第99話 男の熱き友情
アメリアとの入念な打ち合わせをした後、俺は早速行動に出る。この任務は時間が重要である。すでにクラスの出し物を決める刻限は一刻と迫っているからだ。
俺は寮に戻るとすぐに自室へと向かう。
まずはエヴィと、それにアルバートへ相談してみることにした。
確か予定では今日はタイミングがいいことに、アルバートが俺たちの部屋に来ることになっていた。主に筋トレをするために。
「ふん……っ!」
「ふっ……ふっ……ふっ……!」
自室に戻ると、そこではエヴィがダンベルを上げ、アルバートがスクワットを行なっていた。滴る汗が煌めいており、俺もすぐにトレーニングに参加したいが今はそれどころでは無い。
「二人とも、トレーニング中にすまない。話がある」
「レイ。今日は遅かったな。どこか行ってたのか?」
筋トレを続行しながら、エヴィがそう尋ねてくる。
「あぁ。アメリアとクラスの出し物について打ち合わせをしていた」
「なるほど……で、俺たちに相談か?」
「その通りだ」
そう会話をすると、二人はそれぞれの器具を所定の位置に戻してからタオルで汗を拭き取る。そしてシャツを着込むと、俺たちはテーブルに集まる。
「まずは資料だ」
アメリアからもらった資料は余分に貰っていたので、それを机の上に広げる。
エヴィとアルバートは資料を受け取ると、興味深そうに目を通す。
「……メイド喫茶か。視点は悪く無いが、この懸念は至極当然のものだな」
冷静に資料内容を吟味した上で、そう話し出すアルバート。
彼もまた、上流貴族の人間。アメリアと同様にこの出し物の懸念事項には、深い理解があるようだった。
「アルバートの言う通り、アメリアとの話でもそれは議題に上がった。問題は女子でもあるが、俺の今の任務はまずは男子達をまとめることにある。アルバート、イケると思うか?」
「……」
顎に手を当てて、熟考する。
その間を縫うようにして、エヴィもまた声をあげた。
「仕事の分担は?」
「全体としては、調理係、接客係、さらには宣伝などの総合係の3つに分担する予定だ。主に懸念事項となっているのは、接客時の服装だ。メイド服、それも完全に新しいもので、デザインは資料に書いてある通り。これを元にメイド喫茶を展開する予定だ」
「なるほどなぁ……俺は別に全然アリだと思うが。やっぱり、上流貴族の反発は出るだろうなぁ……」
エヴィもまた同じ意見。
さて、どうやってこの任務を進行していくべきか……。
そう三人で考えていると、アルバートがこう提案してくる。
「まずは男子の件だが……俺が説得しよう」
「いいのか、アルバート?」
「あぁ。クラスの男子の中でも、俺は貴族の階級としては一番上だ。俺が賛同しているとなれば、了承しやすいだろう」
「それはありがたい話だが、アルバートはいいのか?」
「ん? 何の話だ?」
俺の言っている意味が分からないようで、アルバートは聞き返してくる。
言いたいことはただ一つだった。もちろん、エヴィは賛同してくれると思っていた。
しかし、アルバートまではわからなかった。最近は親交こそあるものの、やはり彼は上流貴族であるからだ。だがこうして彼は、さも当然かのように行動を起こしてくれている。
俺はそれが気になっていたのだ。
アルバートとは今となっては良き友人だ。以前までは別の貴族達のグループに所属していたが、今は俺たちと一緒にいることが多い。
そんな彼は上流貴族としてのプライドを失ったわけでは無いだろう。
やはりどこか、思うところがあるのでは無いだろうか。
そんな趣旨の話を俺は彼に投げかけた。
すると、アルバートはフッと優しい笑みを浮かべる。
「貴族としてのプライドか……そうだな。仮に以前までの俺ならば、反対していただろう。だが何事も挑戦だ。やってみる価値があるだろう。思えば、貴族のプライドなど肥大化し過ぎて何の役にも立ちはしなかった。だからきっと俺は、新しい風が必要だと思う……それに」
