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第232話 雪合戦をしよう!


「ふぅ……」


 食事を取ったところで、何をしようかと思っていたところ、ちょうど目の前ではクラリスがツインテールを靡かせながらコロコロと雪玉を転がしていた。


「クラリス。何をしているんだ?」

「見ればわかるでしょっ!」


 と、鼻を真っ赤にしながら彼女は大きな声でそう言ってくる。俺は見ても分からないので、詳しく聞いてみることにした。


「すまない。見ても分からないんだが」

「ふふん! 雪だるまよっ!」

「雪だるま?」


 雪だるま。確か、話には聞いたことがある気がする。大きな雪玉を二つ重ねて、成形するものだとか。ちょうどエリサもまた、隣で小さな雪玉を一生懸命に転がしていた。


「エリサも作っているのか?」

「う……うんっ! クラリスちゃんが大きいのを作りたいからって!」

「なるほど……」


 雪だるまか。


 冬に雪遊びをすることはあまりなかったのだが、これもいい機会だろう。


 ということで、俺もまたその雪だるまを作ることにした。


「おぉ! 雪だるまかっ!」

「ふむ。では、俺たちはアレをやってみるか」


 エヴィとアルバートもまた、かなりやる気があるようだった。ちょうど食事を取り終わったので、腹ごなしにはちょうどいい。


 そうして俺たちは手分けして、複数の雪だるまを作ってみることにした。


 今日は幸いなことに、昨夜かなり雪が降ったようなので十分に雪だるまを作るだけの雪は残っている。


 まずは手で小さな雪玉を作ると、それを腰を低くしながら器用に転がしていく。転がせば転がすほど、雪玉は徐々に大きくなっていき、その作業を淡々と続ける。


 気がつけば、エリサとクラリスは二人で大きな雪だるまを作り上げていた。


 バランスを整えるために、上下の雪の量は調整しているようだった。上の方は小さく、下の方はどっしりとしている。


「よし! こんなものね!」

「うん……可愛いねっ!」


 その隣で、エヴィとアルバートは大きなかまくらを作り上げていた。


 かまくらか……極東戦役の頃は、氷を整形して魔術によって壁を作って戦闘をしていた時もあった。


 かまくらはそれに近いようなものに感じた。俺は、ひとまず作っている雪玉をそっとその場に置くと、二人の元へと近づいていくのだった。


「二人とも、なかなかいいかまくらだな」

「へへ! 昔から、これを作るのは得意でな!」

「ふ。俺も久しぶりに、心が踊っている」


 その中を見ると、しっかりと大きな空間が作られていた。そこにエリサとクラリスを呼ぶと、ちょうど二人はすっぽりと入るほどには、大きな空間だった。


「うわ……っ! すっごい、広いわね!」

「そうだね……っ! すごいね……っ!」


 と、二人ともにはしゃいでいるようだった。こうして雪遊びをするのは、意外と楽しいものだと思った。


 いやきっとそれは、雪遊びが楽しいのではなく、みんなで遊ぶのが楽しいに違いない。


 その後。俺は一人で、淡々と雪玉を転がし続けた。ころころ、ころころ、ころころ、と一心不乱に雪玉を転がしていく。


 すると、ちょうどいい大きさになったので次は上の部分を作っていく。


 下よりも大きくなる必要はないので、意外とあっさりと終了。それを上に乗せると、ちょうど自分の身長くらいの大きな雪だるまが完成するのだった。


「よし……っ!」


 すると、完成した俺の雪だるまをみんなも見にくるのだった。


