第309話 比翼連理
あとがきにて大切なお知らせがあります。最後までお読みいただければ幸いです。
「どうやら、リーゼの方は終わったようじゃの」
戦いを繰り広げながら、フランは自分の後方で行われていたリーゼの戦闘が終了したのを感じ取った。彼女はリーゼの本質を知る数少ない人間であり、たとえ相手が戦闘に長けていようとも負けるとは全く思っていなかった。
だからこそ、リーゼに任せたのだが……どうやらフランが思っていた以上に戦闘は圧勝だったようだ。
「バカな……あのツヴァイが負ける、だと?」
ゼクスもまた決着の瞬間を目撃していた。現在は二人とも距離感を取りながら魔術戦を繰り広げていたのだが、彼はまさかツヴァイが敗北するわけがないと思っていた。
それはやはり、自分たちが第零質料を有する特別な人間だと思っていたからだろう。神に選ばれし、特別な存在。それがたかが普通の人間に敗北したことが彼は信じられなかった。
「お主たちはどうやら、変な勘違いをしているようじゃの」
「勘違い……だと?」
フランは真っ赤な双眸でゼクスのことを射抜く。彼の脳内には嫌な予感が過ぎっていた。あり得ない事実ではあるが、間違いなく目の前で起きたのはツヴァイの敗北。
さらにリーゼがこの戦闘に加わることも考えなければならない。七大魔術師二人に対してどうやって立ち回っていくのか。そう思考を巡らせていると、フランの後ろにはリーゼがゆっくりとやってきていた。
リーゼの頬にはツヴァイの返り血が散っていたが、それを拭うことなく淡々と言葉を告げる。
「フランさん。終わりましたよ」
「うむ。見事じゃな」
「手伝いましょうか?」
「いいや。一人で十分じゃ」
「分かりました。では、私は後ろで控えていますので」
「うむ」
リーゼはそう言うと、少しだけ離れたところに位置を取る。どうやら本当に戦闘に参加するつもりはないようで、フランとゼクスの戦いを見守るようだった。
「舐めているんですか……?」
「いや。これは事実じゃ、小僧。お前はこの我には勝てぬよ」
「いいでしょう。これは最後までとっておこうと思ってましたが……認識を改めます。あなたたちは確実に殺します」
瞬間。
ゼクスの体からは、大量のドス黒い粒子が溢れ出てくる。それは第一質料ではなく、第零質料と呼ばれているものだ。それが一気にこの周辺の領域を覆っていくと、世界は暗黒に支配されてしまった。
フランはそれを妨害することなく、ただじっと見つめていた。その様子にさすがのゼクスは苛立ちを覚えてしまうのだった。
「……邪魔をしてこないとは、本当に私のことを舐めているようですね」
「さっきから言っておるじゃろう。ただの事実であると。小僧、御託はいい。さっさとかかってこい」
「……殺す」
静かな怒りを灯しながらゼクスは両手を天に掲げると、彼の手中には黒い塊が生成されていく。その中には紅蓮の炎も混ざっており、赤と黒の禍々しい球体が生み出されていた。
瞬間。
それが弾け飛んだ。
「──精神掌握」
弾け飛んだ粒子が一気にフランへと流れ込んでいく。それは不可避の攻撃であり、どうやっても避けることはできない。
ゼクスの本質は第零質料を使用した精神掌握である。この極東戦役で数多くの兵士の心を操り、同士打ちをさせるなど非人道的な魔法を使い続けていた。彼は決して殺戮に悦を覚えるタイプではない。その根幹にあるのは、既存の人類を徹底的に見下していると言う精神だった。
七賢人こそが至高であり、いわば神の代理人とすら彼は思っていた。そんな自分たちがただの人間に敗北していいわけがない。
それこそが彼を支えている全てだった。
「……狂って、死ね」
すでにゼクスはフランの精神を掌握している。彼女は先ほどの態度とは打って変わって、だらんと腕を下げてその場に茫然と立ち尽くしている。その瞳にも生気が宿っているようには見えず、まるで死人のようだった。
ゼクスは右手をスッと掲げると、握り潰すような動作を見せた。それは人間の根幹にある精神を握り潰すと言う動作の現れ。今まで数多くの人間の精神を破壊して、戦場に混乱を招いてきた。
しかし──フランは一向に発狂する様子はなかった。
「……あ、は? どう言うことだ? 私の魔法は発動しているはずだッ!!」
大声を上げる。
それもそうだろう。彼の魔法を逃れることのできる人間など存在はしない。だが目の前にいるフランは依然として先ほどと同じようにだらんと腕を下げてままだった。
「ねぇ。あなた、私たちをどうにかできると本当に思っているの?」
女性の声だった。
声音だけ聞けばそれは若い女性の声だと分かるだろう。だが、ここにいるのはフランだけのはず。どうして別の人間がいるのかと思って、彼はバッと声のする方に振り向いた。するとそこにいたのは、フランと全く同じ容姿をした人間が立っていた。
「ふむ。なかなかいい攻撃じゃったが、やはり我には届かんの」
前後にいるのは、どちらもフランだった。
比翼の魔術師。七賢人であっても、七大魔術師の本質を全て知っているわけではない。その中でも比翼の魔術師はかなりの謎に包まれている。
