします」


 メレンケリはリックスに頭を下げると、管理室の方へ足を向けた。


(グイファスの件を他の部署の人や、周囲に話していいのか、大尉に聞いておけばよかった……)


 そうは思いつつも、他の人には話してはいけないことのように思えた。

 この仕事を持って来たリッチャーは、メレンケリの家まで押しかけて説明をし、仕事に関係のない母にまで事情を話しているので、グイファスについて隠すことでもない話と言えばそうなのかもしれない。


 しかし、わざわざ訪問して話したということは、逆に言えば「軍事警察署では言えない話」とも捉えられるだろう。実際リセムスとは職員室ではなく、わざわざ執務室で話をしている。


 リックスは少将という立場であるが、「調査部」ではないので言ってはならないはずだ。


「え? ああ、ううん。こっちこそ引き留めて悪かったね。仕事頑張って」

「はい」


 リックスはメレンケリの背を目で追いながら、小首を傾げた。


「留置所にあの子の仕事はなかったよね?」

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