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第70話 終焉

三人称視点


 ついにやってきた、魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエ最終戦である本戦決勝。注目度は新人戦決勝よりも高く、すでに立ち見もかなりの数が出ているほどだ。


 何よりも本戦決勝は、あのルーカス=フォルストがいる。


 本戦の最大のダークホースとして注目を集め、この本戦決勝に至るまでなんと全ての試合でたった刀一振りだけによって勝利を重ねて今に至る。



「……」

「……」



 二人は黙って向かい合っていた。


 ルーカス=フォルストが寡黙なのは知っている。あれほどのメディアによる取材の中でも、彼はただ淡々と話すだけであった。試合の前にも選手と言葉を交わすことはない。


 いつものように長い黒髪を後ろで一つにまとめ、その腰に差している刀に触れている。その刀はいわゆる太刀というものであるが、それは刃渡り百センチを超えており、かなり長い。さらにルーカスの男性にしては小さな身体からしても、異様に長く見える。


 レベッカはそんな彼をじっと見つめる。


 だがそうして見ていると、ルーカスもまたその美しいレベッカの双眸を見据える。


「……レベッカ=ブラッドリィさん。戦えるのを、楽しみにしていました」

「それは、私もです」

「……あなたならきっと、僕を楽しませてくれる」

「……」


 それだけ言うと、ルーカスは腰にある刀の柄へと手を伸ばす。


 すでに完全に臨戦態勢に入っている。


 こうして話しかけてくることに少しだけ面食らうが、レベッカもまた試合に意識を向ける。



「それでは……試合開始ッ!!」



 アビーがそう告げると、魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエの最後の試合が幕を開けた。


 刹那、眼前に迫るのはルーカスのなびく美しい黒髪。その靡く艶やかな黒髪を見つめながら、レベッカの瞳にはまばゆきらめく閃光が映り込む。


「……やりますね」


 そう呟くのは、ルーカスだった。彼は血の付着した刀をヒュッと振るうと地面にそれを散らす。


 一方のレベッカは、後方に下がりつつ右肩を左手で押さえていた。


 浅く切り裂かれた右肩からは、ジワリと真っ赤な跡が広がっていく。


「はぁ……あ……はぁ……あ……はぁ……はぁ……」



 ──避けた。避けることができたけど……。


 この圧倒的な刀(さば)き。はたから見るのと、実際に攻撃を受けるのでは天と地とのほどの差があった。


 それでもレベッカは避け切った。


 そんな彼女の双眸は、金色こんじきに変化していた。また彼女の双眸の周辺には、黄金の第一質料プリママテリア残滓ざんしがパラパラと舞っていた。


「やはり……持っていましたか、魔眼まがんを」


 ルーカスがボソリと呟く。


 そう。


 レベッカは魔術師の中でも珍しい異能を獲得していた。その中でも魔眼と呼ばれるものを有している。


 魔眼とは、魔術的な要因によって発生した異能。それがその双眸に定着したものである。


 それは後天的に獲得することはほぼできないと言われている。先天的に受け継がれている魔眼は、ブラッドリィ家の特徴である。


 魔眼を有する家系で有名なのが、このブラッドリィ家だ。しかし、魔眼を持っているからと言って、必ずしも戦闘で有効に使えるとは限らない。中にはその魔眼の強大な力に呑まれてしまう魔術師もいるほどだ。


 レベッカはその中でも、十代にして魔眼の能力を最大限に引き出し、完全に支配下に置いている。それこそが、昨年の魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエの覇者であるレベッカの本領。


 ──魔眼が、この未来予知眼プレディクションがなかったら……絶対に避けることはできませんでしたね……。それに、未来予知眼プレディクションがあってやっとついていけるなんて……恐ろしい。この魔眼でも完璧に捉えることができないなんて……。


 レベッカの真価。


 それはこの魔眼を駆使した戦闘である。未来予知眼プレディクションは文字どおり、未来を見通す魔眼。


 それはコンディションにもよるが、二秒から五秒程度先の未来が見える。そのため、バランス型ではあるレベッカは超近接距離クロスレンジであっても戦闘を行うことができる。


「……ふぅ」


 ヒュと刀を振るうと、ルーカスはそれを鞘に戻す。


 そして腰を深く落とすと、再びジッとレベッカの姿を見据える。



 ──何を、何を考えているの?