七大魔術師としては最も長く活動を続けているが、その本質を知る人間は殆どいない。否──殆ど会ったことがないと形容すべきだろう。
なぜ彼女の名前が比翼の魔術師なのか。それはフランという人間が二人存在しているからだった。
「フラン。あなた、私を出すのならもうちょっと前から相談してくれない?」
「そうは言っても、ララン。お主はいつも表に出るのは嫌がるじゃろ」
「まぁね。今回はどうしてもっていうから出てきたけど、この雑魚なに?」
ゼクスを挟むようにして二人は会話を続ける。まるでそこに彼が存在していないかのように。
「私の攻撃が、効かない……だと?」
「この雑魚、殺すの?」
「うむ。致し方ないことじゃ」
二人は前後で挟む混むような形で魔術を発動した。
《第一質料=エンコーディング=物資コード》
《物資コード=ディコーディング》
《物質コード=プロセシング=分裂》
《エンボディメント=現象》
「「──質料分裂」」
ゼクスは魔術の発動の兆候を感じ取った瞬間に防御障壁を展開。自分の攻撃が通用しないからと言って、まだ決して負けたわけではない。まずは相手の攻撃を見て、反撃を窺うべきだと思っていたが……彼の体は既に縦に綺麗に裂かれてしまっていた。
「な……これほど……と……は……」
最期の言葉を残してゼクスは絶命。
すると周囲に展開された領域も綺麗に晴れてて無くなる。それと同時に、リーゼはもう一人の彼女に挨拶をするのだった。
「ラランさん。お久しぶりです」
「あぁ。リーゼじゃない。元気してた?」
「はい」
「そう。それは良かったわ。あなたも力を使ったみたいね」
「はい。といっても相手は取るに足らない実力でしたが」
「ふふ。流石はリーゼね」
フランの本質は分裂。彼女は幼少期に気がついたのだ。自分の中に、もう一人の自分が存在していることに。そして成長するにつれて、魔術の本質が分裂にあることに気がついた。容姿は魔術の影響でほぼ変化せず、彼女の中にはラランというもう一人の人格が宿るようになった。
互いに本質は同じだが、性格はまるで逆。またラランが表に出ることは殆どない。彼女を知る者はそれこそ、リーゼなどの親しい人間に限られてくる。
「ふぅ。終わったようじゃの」
「私を呼ぶなんて、よっぽどの相手と思ったけど……こいつ、魔術を使ってなかったわね。前からあなたが研究していたやつ?」
「そうじゃな。ただこれはまだ前座じゃろう。相手の真の目的は別にあると我は思っておる」
「それは?」
ラランがそう尋ねるが、フランは首を横に振る。
「核心には届いておらん。しかし、これで極東戦役が無事に終わるとは毛頭思えないの」
「──レイという少年。彼が特異点になるのではないでしょうか」
リーゼのその言葉に対して、フランは腕組みをしながら難しい顔で答える。
「……リディアの弟子、か。あの二人が中心になっているのは間違いないじゃろうな。さて、とりあえずは我たちのやることは終わった。帰るかの」
「もう戻ってもいい?」
「いいぞ、ララン」
「はーい」
そうしてフランの元にラランが戻ると、その場にはフランとリーゼだけが残された。
一見すれば戦いは王国側が優勢であり、七賢人を三人も屠った七大魔術師の方が圧倒的に見えるだろう。
だが戦況はさらに思わぬ方向へと進むことになるのだった。
この度は、読者の皆様に大切なお知らせがあります(今回は特に重要な内容なので、最後までお付き合いいただければ幸いです)
正直なお話をすると……冰剣の魔術師が世界を統べるですが、2巻の売り上げと1巻の動き方(もう一度売れるかどうか)次第では今後も書籍版を出していくのは難しい……というのが現状でして。
そうなると、おそらくこのWeb版も続けていくことが難しくなってしまいます。だからこそ、いつもお読みいただいている皆様に特にご協力していただきたいと思っております。
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特に発売して1、2週間が特に重要でして……早めにお手にとっていただけると非常に嬉しいです。
またこれを機会に1巻がまだの方は、1巻も是非手に取っていただければと思います!(実際、1巻の伸びも続刊にはかなり重要になります……こちらもよろしくお願いします!)
1巻も既読の方が楽しめるように、大量に加筆修正(書籍版オリジナルエピソード多数収録)しておりますので。
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最後になりますが、本作を長く続けるためにも皆様一人一人のご協力が、誇張抜きで本当にとても大きな力になります。
この作品をここまで書くことができたのは、読者の皆様の力があったからこそです。是非、今後とも一緒に本作をさらに育てていくことが出来れば、これ以上嬉しいことはありません。
長々となりましたが……それでは何卒、原作小説第2巻をよろしくお願いいたします。1巻がまだの方は、是非1巻2巻ともによろしくお願いします! (このページ下部の書影からご予約のページに進むことができます)




