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第36話 結成の時



「部長ッ!!」


 バンッと扉を開ける。


 環境調査部の部室。俺は今日も部活ということでやってきたのだが、今回はある願いが俺にはあった。


「どうしたレイ」

「部長……いえ、皆さんにお願いが」

「いいだろう。次期エースのお前の話だ。言ってみろ」

「はい実は……」



 意を決して俺は言葉を紡ぐ。



「アメリア応援団を、結成したいのですッ!!」



 刹那、ざわめきが部室内に広まる。



「……アメリア=ローズか」

「あの三大貴族筆頭か」

「しかし応援団を作ってもいいのか?」

「あぁ。三大貴族はデリケートだからな」

「でもかなり美人だよな。俺、実はちょっとファンで……」

「お前もかよ! 実は俺も……」



 部員の方々の反応は、あまり悪くないようだった。



「なるほど。で、なぜ俺たちを頼った? 俺は運営としての仕事もある。でもそれはレイも同じだろう?」



 その圧倒的な筋肉がまるで俺を包み込むようにして、問いかけて来る。


 そう……すでに俺たちは衣服を脱ぎ去っていた。それはもはや意識内での行動ではない。無意識に、この身体に刷り込まれている潜在意識が、そうしろと語りかけてきたのだ。


 この圧倒的な空間では衣服など邪魔でしかない。


 俺たちは自然と、このバルクで語り始めていた。



「応援……それは気持ちも大事ですが、やはり声量も重要だと思うのです」

「続けろ」

「そしてさらには、応援にはその圧倒的な存在感もまた、重要なファクターだと考えました」

「なるほど……」

「応援してくれる者の存在感を感じて戦える。それは大きな強みです。そしてその存在感こそ……筋肉だと理解しました」

「……」

「宇宙の心は、筋肉なのです」


 もはや自分でも何を言っているのか、意識などしていない。ただ心にあるこの情熱を、言葉という形で具現化しているに過ぎない。


「……ふ。そうか、そういうことか」

「この学院の中でも最高峰のバルクを備える私達ならば、最高の応援ができると思うのです」

「おい、お前ら……この話、乗ってみないか?」



 部長がチラッと後ろを見ると、部員たちもそれに賛同してくれる。



「もちろんだ!!」

「あぁ!! 最高のバルクで応援してやろうぜ!!」

「アメリア応援団か……へへ、最高じゃねぇか!!」

「よっしゃあ! やったるぜぇ!!」



 やはり言ってよかったな……俺はそう思っていた。


 どうやら改めて調べてみると、このように各選手に応援団なるものは存在しているらしい。その中でも一大勢力を築いているのはレベッカ先輩の応援団らしい。それはもはや学院の枠すら超えているとか……。やはりレベッカ先輩は偉大なお方のようだった。


 そしてそれを率いているのはセラ先輩。彼女は何かと掛け持ちをしているが、それが生き甲斐だと言っていたので、それも生き方の一つなのか……と妙に納得した。


 俺はそれらに触発されて、こうしてアメリア応援団を設立しようと考えたのだ。



「さて、レイよ。まずは形からだ」

「形……ですか?」

「あぁ。つまりは……応援団の制服を作ることからだな」

「なるほど……勉強になります」



 部長は圧倒的なバルクを見せ付けながら、そのままカーテンのある窓側へと歩いていく。そしてくるっとこちらを向くと部員全員に告げるのだった。



「いいか!! 俺たちがやるからには、半端は許されないッ!!」

『おうッ!!』

「アメリア応援団、いいじゃないかッ!! 魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエで見せつけるぞッ!! 俺たちの圧倒的なバルクをッ!!」

『おうッ!!』



 と、いうことで俺たちは早速その作業に入るのだった。



 ◇



「うお……っ!!? なんだこれっ!!」



 それから少し遅れて、エヴィがやってきた。しかし部室の扉を開けた途端、妙に驚いているようだった。



「え……何してるんだ、これ?」

「エヴィ。俺が説明しよう」

「レイ……どうなってるんだ、こりゃあ?」

「ハチマキと法被はっぴ、それに団旗を作成中だ」

「いや……それはそうなのかもしれないが……なんでやっているんだ?」

「アメリア応援団、結成だ」

「アメリア応援団? 文字通りの意味か?」

「そうだ。アメリアを応援する団体を結成した。主に環境調査部がメンバーだがな。エヴィも参加するだろう」

「ふっ……なるほどな。愚問だ。もちろん俺もやるぜ!」

「ふふふ……よし、ということでエヴィにも手伝ってもらおうか」

「おう!!」



 現在は全員で縫い物をしている。ハチマキにペンで『アメリア応援団』と書くことなどしない。


 手縫いである。


 なぜか部長は裁縫セット、それに大量の布を持っていた。しかも、服を作った経験もあるということで型紙パターン作成からデザインまでやってくれるという。


 また他の部員もこの作業には慣れているのか、屈強な男たちが集まってそれぞれ細やかな作業を行なっていた。


 これも全て日頃の筋トレの成果だろう。


 そうして俺たちもまた、その作業に従事する。



「失礼しまーす……」

「お……お邪魔します……っ!」



 それからまた数分後、やってきたのはクラリスとエリサだった。二人にはすでに内容を伝えてあり、了承してくれている。あまり男性ばかりでも仕方ないので、アメリア応援団には二人も参加してもらうことになった。