 そうレベッカが思案していると、ルーカスはぼそりと呟く。


 それは独り言かもしれないが、レベッカの耳には確かに届いていた。


「あなたになら、これを出しても良さそうだ」

「……」



 ──間違いなく、何か切り札を……出そうとしていますね。


 もちろんレベッカの魔眼はそれすらも読み切ることができる。未来予知眼プレディクションはレベッカの切り札であり、絶対的な能力だ。だからきっと……次も躱すことができると、そう思っていた。


「……えた」


 視えた未来。


 それに対応するために、レベッカは次々と氷壁を生み出していく。それは相手の攻撃を防御するため。超近接距離クロスレンジに入れさえしなければ、まだ戦える。


 しかしレベッカのその考えは、打ち砕かれることになる。



「こっちですよ」

「──ッ!!」


 ──ありえない。そんなわけがない。私の未来予知眼プレディクションの見た未来が変わるなんてッ!!


 彼女の未来視では、ルーカスはここにいるはずはなかった。だと言うのに、今は後ろに彼がいた。レベッカはバッと後ろに振り向いて、そこから未来予知眼プレディクションを最大出力で解放するが……。


 彼女が最後に聞いたのは、ルーカスの微かな声だった。



「──第八秘剣、残照暗転ざんしょうあんてん



 抜刀。


 ルーカスはその刀を躊躇なく、抜いた。


 そうしてレベッカに映った未来は、眩しい光と漆黒の闇。

 

 その二つが同時に彼女の視界に現れると、レベッカは宙を舞っていた。そして、胸に固定されていた薔薇が綺麗に真っ二つに切断される。


 まるで、時が止まったかのような感覚。


 観客も実況と解説もまた、全員が呑まれていた。


 その圧倒的な刀捌きに。



「……ありがとうございました」



 抜刀した刀をゆっくりと鞘に戻すと、ルーカスは一礼をして……踵を返した。


 それと同時に、会場は爆発的な音量に包まれる。



「け、決着ですっ!! 一瞬の出来事でしたっ!! 魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエ本戦の優勝は……ルーカス=フォルスト選手ですっ! ついにダークホースと評された彼が、この魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエの頂を勝ち取りましたっ!!」



 実況がそう言った瞬間、溢れんばかりの拍手と声援が会場を包み込む。


 レベッカはただ呆然とその場に座り込んで、切り裂かれたその薔薇を信じられない……という表情で見つめる。


 一方でルーカスは、いつものように無表情のままに会場から去っていく。


 だがこの試合を見ていた者の中には気がついた者もいた。


 その秘剣を扱う魔術師の、その正体に……。



「皆さんっ! 盛大な、盛大な拍手をっ!!」



 新人戦優勝は、概念干渉系の固有魔術オリジンを獲得したアメリアが優勝。


 本戦優勝は、最後までその圧倒的な強さを誇ったルーカス=フォルストが優勝。


 魔術らしい魔術も使うことはなく、ただ内部インサイドコードと剣技のみで優勝した、前代未聞の優勝者。


 こうして今年度の魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエは最高の盛り上がりを見せながら、無事に幕を閉じる。


