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心霊温泉

作者: みぶ真也

「不思議ものがたり みぶ真也の深夜のみぶ も、今年で十年目ですね」

 サウナの熱気で汗をかきながら、クマさんがぼくに言った。

 クマさんとはアカペラ・グループ ニシン・ガリ・ステーキのリーダー熊沢伸也さんのことだ。

 通称ニシガリと呼ばれるこのグループ名の由来は、メンバーが寿司屋でニシンの寿司とガリを食べながら思いついたという。

「おかげさまで、この1月で十年、よく続いたものだと思うよ。ガチャピンは元気ですか?」

 ガチャピンというのはクマさんの奥さんのニックネームだ。

 加古川の「とん平」という料亭の女将さんである。

「今年の正月は店を休んで妹の加奈子さんと温泉旅行に出かけてます」

「へえ、いいなあ。加奈ちゃんも元気ですか」

 ガチャピンの妹の加奈子さんは、ぼくと同じ事務所に所属していた女優なのだ。

「ええ、相変わらず仲のいい姉妹です」

「ニシガリの皆も元気?」

「ええ、実はメンバー全員、このスーパー銭湯で待ち合わせて、後で一緒に新年会をする予定なんです。みんな、遅いなあ」

「サウナの外にいるんじゃないですか?」

「そうかも知れない。ちょっと見てきます」

 そう言い残して、クマさんがサウナ室から出て行く。

 しばらくしても帰って来ないので、ぼくも部屋を出た。

 正月とあって、外にあるジャグジーや薬湯にも大勢の人が入っているが、クマさんやニシガリのメンバーの姿は見えない。

 このスーパー銭湯には、他にもローマ風呂や電気風呂など様々な施設があり、人を探すとなると広すぎて大変だ。

 あちこちうろうろしていると、「心霊の湯」と書かれた扉を見つけた。効能には「肩こり、頭痛、腰痛、神経痛、不眠に効果あり」と書いてある。

 扉を開けて入ってみると、薄暗い部屋の壁際に日本人形が何十体も並んでいた。

 中央には寝台がある。

 おっかなびっくり進んでいくと

「いらっしゃいませ。寝台の上に横になってください」

 アナウンスの声が響く。

 言われた通りにしたら、奥の扉が開き白衣を着た女性が入室して来た。

「随分、悪い霊に取り憑かれていらっしゃいますね。すぐにお祓いいたします」

 そう言って彼女は近づいて来る。

「では除霊を始めます。肩が凝ってますね」

「はい、パソコンの入力をしてたものですから」

「いえ、そのせいじゃないでしょう。右の肩に狸の霊が憑いてます。これが悪さをしてるんですよ」

 そう言うと、ぼくの右肩に触れて何かを唱える。すーっと肩が軽くなったかと思うと、狸が空中に飛び出した。狸はぼくの顔の前に浮かんだまま、真ん丸い目でこちらを見ている。

「腰痛もありますね」

 白衣の女性が尋ねた。

「はい、ベンチプレスをやり過ぎて」

「いえ、そうではなく、腰にイタチが憑いています」

 腰に触れて呪文を唱えると、嘘のように腰の痛みがなくなり、イタチが飛び出す。イタチの霊はやはりぼくの目の前に浮かび上がり、狸の霊と喧嘩を始めた。

「首が痛いのは蛇の霊が巻き付いてるからです」

 呪文で、今度は大きなニシキヘビが顔の前に出て来た。思わず首をすくめると、ふと、奥にある人形の姿が目に入る。

「あ!…あれは」

 一番奥に並んでいる人形は、どう見てもクマさんの姿をしていた。

 その横の4体は、アカペラグループ ニシガリのメンバーとそっくりだ。

「では、最終的な除霊に入ります」

 女性がさらに呪文を唱えると、すーっと意識が空白になっていく。何かヤバいと感じたが、もう、体が動かない。

「ちょっと、あんた、またこんなことしてんのか!」

 野太い女の声が響き、呪文が止まる。見ると、モップを持った清掃のおばちゃんが立っていた。

「兄ちゃん、ここにおったら魂を抜かれて人形にされてしまうで。この女は除霊しながら、人間の魂を集める妖怪なんや」

 そう言ってモップを振り回すと、白衣の女性の姿が消滅し、周囲に並んでいた人形が全て人間の姿に戻る。皆、自分がどうなったのか分からずキョロキョロしていたが「

掃除の邪魔やからここから出て行ってんか」

 とおばちゃんに言われてぞろぞろと退出した。


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