「うわ! でかっ! レイ、あんたやりすぎよっ!」

「うわぁ……大きいねぇ……」


 クラリスは俺に向かってそういうが、興奮しているのか、ツインテールはぴょこぴょこと上下に激しく動いていた。


 エリサもまた、この大きさに唖然としているようだった。


「ふふふ。レイ、どうやら……俺の方が大きいみたいだな!」

「む……エヴィ。やるな」


 気がつけば、さらに隣にはエヴィの作った巨大な雪だるまが生まれていた。しかし、その隣には……。


「ふ。雪だるまには、自信がある。俺のものが一番大きいな」


 そう。アルバートが作った雪だるまは、その中でも一番巨大なものだった。それこそ、俺たちの身長を僅かに超えるほどには。


 没頭して作業していたので気がつかなかったが、いつの間に……こんなものを……。


「むむむ! 私だって、負けないわよっ!」

「あ。待ってよー! クラリスちゃーんっ!」


 パタパタと走っていく二人。そうして俺たちは、さらに雪だるま作りに没頭するのだった。



「え……」

「何これ」

「でっかい! でっかいですわっ!」


 アリアーヌを連れ去ってどこかへ消えていたアメリアとレベッカ先輩だが、ちょうど三人ともに帰ってきた。


 もちろん、三人はかなり驚いているようだった。しかしそれも無理はない。


 この場にはすでに十を超える雪だるまがあるのだから。それに、そのサイズも徐々に大きくなっている。


 すでに人の体を優に超えるものまで、できていたのだ。


 最後には個別ではなく、全員で協力しようということになって五人で一番大きな雪だるまを作った。


 少々汗をかいてしまったが、とてもいいものができたと思う。


「えぇ……普通にちょっと凄すぎて、引くんだけど……」


 アメリアは驚いているというよりも、少しだけ引いていた。その一方で、レベッカ先輩とアリアーヌはテンションが上がっていた。


「すごい! すごい! とっても大きいですね!」

「ワンダフルですわっ! みんな、やりますわねっ!」


 大きな雪だるまの周りをパタパタと走って眺める様子は、どこか微笑ましかった。

 

 そしてちょうど、三人が帰ってきたところでアレをしようと思っていたのだ。


「よし。では、雪合戦をしようっ!」


 俺はそう、高らかに宣言をする。


「雪合戦! それはたぎりますわねっ!」


 すでにこの場に残っていたメンバーには伝えてあったので、あとはアメリア、アリアーヌ、レベッカ先輩の許可を取るだけだ。


「雪合戦ですかっ! それは楽しそうですねっ!」

「ふ〜ん。雪合戦かぁ……やってもいいけど。ふふふ」


 ということで、俺たちはさっそくチーム分けをすることになった。グーとパーで別れると、ちょうど二回目で四人ずつに別れることになった。


 俺、クラリス、アルバート、アリアーヌ。


 エヴィ、アメリア、レベッカ先輩、エリサ。


 このチーム構成になったので、俺たちはとりあえずは雪の壁をいくつか作ると、それをギュッと固めていく。


 魔術の使用は不可だが、こうして準備をする時には魔術を使って時間を短縮する。


 ルールとしては、一度当たれば終了。先に全員当てられた方が、負けである。


「では、スタートだッ!!」


 そう声をあげたと同時に、相手側からこれでもか雪玉が飛んで来る。それはまさに、雪の弾幕。


 おそらくは、生成するにあたってプロ級の人材がいるに違いない。俺の予想だが、それはきっとエリサだろう。彼女は細かな作業が得意だ。きっとあの壁の後ろで、せっせと雪玉を作っているのだろう。