 そう。表向きは──。



 ◇



「さて、と。そろそろだね〜☆ あーあ。この大会も終わりかぁ〜」

「このアホピンク、マジでうるさいな。本当によく学院の教員として雇ったなアビー」

「もうっ! リディアちゃんはいっつも、キャロキャロにそんなこと言うんだから〜☆ でも本当はキャロキャロのこと、大好きなんだよね〜☆ このツンデレさんっ!」

「アビー、このアホピンク……殺していいか?」

「抑えろ、リディア。今はそれどころじゃないだろう」

「ま、そうだな……」



 アビー=ガーネット。

 キャロル=キャロライン

 リディア=エインズワース。


 なぜこの三人が一緒にいるのか。


 今は三人で、レイが先ほど戦闘を繰り広げたさらに地下である、最下層の地下三階にやってきていた。


 ちなみにカーラは別件の処理があるため、今はアビーに車椅子を押してもらっている。


「それにしても、久しぶりだね〜☆ 三人で集まるのっ! 嬉しいな〜、ふふふ☆」

「キャロル。少し黙っていろ。そろそろだ」


 そうアビーが言うと、キャロルはニコリと笑いながら返事をする。


「はーいっ!」


 辿り着いた場所。そこは薄暗い明かりが灯っているだけで、あとは物置として使われている場所だ。


 しかし……ここに目標がいることはすでに確認済みだ。


「キャロル、もういいぞ」

「はーい☆」


 キャロルがパチンと指を鳴らすと、一人の仮面を被った人間がその側に現れる。


「揃ってる〜?」

「はい。こちらに……」


 と、膝をついて男がそう話すと一気にこの場に衝撃が走る。影に潜んでいた魔術師たちはあまりの動揺にその姿を晒してしまう。


「な……!?」

「ど、どうして……ボスが……!?」

「な、何が起こっている……!?」

「……り、理解できない……」



 影の中から現れるのはさらに四人の仮面。大きめのローブを羽織り、それぞれが模様違いの仮面をつけていた。しかしなぜ彼らがそんなにも慌てているのか……それは、ボスとも呼ばれる存在が急にキャロルの元に向かったからだ。


 本来であれば、ここで七大魔術師を討ち取る、またはすぐに逃亡する予定だった。戦闘準備はすでに完了している。この場所にしている仕込みも完璧。遅延魔術ディレイによる結界も構築済み。


 だと言うのに、予想外のことが起きて死神グリムリーパーたちには動揺が走っていた。



「ふんふん。確かに言った通りだね〜☆ よくできましたっ!」

「は。ありがたき幸せ」

「よし。と言うことで、あとはみんなでやっちゃいましょうっ! キャピ☆」


 キャロルの視線はその四人をじっと射抜く。


 口調も言動も依然として、ふざけたものに思える。だが、その双眸だけはまるで何の光も映さない闇のように、ただじっと相手を視線で射抜く。


「……やはり、キャロルは使えるな。リディア、いけるか?」

「誰にものを言っている。すでに終わった」

「ふ。私が領域を展開するまでもなかったか」

「だから言っただろう。アビーは来なくともいいと」

「ま、私は一応な。さて、キャロル。いけるな?」

「はいは〜い☆」


 異常な雰囲気を感じ取って、仮面の四人はすでに逃げる体勢に入っていた。元々はボスに従って、ここに確保していた生徒たちを大会終了に紛れて連れて帰る予定だった。


 しかし、裏切っているとしか思えないボスの存在。


 また、ここにいる死神グリムリーパーたちは分かっていたのだ。この三人にはどう足掻いても……勝てることなど、ないと。情報は持っていた。事前準備もしていた。相手の魔術も理解している……つもりだった。


 だが、その本当の実力は……こうして対面するまで分からなかった。肌が感じ取る威圧感。すでに三人ともに戦闘体勢に入っており、溢れ出る第一質料プリママテリアの密度はかなりのものだ。


 だからこそ、逃げの一手。


 彼らは戦闘もプロ中のプロだが、逃げると言う技術もまた得意なはずだったが……すでに全員共に、その場に固定されてしまったのだ。


「ぐ……!」

「なんだこれは……!」

「う、動けないっ!」

「まさかこれは……っ!」


 リディア=エインズワース。


 彼女は確かに『冰剣の魔術師』を引退したが、別に魔術が使えないわけではない。むしろ、その本質である『減速』と『固定』は依然として使用することができるため、相手をその場に固定するなど容易であった。

 

