「勘違いしないでよね!」と言ってチョコレートを渡してきた幼馴染のチョコが本命なんだけど勘違いするなってそっち!?
2月14日。それは恋人達の聖典《性典》クリスマスの次にくる非リア充には全く無縁なイベント、バレンタインの日だ。
今年こそは本命チョコを貰えないかと期待を胸に学校に行くけど結局貰えるのはクラスメイト全員にチョコあげる系女子からの30円程度で買える小さなチョコひとつだけだったり友達からの義理チョコが99割を占める魔のイベントだ。
そして俺、星海晃もどうせ貰えないことをわかっているのにほんの少しあるかもしれない本命チョコの可能性を夢見て学校に行く男子の1人だ。
学校でチョコが貰えるタイミングは大きく分けて2つ。
朝礼前の少しの時間、もしくは下校前の時間。
このどちらかのタイミングでチョコを1つでも貰えればそれでいい。
「なに難しい顔してるの?」
「ん? 花鈴か……はぁ」
こっちの不安を他所に脳天気に話しかけてきたのは雲咲花鈴。
俺の幼馴染というか腐れ縁的な存在だ。
幼馴染だからチョコが貰えるだとかそういう妄想はしない。
もしくれたら嬉しいな程度に考えておくのが一番だ。
「ちょっと! いきなり人の顔を見るなりため息ってなによ!」
「思い出しため息だから気にするな」
「何か嫌なことあったの? 私でよかったら話聞くよ? あ、勘違いしないでよね。後で思い出して笑うために聞くだけなんだから」
「絶対花鈴には言わねぇ」
それに「チョコをもらえるか不安だ」と恥も外聞もないようなことを言った瞬間ゲラゲラとお腹抱えて笑われることは目に見えている。
「ま、晃のことだしくだらないことでしょ」
そう残して花鈴は友達グループの方に行ってしまった。
まったく……くだらないとは失礼な。花鈴からしたらくだらないことでも今日の俺からしたらとても重要なことなんだ。
あともう少しで朝礼前の時間が終わるけどおかしいな。全員に配る系女子もいなければ俺に渡してくれる子もいない。
周りを見ると俺と同じ境遇の男子生徒が机の上で溶けていたり、学年1のイケメンに人だかりが生まれていたり、それを血涙を流すような形相で眺めている男子がいたりと混沌が生まれていた。
クソゥ……名前より先に二つ名で呼ばれてるせいで名前を覚えられていないイケメン野郎めぇ……羨ましいぞ!
「朝礼の時間だからさっさと席つけお前ら!」
先生のお叱りの声でチョコ渡しの軍勢は解散となった。
だが俺は見逃していなかった。先生も羨ましそうにチョコレートを眺めていたことを。
先生……あんたもこっち側の人間だったんだな。
あれ? 朝礼? 俺のチョコは?
は、はは……きっと後でもらえるんだよな? そうに違いない……。
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朝なにもなかったけど昼なら……昼休みになら、何かイベントがあってもおかしくないんじゃないか!?
と期待していたけど結局なにもないまま放課後が近づいてきている。
終礼もつつがなく終わり、あとは帰るだけとなってしまった。
今日の収穫なんと0。
昼飯を一緒に食べている同じ陰キャーランドの三下拗らせ童貞の友人ですら2つもらっていたのに、この差は一体なんなんだ!?
いや、それ自体はどうだっていい。
俺が欲しいのはチョコはチョコでも本命チョコ。
義理チョコだの友チョコだのお菓子プレゼント企画に応募したら手に入るようなものは求めてないのだ。
嘘ですごめんなさい羨ましいです。義理でもなんでも同じだと思っていたやつにマウント取られて血涙大放出してました。
「さっさと帰るか……」
今年のバレンタインは俺にはなにもない虚無の1日だった。
いや、むしろなにもない人の方が多いから俺は普通なのではないか?
羨ましいことが1日でたくさん起こっているせいで本当はなにもない日なんじゃないか?
そう思うとなんか気が楽になった気がする。
今なら街中で手を繋いで「家まで送るよ」なんて言ってるカップルのことも許せそうだ。
は? 許せるわけないだろ。末長く幸せになれや!
今なら世界の全てを破壊することができるくらいに呪いの力が溜まってきた気がする。
うおおおお世界よ! 俺の力に震えてチビれ!
「……なにしてるの?」
「わひゃあ!? お、おま、お前なんでここに!?」
「なんで女子みたいな悲鳴をあげるのよ。うちの前で変なポーズを取られたら気にもなるわ」
花鈴と俺の家は向かい合っているため俺が自分の家の前で奇行に走ったらどう足掻いても見られてしまうことを忘れていた。
「えっとあの……忘れてくれませんか花鈴様」
「嫌だけど」
「後生ですのでどうかお願いします。なんでも、卑きこの私のできることならなんでも致しますのでどうか、どうかお忘れくださいませんか?」
「今なんでもするって言ったよね」
「は、はいもちろんでございますとも花鈴様」
あ、軽率にとんでもないこと言ったな俺。
できることならって付けたからとんでもないことは言われないだろうけど少し怖い……。
「……これ、家で開けて」
「へ?」
「何度も言わせないで。これを家で開けてってお願いしてるの!」
そう言って差し出されたのは包装された綺麗な袋。
「か、勘違いしないでよね!」
突然のことに頭が追いついてこないが、花鈴はもう家に帰っていってしまった。
これってもしかして……。
と、とりあえず自分の部屋に帰ってから開けよう。
慎重に袋を開くと、中には手作りということがわかるハート型の可愛らしいチョコレートと1枚の手紙が入っていた。
「すげぇ……あいつこんなの作れたんだ……」
手紙になにが書かれているか確認すると、そこには「本命だから勘違いしないでよね」と書かれていた。
「え、ええ!? ええええ!?」
家に誰かいたらうるさいと怒られそうなくらい大きな声が部屋に響く。
俺を憐れんだ花鈴が施しとしてくれたのかと思ったとか、色々言いたいこと、思うこともある。
でも一つ言わせてくれ。
「勘違いしないでってそっちかよ!!」
翌日、ぎこちなさそうに一緒に登校する2人の姿があったとかなかったとか……。
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ここまで読んでいただきありがとうございました。
バレンタイン当日には遅刻しましたが許してください。
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