 ちょうどアメリアの応援をしたいとのことだったので、いい機会だと二人も言っていたしな。



「おぉ!! 二人とも、よくきてくれた!!」

「ちょ……!? あんた裸じゃない……!? ていうか、みんな服着てないの……!?」

「……え!? え!?」

「慌てるな二人とも。ボクサーパンツは履いている」

「そんなことはどうでもいいのよっ! 女子二人が来てるんだから、ちゃんとしてよねっ!!」

「む……すまない。部長、ということらしいです!!」



 俺が大きな声をあげてそう伝えると、縫い物をチマチマとしている部長が顔を上げる。



「ん? あぁ、すまないな。普段はこの格好が普通でな。おい、お前ら一年生の女子が来たんだ! 各自、制服を着用だ!」

『おうっ!』



 ということで、クラリスとエリサには少しだけ外に出てもらい俺たちは改めて制服を着用。全員がそうして作業を再開すると、二人を再び部室へと招き入れる。



「すまないな二人とも。ささ、入ってくれ」

「もうっ!! 気をつけてよねっ!!」

「筋肉……筋肉がいっぱいだよう……」



 改めて、環境調査部全員とクラリスとエリサを加えてアメリア応援団は本格的に始動するのだった。



 ◇



「はぁ……はぁ……はぁ……」

「アメリア訓練兵。今日はここまでにしておこう」

「れ、レンジャーッ!!」



 今日も今日とて、アメリアとの訓練を行なっていた。現在は身体強化はほぼ終了し、次の段階である魔術強化の週間に入った。エインズワース式ブートキャンプの真の過酷さは実はここから。もちろん、身体強化を図る期間もかなり大変だが……この魔術強化の週間こそ最も過酷。


 それは主に、コード理論の中でも処理の過程を徹底的に訓練するからだ。


 現在、アメリアの目の前には様々な形の氷細工が置かれていた。そして俺が指定したものを生み出すと、それを指定時間以内に溶かしていく。もちろん、爆破などで粉々にするのは論外だ。内部からじわじわと熱で溶かす……つまりは内部の分子を振動させて、熱を発生させるという過程をコードに組み込んで、魔術を行使するのだ。


 元々思っていたことなのだが、アメリアは魔術容量キャパシティが大きいために、コード理論の中でも処理の過程を大雑把にしてしまう傾向にあった。


 むしろ、魔術容量キャパシティが小さい魔術師の方が処理の過程は丁寧に行う傾向にあるが……やはり、魔術容量キャパシティが大きいからこそ細やかな処理が必要となる。


 アメリアは今まで有り余る才能でそれを補って来たが……もう、それは通用しない。


 魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエに関して独自の調査、特にアメリアと対戦するだろう生徒のデータを集めたいところだが、誰もがかなりの技術を有している為に対象を絞り込むのは難しい。だからこそ、ここから先はより繊細な魔術の技量が要求されるのだ。


「水分だ」

「あ……ありがとう……」


 水筒を渡すと、アメリアは一気に喉に流し込んでいき、残りを頭へと流していく。恐らくは魔術領域暴走オーバーヒートまではいかないまでも、かなり発熱しているのだろう。それにこの天候だ。夏の灼熱は容赦なく、俺たちを照らしつける。



「どうだ? 調子は?」

「今まで自分がどれだけ適当に魔術をやってきたか、思い知っているわ……」

「正直言って、アメリアは雑すぎるな。学生レベルならいいが、魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエでのレベルはかなり高い。それにオルグレン家の長女はなかなかに手強そうだ。これぐらいの技量は基本になるだろう」

「アリアーヌのこと調べたの?」

「あぁ。アリアーヌ=オルグレン。身長は175センチで何よりも手足のリーチがかなり長い。これは戦闘においてかなりのアドバンテージになる。さらに特筆すべきは、その魔術の繊細さ。聖級魔術も使用できるらしいな。しかし、魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエでは高速魔術クイック連鎖魔術チェイン遅延魔術ディレイが重要になる。だがそれは相手も承知の上だろう。と言ってもこれは誰にでも集められる情報だ。そこで、明日俺はディオム魔術学院に潜入する」


 そう告げると、アメリアの表情は驚愕の一色に染まる。


「……え!? せ、潜入……!?」

「そうだ。任せておけ。この手のスニーキングミッションには慣れている。敵地、敵施設への潜入、破壊工作、諜報活動は一通り経験があるし、師匠にも叩き込まれている。必ずや、最高の成果を手に入れよう」

「……それって大丈夫なの?」

「もちろんだ。俺を信じろ」

「そういう意味じゃないけど……どうせ止めても行くからいいけど……明日の休日はいつもの訓練をすればいいの?」

「あぁ。自主練で頼む。流石にサボったりはしないだろう?」

「もちろん! まぁ……レイも頑張ってね……」

「ふ、任せておけ」



 俺はアメリアのためには最大限のことをしてやりたい。そのために、魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエの新人戦に参戦する優勝候補のデータは集めるに限る。


 とりあえずは各学院の制服を入手して、素知らぬ顔で校内を闊歩かっぽするか……学院という条件ならば、これは意外にも効果的だ。逆にスニーキングをするのもいいが、それは状況に応じて使い分けるか……。



 そして俺は明日のミッションに向けて、色々と準備を始めるのだった。

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