 それがたとえ、死神グリムリーパーと言う世界的な魔術師の集団であったとしても。


 世界最強と評されていた冰剣の魔術師だったリディアの能力はまだ、現役に限りなく近いものなのだから。


「リディアちゃん、本当に引退したの〜? すごい手際だね〜☆」

「まぁ……全盛期に比べれば、劣っているな。しかしこの程度の雑魚、造作もない」

「ふふふ、そうかもね〜☆ さて、と。みんな、キャロキャロに見せてね……その中身を、さ……」


 動けない四人は意識を手放すこともできずに、自害することもできずに、キャロルの接近を許してしまうが……瞬間、後ろからキャロルの首元めがけて短刀が放たれた。


 しかしそれはそのまま彼女を通り抜けると、地面に突き刺さる。


「あは〜☆ そこにいたんだぁ〜☆」


 にこりと微笑みキャロル。それと同時に、その短刀を放った魔術師は体を固定され、動くことはもう……できない。


「さて、と。これで全員か〜☆ あっさり終わったねっ!」

「はぁ……全くこのアホピンクは言動を改めれば、引く手数多だろうに」

「まぁ言うなリディア。この有能さを扱えるのは、私だけだからな。だからこそ、学院に招いたんだ」

「レイは嫌がっているだろうがな……」

「ま、それを差し引いてもキャロルは世界最高の魔術師だからな。使わないのは世界の損失だ」

「それはそうだが……このイかれた言動はどうにかならんのか」

「諦めろ。もう長い付き合いだろう」

「それもそうだな……」

「えー! 二人ともツンデレさんだなぁ〜☆」


 

 死神グリムリーパーたちは、その場で雑談を繰り広げる三人にただただ、唖然としていた。


 彼らの目的は、アーノルド王国の優秀な魔術師を帝国に連れ去ることだった。そのために、入念な計画を立ててここまできた。


 計画は全てが順調だった。


 途中で一人、当代の冰剣と戦いたいが為に、暴走した愚か者もいたが……それを考慮しても、全てが完璧だった。


 だと言うのに、目の前で起こっている現象は何だ?


 そう考えざるを得なかった。


「よし。では、キャロル。あとは頼む」

「はいは〜い☆」


 キャロルがパチンと指を鳴らすと、コードを一気に走らせる。



第一質料プリママテリア=エンコーディング=物資マテリアルコード》


物資マテリアルコード=ディコーディング》


物質マテリアルコード=プロセシング=支配ヘルシャフト


《エンボディメント=現象フェノメノン



「──とっても可愛キャロル・い私のイン・不思議な世界ワンダーランド



 するとその場にいた六人の死神グリムリーパーは全員がまるで糸が切れた操り人形かのように、パタリと倒れ込んでしまう。意識はすでにキャロルの世界へと呑み込まれていってしまった。


 キャロル=キャロライン。


 彼女は、世間では研究者であり、幻惑の魔術師という異名を有していることで有名だ。七大魔術師の中で、最も有名な存在。そのため、キャロルは幻惑という魔術を得意としていると思われているが……それは違う。


 キャロルの本質は、コードによる魔術領域への干渉にある。


 魔術的に定義するならば、『支配ヘルシャフト』。


 そもそも幻惑というのは、相手の魔術師の魔術領域そのものに干渉して発生させるものだ。そのため、相手に幻覚を見せること、それに洗脳することさえも可能。


 とっても可愛キャロル・い私のイン・不思議な世界ワンダーランドは精神干渉系の固有魔術オリジンであり、これをまともに喰らえば……あとは文字通り、操り人形になるしかないのだ。


