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第46話 そして、訓練へ……


 その後、全員で川でのひとときを過ごしていると師匠があることを提案してくる。


「おい。レイ」

「はい。何でしょうか?」

「ちょっと来い」

「? わかりました」


 ずっと微笑ましく、俺たちが川で遊んでいるのを見ていた師匠だが、なぜか俺を呼び出す。そして耳打ちして、あることを伝えてくるのだった。


「なるほど……しかし、師匠も人が悪いですね」

「ふふ……まぁ、お前が教えているとはいえ間接的な私の弟子みたいなものだからな」

「ふ……わかりました。みんなに伝えましょう」


 俺はそういうと、みんなの方へと戻って行く。


「おーい。みんなで滝のある場所に行かないか?」

「滝があるのか?」

「あぁ。エヴィも浴びてみたいだろう? まさに滝行だ」

「おぉ! それは面白そうだな!」


 エヴィはテンションが上がっているし、エリサとクラリスもハイになっているのか妙にニコニコと笑っていた。


「滝! いい響きね!」

「う……うん! 私もちょっと興味あるかも……!」


 一方のアメリアは妙に難しそうな表情をしながら、顎に手を当てて考え込んでいる。


「滝……滝ね……」

「どうしたアメリア」

「いえ別に……何もないけど……なーんか、嫌な予感がするのよね」

「それは気のせいだろう」


 君のような勘のいい……と内心で思うも、とりあえずは全員で滝の方を目指して進んで行く。と言っても川の上流の方にあるので距離はそれほど遠くはない。


 師匠達もまた、隣で並ぶような形で俺たちについてくる。


 そしてやってきたのは、大きな滝の目の前。天からまるでバケツをひっくり返したように降り注ぐ水は、距離があってもこちらに大量の水しぶきが飛んでくるほどであった。


「よし。いくかエヴィ」

「おうよ!」


 ということで、俺とエヴィはそのまま滝に打たれようと歩みを進める。そして滝のちょうど真下に置いてある岩の上に座ると、そのまま全身で圧倒的な勢いの滝を浴び続ける。


 頭、肩、背中、主にそこに集中して大量の水が俺たちに降り注ぐ。それはまさに修行のそれだった。しかし、心頭滅却すれば火もまた涼し。つまりは、心を落ち着かせればこの滝もまた、ただの水に過ぎない。



「……」

「……」



 日頃から筋トレによってメンタルも育んでいる俺たちはスッとこの滝と一体化するようにして、この水を受け止める。今の俺たちはそう……この自然と一体化していた。自然の中にある、一部の生命体。それが水を受け止めている……それだけの、それだけのことだった。



「ふぅ……」

「かなり気持ちよかったな! 俺の筋肉も喜んでるぜ!」

「ふふ。そうだな、この火照ったバルクにはちょうど良いものだった」


 しばらくして俺とエヴィが戻ってくると、女子三人は驚いたような目で俺たちを見つめていた。


「え……二人とも平気なの?」


 そう尋ねてくるのはクラリスだった。彼女はツインテールをしょぼんと垂らしながら、そう聞いてくる。おそらくやってみたい気持ちはあるも、不安なのだろう。


「あぁ。気持ちいいぞ?」

「そうだな! 意外と気持ちいいぞ!」

「う……」


 未だに恐れているのか、クラリスが躊躇していると……前に出てきたのはエリサだった。妙に男前な顔をしているのは、覚悟の表れなのだろうか。


「クラリスちゃん……」

「エリサ、まさか!」


 大天使エリサはその圧倒的な存在感を放って前に出てくる。あまりの圧倒的な存在感に俺とエヴィも思わずたじろいでしまう。


「む……エリサ……やるな」

「へへ……俺の筋肉も震えてるぜ……」


 何、とは詳しく言及しないがその圧倒的な存在感を放つエリサはクラリスと手を繋いでそのまま滝の中へと向かっていく。一方のアメリアはそんな様子を深刻そうな顔で見つめていた。


「あ、エリサ」

「どうかしたの? レイくん?」

「水着、固定したほうがいいぞ」

「あ……そ、そうだね」


 顔を真っ赤にして照れながら、エリサは魔術によって水着を固定する。そうしなければ、滝の勢いによって水着は剥がされてしまうだろう。そんなことになれば、この世界に待っているのは……ラグナロク。神々によってエリサを求めて争う終末戦争が始まってしまう。俺はそうならないためにも、エリサに忠告しておいた。


