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灰色の花(☆改稿版☆) ~右手に異能を持った少女の物語~  作者: 彩霞
1、その当人の名は「グイファス」
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第10話 父には分からない

「……」


 リッチャーが帰った後、テーブルに残された書状と許可証をメレンケリは手に取った。この紙切れ二枚で、力を使った際に犯罪になるかならないかが変わってくる。力はいつでも行使できるのに、そこには自由はない。


「メレンケリ」

 父に呼ばれて、メレンケリは顔を上げる。

「分かっているとは思うが、お前のその力は自分の為にあるのではない。王国のため、そしてこの家のためにあるのだ。自分のために力を使えば、それは他の人にとって脅威になる。しかと肝に銘じよ」

 メレンケリは少しの沈黙ののち頷いた。

「はい、父上」

「よろしい」


 すると父は手元にあったカップを持つと、母に言った。

「すまないが、熱い茶を淹れてくれないか」

 リフィルはガイスの声で我に戻ったかのように、はっとした。

「……分かりました」


 母は娘のことを心配しているようだったが、父はそうではないようである。メレンケリは父から手元にある書類に視線を落とした。


(父にとって、この話題は大したことではないんだ)


 右手に異能がある限り、そしてその力が役に立つ限り、頼まれたことはやり続けていかなければならない。それが自分自身の居場所を作ることにもなることも承知している。


 しかし彼女にとって、『石膏者』というときに人の命を奪う行為をする仕事は重責だった。それにも関わらず、父はさらに荷を重くしようとする。


(『石膏者』という仕事で賞賛されてきた父には、今の私の気持ちなんて分かるはずもない……)


 彼女は聞こえないように小さくため息を吐くと、書状と許可証を持ち、支度をするために部屋に向かうのだった。



 リフィルは娘の重責を負った背を見ながら、もやもやと今回のことを考えていた。

 彼女は今回の件について納得していない。


 しかし、自分が娘のために何を言って抗おうとも、覆らないことは分かっていた。


 そもそもこの生活があるのは、夫が『石膏者』として働いてきたお陰である。ガイスはすでに『石膏者』としての前線を退き、退職金と毎月定額に入って来る慰労金によって家族を養っているが、その金額は少なくない。一般の人々と比べると、十分に余裕を持った生活が出来ている。つまり、同じ仕事をしているメレンケリも同じように将来が保障されているということだ。それは母にとって、大きな安心材料である。


 なぜなら、右手に異能を持った娘が結婚できると思っていないからだ。


(……ガイス(あの人)でさえ、私との結婚が一筋縄でいかなかったのに、メレンケリはきっともっと難しい)


 リフィルは茶を淹れながら、ガイスとの出会いを思い出す。


(正直、初めて会ったときは右手の異能が恐ろしかった。私もそう思ってしまっていたんだもの、きっとあの子と会った異性の人たちは皆同じように思うんじゃないかしら)


 その上男と同じように仕事をし、稼いでくる。その上、一つ間違えれば殺されてしまう力を持っている。プライドを持った男たちは、きっとメレンケリと共に生きようとは思わないだろう。


(友達もマルスだけ。マルスが恋人になる可能性はあるかもしれないけど……、それは夢のまた夢よね)


 メレンケリは幼いころから学校に行ったことがなく、友人がいない。右手の異能を配慮してのことである。


「お茶、淹れましたよ」

「ありがとう」


 リフィルはカップに入ったお茶を覗き、小さくため息をついた。

 母親なのに何もしてやれないもどかしさを感じる。こんなときに抱きしめてやることもできない。それは、メレンケリの力に触れないように、家庭内でも気を使っているせいだ。


(頑張っているあの子に、何かいいことが……。そう、小さなことでも何でもいいから、いいことが起こりますように……)

 そう心の中で祈って、お茶を啜るのだった。



 メレンケリは準備が整うとコートを羽織り、昨日と同じくスカーフを首に巻く。そして茶色い革のショルダーバッグを肩にかけ、玄関の方へ向かうと母が声を掛けた。


「メレンケリ」

「仕事に行きます」

 すると母は「ちょっと待って」と言って駆け寄ると、娘に袋を渡した。

「これ、お弁当。朝の分も入っているから、食べなさいね」

 リッチャーが来たせいで、メレンケリは朝食を食べ損ねていた。正直、あまり食欲はなかったが、あとでお腹がすくかもしれなかったので助かった。

「ありがとう……」

「気を付けていってらっしゃいね」


 母がにこっと笑みを向ける。それを見てメレンケリには分かってしまった。母が気遣って、無理に笑みを作ってくれていることを。


「はい」


 メレンケリもそれに応えるように、精一杯の笑みを向ける。心配をかけないように。不安にさせないように。


 そして彼女は家を出た。

 冷たい風がメレンケリの白い肌を撫でる。秋も終わりに近づいていた。紅葉が過ぎた木々は寒々しく、枝をむき出しにしている。数枚の枯れた葉は風に揺られながらも耐え忍んでいる。いつまで耐えられるのか、まるで競い合っているようだった。

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