 魔術師の魔術領域全てを支配し、その意識にすら介入する魔術こそ、キャロルの本質。


 これこそが、七大魔術師の中でも限りなく最上位に位置する、キャロル=キャロラインの実力である。



「しかしこのアホピンク、大会初日にはボスを支配していたんだろう?」

「そうだな。私も流石にその報告には驚いたな……ただ……」

「あぁ……アレか……」

「こいつはそのことを忘れて、私に説教されている最中にやっと思い出して報告したのだがな……」

「そ、それは何度も謝ったじゃ〜んっ! ゆ、許してよ〜、アビーちゃんっ!」



 そう。実はキャロルはレイたちの女装を手伝った後に、明らかに不審な魔術師がいたので捕らえていたのだ。


 もちろん、支配ヘルシャフトを使って。しかしあろうことか、適当に宿舎の部屋に放り込んだままで忘れていたのだ。


 その後、この事実が発覚した後は、死神グリムリーパーのボスを操って、残りの死神グリムリーパーをこうしてこの場に全員集めて一網打尽にした、というのが事の顛末である。


 攫った生徒たちは生け捕りにして、傷つけることなく連れて帰るのが条件だと発覚していたので、死神グリムリーパーを泳がせて……今に至るというわけだ。


 途中でレイが死神グリムリーパーの一人と戦うことになるなど、イレギュラーはあったが、概ねアビーの計画通りに終了した。


 そう話していると、いつの間にか三人の後ろに立っていたカーラが声をかけてきた。


「皆様、後の処理はこちらでやりますので……」

「おぉ。カーラか。では、任せるか」


 ちょうどカーラに加えて、ヘイル一族がタイミングよくやってきたので彼女たち三人は後処理を任せる。


「えっへん! キャロキャロ、超役にたつでしょ〜☆」

「魔術は確かに世界最高峰だが……よく本当に、学院に入れることができたな。このアホピンク、かなりの気分屋だろう。何か頼んでも、基本的に断るしな」

「そこは色々と条件を、な。でもレイがいるとわかると、すぐに了承したがな」


 そもそもキャロルを学院に招いて、こうして魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエに参加させていたのも、この能力が圧倒的に強力すぎるからだ。


 実際のところ、キャロルの本質を知るものは世界に十人もいない、そのため、初見で戦えば敗北は必至。魔術を発動された時点で、キャロルに抗える魔術師はこの世界にほぼいない。


 キャロル=キャロライン。


 言動に難ありだが、その実力は七大魔術師の中でも最上位に位置するのは間違いなかった。


 だがやはり……この言動だけは誰にも制御できないのもまた、間違い無いものである。



「さてと〜。これから本格的に夏休みだね〜☆ じ・つ・は・キャロキャロ、レイちゃんとデートするので〜すっ! 約束しちゃいましたっ! てへ☆」

「は!? お前、まさかっ!! 私のレイに手を出すのか……!?」

「もう、リディアちゃんのものじゃないも〜んっ! 合法だも〜んっ!」

「き、貴様っ! 合法なわけがあるかっ! ここで氷漬けにしてやろうか……?」


 レイのことになると我を忘れるリディア。彼女はすぐにキレると、そのままキャロルを本気で睨みつける。


 だがここで引くわけにはいかないキャロル。今まではリディアのガードが硬すぎたが、今はかなり緩和している。と言うことで、レイとの交換条件は一日デートをすると言うものだった。


「ふんっ! 負けないもんっ! レイちゃんの童貞は、私のものだもんっ!」

「なんだと……? レイは私が認めたやつとしか交際を許さんぞっ! お前みたいなアホピンクなどに渡せるものかっ!」

「アホピンクじゃないも〜ん! 超絶可愛い、キャロキャロだも〜ん! レイちゃんもきっと大人の魅力に気がつくも〜んっ!」

「は? もう三十歳に近い若作りババアが何を言っているんだ……殺すぞ……?」

「かっち〜ん……もう怒ったもんねっ! リディアちゃんがレイちゃんのことちょいちょいストーカーしてるのバラすもんねっ!」

「はぁ……!? ストーカーではないっ! これは愛情だっ!」

「あ〜やだやだ。いつまでも過保護な親は嫌だよ〜。ほんと、リディアちゃんって……ポンコツだよね〜。レイちゃんのことになるとさ〜。ぷぷぷ……!」

「殺す……絶対に殺す……」

「かかってきなよっ! 返り討ちにしてあげるよっ!」


 と、二人は本格的に魔術での戦闘を繰り広げ始める。


 現七大魔術師であるキャロルと、前七大魔術師とはいえ全盛期並みの力を持つリディア。この二人はよくケンカをしていたものだが、こうして魔術で争うとなると周囲に多大な影響が出るのは間違いなかった。


「はぁ……やれやれ……」


 その後、本気でキレたアビーに二人が数時間も説教されたのは、言うまでもなかった。アビーにだけは頭の上がらない二人は、その場で正座をしながら嫌々ながらも説教を甘んじて受け入れていた。


 こうして真の意味で、魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエは無事に幕を閉じるのだった。


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