「それに?」
俺はそう、問いかける。
「──メイド服が嫌いな男子など、いないだろう?」
ニヤッと賛同を求めるアルバートの顔はどこか少年めいたものだった。そして俺とエヴィもまた声を揃える。
「「そうだな!」」
そして俺たち三人は、早速次の行動を開始する。
◇
時刻は夜の十時半。すでに就寝している生徒もいることだろう。だが俺たち三人は、いや三人だけでは無い。
Aクラスに所属している男子生徒が全員、この夜の教室に集合しているのだ。
三人でそれぞれのクラスメイトの元を訪れ、頼み込んでここに来てもらった。きっと俺だけの力ではこうはいかなかっただろう。未だに一般人である俺に対して、反感を持っている生徒はいるだろうからな。
そして勝手に夜の教室で会議を開く俺たちは、どこか緊張感を纏っていた。
微かな明かりを魔術によって行使して、それを魔石に蓄積することで中央で小さな明かりを照らす。
その明かりの元に集まって、俺たちは会議を開始した。
「さて諸君。集まってもらったのは他でも無い。今回は、文化祭のクラスの出し物について話し合いをするために集まってもらった」
『……』
エヴィとアルバート以外の全員が訝しい目で見てくるが、そのまま話を続ける。
「現在、水面下で進んでいるのは……メイド喫茶という案だ」
『……な!?』
瞬間、衝撃が走る。それはまるで水面に広がる波紋のように、周囲に浸透していく。
「おいおい。マジかよ」
「この伝統ある学院でメイド喫茶? メイドをメインに据えるのか?」
「あぁ。それってやばいんじゃ無いのか?」
「またホワイトが変なことをしてるって思われるぜ?」
「その通りだ。俺は賛同しかねるな」
それぞれの意見が出始めるが、それは想定した通りのものだった。俺はそこで、禁じ手を繰り出すことにした。ちなみにこれは、アメリアの許可を取ってあるものだ。
「諸君。メイド喫茶でのメイド服……気になるだろう?」
『……』
ゴクリと生唾を飲む声が聞こえた。渋っているようだが、やはり気になるものは気になるようで全員が神妙な面持ちで、俺が持ち出した一枚の紙を見つめる。
「そ、それは?」
そう一人が尋ねてくるので、俺はここぞとばかりに声音を真剣なものに変えてこう告げた。
「メイド服のデザイン。しかしこれは、革新的なものだ。なんと言っても、フリルの装飾が増えている上に、スカートが短い。つまり……脚がよく見えるということだ。ここで一つ、いい情報がある」
『ゴクリ……』
「アメリアの脚は、美しいものだった」
瞬間、この教室が阿鼻叫喚に支配される。
「ああああああ!! そうだったのかあああああ!」
「マジか!? マジでホワイトはローズさんを落としたのか!?」
「一般人と三大貴族の禁断の愛なのか!? やっぱり唆るのか!? 禁断の関係はイイのか!?」
「最近妙に仲がいいのは、そういうことだったのかぁあああああああ!?」
「あああああ! 愛しのローズ様があああああ! 難攻不落のアイドルだと思っていたのにいいいいいい!」
む。どういうことだ。この切り札を使えば、「きっと男子もイチコロよっ! まぁ、ちょっと恥ずかしいけど……背に腹は変えられないわっ!」と豪語していたのはアメリアだったはず。
自分を犠牲にしたその精神に俺は感動していたのだが、思っている反応と違うようで困惑してしまう。
「おい、お前ら落ち着けって!」
「そうだ。大丈夫だ。レイとアメリアはまだそんな関係には無い」
エヴィとアルバートがそういうと、男子達は徐々に冷静になっていき、取り敢えず静まってくれた。
「よし。状況を整理しよう」
そう言ったのはアルバートだった。そして彼は俺に落ち着いた声音で質問を投げかけてきた。