 どうやら、俺は世界を救ってしまったようだ……。



「……なんで、私には何も言わないのよ」

「いやその水着のタイプからして、大丈夫だろう」

「……なーんか、あんた達さぁ……いやらしい目線というよりも、エリサのことをすごい尊敬の目で見ているのが腹たつ!」

「……」

「……」



 俺とエヴィはクラリスの指摘に対して、黙秘権を貫いた。


 的を射ている。俺たちがエリサにいだいているのは、性的なニュアンスを超えたものだ。まさに大天使エリサを最上の存在として崇めるような……そんなものである。


 俺とエヴィは特にそのことについて会話をしたわけではない。


 が、男たるものこれぐらいは言葉などなしでもコミュニケーションは取れる。それに俺たちには筋肉もある。もはや、肉体で会話をするなど朝飯前だった。



「……」

「あばばばばばばば!!」



 そして二人ともに滝に打たれ始めた。


 エリサはなぜか男前な面構えで、じっと目を瞑ってその滝を体で受け止めている。一方のクラリスは「あばばばばばばば!!」と言いながらも、徐々に慣れてきたのかスッと目を閉じて自然と一体化していく。


「……」

「……」


 二人ともに自然を感じ取っているのか、完全に一体化していた。


 もちろんそれを見て、動かない俺たちではない。俺とエヴィの大胸筋がピクリと反応すると、俺たちもまた二人に並ぶようにして滝の中へと再び進んでいく。



「……」

「……」

「……」

「……」



 俺たち四人はまさに自然だった。世界だった。いや、宇宙そのものだった。この大自然そのものを身体に宿していた。目を瞑ると広がるのは、広大な宇宙。そして大天使エリサがその中にある地球を抱きとめるようにして、微笑んでいる。


 そうか。宇宙の心は、エリサだったのか。


 と、滝に打たれることで謎の悟りを開く俺であった。



「ふぅ……気持ちよかったな」

「あぁ!」

「う……うん! やってみてよかったよ……!」

「意外といいものね!」



 と、四人で滝に打たれることの楽しさを共有する。だが一人足りていない。その残り一人といえば……よく見ると、魔術によって師匠に拘束されていた。



「レイ、脱走兵を確保しておいたぞ」

「ありがとうございます。師匠」



 師匠は下半身が麻痺しているとはいえ、まだ魔術は現役だ。そして師匠の本質は、『減速』と『固定』。アメリアをその場に捕縛するようにして、固定するなど容易なことだった。というよりも、軍人時代はこうして脱走する兵士を大量に確保していた。


 久しぶりに見たな。と懐かしい気持ちになるも、今はプルプルと震えているアメリアの方に近づいていく。



「さてアメリア訓練兵」

「ひ……ヒィィィィイイイイイ! に、人間はあんな滝に打たれたら死んじゃうわよっ!」

「返事はレンジャーと言っただろうッ!!」


 問答無用と言わんばかりに、俺はいつものように声をあげた。心にすでに刻まれているようで、アメリアは反射的に返事をする。


「れ、れんじゃああああああ!!」

「ということで、俺と一緒に心頭滅却するためにも一時間の滝行だ」

「い、いやああああああああ」


 そして、ズルズルと引きずるようにして、アメリア訓練兵を滝の元へと連れていく。そしてその際に、じっと見つめている三人に助けを乞うような目線を向けて、声を荒げるアメリア。


「み、みんな助けて……!」

「大丈夫よ! 意外となんとかなるものだから!」

「く、クラリスぅ……」

「そうだな! 気持ちいいもんだ!」

「その筋肉だとそうでしょうねぇ! でも私はか弱い乙女なのよ!」


 クラリスとエヴィに一蹴されてしまい、最後に求めるのは大天使エリサの慈悲。

 

 だが天使もまた、いつも優しいとは……限らないのだ。


「え、エリサ……あなたなら……優しいあなたなら助けてくれるわよね……?」

「アメリアちゃん……」


 真面目な顔つきになっているエリサが、フッと微笑みながらアメリアに告げる。


「な、なに?」

「女には、いくしかない時も……あるんだよ」

「な、何の扉を開いたの!?」

「大丈夫だよ! きっと楽しいから!」

「嘘よおおおおおおおお!」


 アメリアの助けを求める声は虚しく響き、そのまま彼女は俺に引きずられて行く。


「アメリア訓練兵。大丈夫だ、安心しろ。きっとすぐに気持ちよくなる」

「うわあああん!」


 そして、エヴィ、クラリス、エリサが俺たちに向かって敬礼をしてくるので俺もまた敬礼を返して、そのまま滝の中へと向かっていく。


「あばばばばばばばばばば!!」


 アメリアの悲痛な声も、それはもう響きに響いた。


 だが、もちろんこんなところで終わりはしない。真の訓練はここから始まるのだ。せっかく、川に来たのだ。ならばこれを活かさない手はない。


「よし。では、50キロ遠泳するか。川の長さは短いが、往復すればなんてことはないだろう。深さも十分にあるし、川の流れもいい負荷になる」

 

 そういうとニヤニヤと笑いながら近づいて来た師匠が、さらなる提案をしてくる。


「いやレイ。ここは100キロだろう」

「む……なるほど、流石は師匠。ではアメリア訓練兵。100キロ遠泳行くぞッ!!」

「もうやめてええええええ!! 師弟で私をいじめないでええええ!! う、うわああああああああん!」



 ということで、アメリアは今日も無事に訓練に励むのであった。

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