「レイ、どうするの?」


 クラリスが指示を待っている。アルバートとアリアーヌもまた、俺の言葉を待っているようだった。


「まずはエリサを狙うべきだろう。きっとあの火力は、エリサが根幹になっている」

「「「了解(よ!)(ですわ!)!」」」


 そうして俺たちは徐々に前線を上げていく。向こうのチームとは違って、弾幕で押すのではなく、じりじりと前線を上げる。


 そして、手元にある数少ない雪玉を的確に狙っていく。


「ふははは! 俺の筋肉の前には、雪玉なんか効かないぜ!!」


 エヴィがその巨体を見せつけるようにして出てくるが、ぽいっとクラリスが雪玉を投げると直撃。


「エヴィ。退場だ」

「し、しまった! つい、やっちまったぜ!」


 そうして残りのメンバーはレベッカ先輩、アメリア、エリサの三人だ。一箇所から狙うのではなく、複数の方向から狙いを定める。俗にいう、クロスを組むというやつだ。


 ハンドサインで指示を送ると、颯爽と雪玉が次々と放たれていく。


「あらら。当たっちゃいましたね……」


 レベッカ先輩は退場となった。しかし、あちらの根幹であるエリサはその姿をなかなか見せようとはしない。


 アメリアは、なんとかエリサと二人で耐え切っているようだった。


「さて、どうするか……」


 と、思考しているとクラリスの声が聞こえてくる。


「いたっ! うぅ……当たったみたい……でもどこから?」


 とぼとぼとこの場から離脱するクラリス。どうやら、こちらのチームの残りは俺、アルバート、アリアーヌだけになったが……次の瞬間。


 アルバートが雪玉に当たってしまうのだった。


「む。当たってしまったか。しかし、全く見えなかったな」


 そうしてついに、状況は二対二になった。ここでどう動くべきか、果たして……。


 それにしても、クラリスとアルバートを狙い撃ちにしたのはなかなかすごいな。


 しっかりと壁の後ろに隠れていたというのに、いつの間にか前線を上げてきていたのだろうか。


「うわっ!!」

「おっと……大丈夫か?」


 ズルッとアリアーヌが足を滑らしたようなので、俺はしっかりと彼女を支える。完全に抱き合うような形になってしまったが、仕方がない。彼女はコートを脱いで薄着になっていたので、色々と柔らかい部分が否応なしに押し付けられる。


「あ! も、申し訳ありませんわっ!」

「いや。怪我がないのなら、良かった」


 二人でそう話していると、再びレベッカ先輩からブワッと圧倒的な圧力プレッシャーが放たれる。先輩は、「うふふ。レイさんとアリアーヌさんってば……うふふ……」と笑っているのだが、目が完全に笑っていなかった。


 それに驚いた俺たちは、とりあえずすぐにこの戦いに意識を切り替える。


「あれは……もしかして……」


 見えてしまった。


 それは絶対に、見間違いではないだろう。


 そう。一番奥の壁から、真っ赤な第一質料プリママテリアの残滓が見えたのだ。それに、蝶の羽のようなものもチラリと見えた気がしたのだ。


 赤い燐光(りんこう)がわずかに漏れている。


「レイ、アレは……」

「あぁ。どうやら……」


 と、呆れた顔をしながらアリアーヌと共に、二人が隠れているであろう壁へと颯爽と向かう。


「へっ……!? い、いつの間にっ!!?」


 アメリアは明らかに慌てているようだった。それに後ろには、間違いなく……因果律蝶々(バタフライエフェクト)の兆候が残っていた。


 エリサはアメリアに口を封じられ、「んんんんんっ!」と助けを求めているようだった。どうやらエリサは教えてくれようとしていたんだな。



「アメリア。魔術の使用は、反則だと言ったが?」

「あ、あはは……べ、別に負けそうになったから使ったとか、今の私なら完璧に制御できるから、バレるわけない、とか思ってないのよ?」


 アリアーヌと共に、その場で辟易するようにして首を横に振るう。


「はぁ……アメリアは昔から狡賢い人でしたから。まぁ、今回はちょっと間抜けですけれど」


 なるほど。アメリアは昔からこうなのか、と思うと同時にすぐに彼女に告げる。


「──アメリア。退場だ」

「い、いやだああああっ! もっとみんなと遊びたいいいいいいいっ! うわああああああああんっ!!」


 その後、有無を言わさずアメリアを本質の一つである【固定】で動けなくしておいた。流石の反則は許すことはできないので、これも仕方ない処置だろう。


 俺たちといえば、人数は半分にはならないが、改めて全員で雪合戦を楽しむのだった。


 本当に今日は楽しい一日だった。

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