「レイ。アメリアの脚を見たとは、どういうことだ?」
「アメリアの私服姿を見たときの話だ。その時はかなり短いスカートを履いていてな。その際に美しい脚がよく見えていた。それだけだ」
「だ、そうだが。みんな」
全員に改めてそう問いかけると、再び騒めきが広がっていく。
「そっか……まだそこまではいっていないのか」
「いや待てよ。それってむしろ、かなり進んでいるのでは?」
「あぁ。どうでもいい男子に、生足なんて見せないだろう」
「間違いない。しかし、ホワイトなのかぁ……いやでも、こいつ顔はイケてるからな。魔術は上手くねえが、実戦は抜群。一般人じゃなければ、かなりの優良物件だよなぁ」
「思えば、ホワイトはどこか普通じゃ無いっていうか……ただの一般人とは思えないというか……」
「ま、でも悪い奴じゃ無いよな」
「それは俺も思った。硬いけど、普通にいいやつだよな。真面目だし。まぁ、真面目すぎるけどな。ははは」
その言葉を皮切りに、ドッと教室内が沸き始める。
俺は今まで、まだクラスメイトと距離感があると思っていた。遠目に見られているのはずっと感じていたし、俺についての噂は収まったがそれでもまだ友人と言える仲ではなかった。
だが男子のみんなはどうやら、俺を受け入れているようだった。俺はその事が、たまらなく嬉しかった。
「う……うぅ……みんな、ありがとう。俺はどうやら……幸せ者だったようだな……」
「おいおい泣くなよ!」
「ははは、男泣きかよ!」
「変わってるなぁ……」
「でもそこがいいやつの証拠だろ?」
「あぁ。一般人でも、いいやつに変わりはないな」
と、暖かい声をかけてくれるみんな。
そして改めて、アルバートが指揮を取ってくれる。
「よし。では男子の賛同は得られたということでいいな?」
『おう!』
「ふ……レイ。お前の誠実な行動が、みんなの心を図らずとも動かしていたんだ。俺も変わった。そして、みんなも実は一生懸命なレイの姿は見ていたさ。魔術剣士競技大会を通して、クラスの奴らはレイを見ていたんだ」
「そ、そうなのか?」
「あぁ。初めは、ただの興味本位だった奴が多いはずだ。でもやはり、レイは愚直で真面目で、そして熱い奴だとみんな理解したんだ」
周りを見ると、全員がうんうんと頷いてくれている。
「そうだぜレイ! お前の筋肉はみんなに伝わっていたんだ!」
エヴィが上腕二頭筋をパンプさせると、再び笑いが起きる。
「おいおい、またエヴィの筋肉談義か?」
「でもホワイトも筋肉すげぇよな? ジムで見たけど、エヴィばりにあったぜ?」
「マジか! マスキュラーモンスターズの噂はマジなのか!」
「あぁ。それにこの学院のあの環境調査部にも所属しているんだ。やっぱり、ホワイトは只者じゃねぇ……それに、こいつは何より面白い奴だからな!」
思わず笑みが漏れてしまう。
初めは針の筵のような状態だった。そこから仲の良い友人を作って、生活を送っていたが……俺はいつかクラスメイトとも打ち解けたいと思っていた。
それがどうだ。
実際は、クラスメイトのみんなは俺のことを見てくれていたのだ。そしてこうして、認めてくれている。
──あぁ、師匠。俺はまた、大切な仲間を手に入れたようです。
「なるほど。みんな……ありがとう。俺には感謝することしかできない。よし、その感謝をこの文化祭で表現しようでは無いか。まずはメイド喫茶を成功させるっ! それも、クラス全員で協力してな!」
『おうっ!』
そして俺たち男子は集まって、今後の作戦を立てていくのだった。
最後の方は騒ぎすぎたようで、警備の人に見つかりかけたが全員で必死に寮まで逃げた。もちろん、全員で笑いながら。
その時、改めて俺たちはクラスの団結力を認識した。
きっとこのクラスならば、最高の出し物を披露できるに違いない。
改めて、そう思った。




