第220話 束の間の休息
「ふぅ……」
インターバル。休憩時間は十五分となっている。その間で、次のラウンドについての話し合いを始める。
「レイはどう思いますの?」
「……もとより、第1ラウンドは捨てるつもりだったと考えるのが妥当だろう」
「決勝戦で、捨てるなんて判断をしますの?」
「何か目的があるんだろうな。それははっきりとしないが、これで王手だ」
そして、アメリアもまた会話の中に入ってくる。
「そうね。次勝てば、優勝よ」
「そうですわね! 後はいつも通りにやるだけですわっ!」
その後、三人で改めて次のラウンドでの立ち回り方を話し合った。次は防衛になる。どこにフラッグを設置するのか、またはそれを踏まえた上でどのように守っていくのか。
さらには、俺は先ほど受けた【秘剣】についても二人に伝える。
「最後に、ルーカス=フォルストの秘剣についてだが」
「先ほどの戦いで出してきましたの?」
「あぁ」
そして俺は、彼との戦いを思い出す。
「第八秘剣──残照暗転」
瞬間。俺の視界が一気に暗闇に落ちる。
だが、戦闘において視界だけに頼ることは、あまりにも危険だと師匠に教えられている。俺はすでに知覚領域を展開しているため、感覚のみでその動きを把握していた。
居合い抜き。それも、超高速の抜刀術。
第八秘剣──残照暗転はシンプルな技だった。まずは魔術で、光を発生させる。その光量はおそらく、自分の目を考慮していないためにかなりのものになる。
そして、その光を受けた瞬間、相手は一気にその明暗により、視界が暗転する。
その間に持ち前のスピードを生かして、抜刀。それがこの技のカラクリだろう。
ルーカス=フォルストはこの秘剣を発動している間は、おそらくは目を瞑っている。視界に全く頼っていないと考えて良いだろう。
つまりは、俺と同じように周囲を知覚する魔術を保有していると考えるのが自然だ。
「……どうやら、受け切ったみたいだね」
その抜刀を真正面から受け止めた。俺の冰剣はそれによって、粉々に砕け散ってしまったがルーカス=フォルストの刀は傷一つついていない。
おそらくは、かなりの業物。
それを無傷で受け切っただけでも、十分だろう。
「さて、と。じゃあ、今回はここまでにしておこうか」
「それはどういう──」
意味でしょうか。と、尋ねる前にサイレンがこの城内に響き渡った。
そして彼はそのまま、姿を消していたのだ。元々、この展開は予想していたというばかりに、あっさりと引いていたのだ。
「第八秘剣──残照暗転。その正体は、簡単にいうと目眩しだな。特に剣技自体に魔術的な要因があったわけでもなかった。しかし問題は、知覚系の魔術を保有していないと厳しいだろうな」
「なるほどね。でも、私とアリアーヌにはないわね」
「あぁ。だからこそ、おそらく鍵になるのはアメリアの因果律蝶々だろう」
すでに話はしていた。
ルーカス=フォルストの【秘剣】に対抗するならば、アメリアの因果律蝶々しかあり得ないだろうと。
【秘剣】をまともに正面から受けてしまえば、アメリアとアリアーヌに対抗する手段はないだろう。超近接距離での戦闘が得意なアリアーヌであっても、【秘剣】の前には為す術は無い。
だからこそ、【秘剣】を発動させないということが何よりも重要になってくるのだ。
「さて、そろそろ時間だ。行こう」
「えぇ。次で勝ちましょう」
「わたくしたちの優勝までもう少しですわよっ!」
優勝まで残り一勝。
精神的な意味では、こちらにアドバンテージがあるのは間違いない。だがなぜだろう。この胸中に存在する、焦燥感のようなものは。
俺は一体、何を気にしている?
そしてついに、決勝戦第2ラウンドが始まろうとしていた。
◇
「第1ラウンドが終わりましたが、意外とあっさりでしたね」
「あぁ。もう少し長引くと思っていたが、早い展開だったな」
リーゼの言葉に、リディアもまた同意する。
この決勝戦もまた、一緒に観戦している。この中にはフランもいるのだが、ぺちゃくちゃと話がうるさいので今はカーラに用意してもらった手作りのドーナツを無限に与え続けている。
フランの口を黙らせる方法は容易で、それは酒または食べ物を与え続ければ良い。今回に限っては、酒を与えると大惨事になりかねないので、こうしてドーナツを与えているのだ。
「それにしても、【秘剣】が出ましたね」
「あぁ。久しぶりに見たが、アレは残照暗転だな。うまく使えている」
「【絶刀】の保有する、十の秘剣ですか。先輩は全て知っているのですか?」
「いや、全ては知らない。知っているのは、せいぜい四つだな」
「そうですか。それで、この試合はどう見ますか?」
その問いに対して、リディアは少しだけ思案する。
本来ならば、無条件でレイたちが勝利すると口にしたいところだが……やはり、七大魔術師の存在というのはあまりにも大き過ぎる。
まだ若いため、未熟な面はあるだろうが、この学生レベルではそんなものは些事にすぎないだろう。経験不足に付け入りたいところではあるが、それは不可能。
だとすれば、真正面から相手をするしかない。
「良くも悪くも、この試合はアメリア=ローズの因果律蝶々にかかっているだろう。それをアリアーヌ=オルグレンとレイがどのように活かすか、だな。きっとそれは、相手も分かっているだろうが」
「因果律蝶々ですか。アメリアはまだ使っていないようですが……」
「リーゼの見立てでは、どうなんだ?」
リーゼは短い期間になるが、アメリアの因果律蝶々を指導した経験がある。その話を改めて詳しく聞こうと、思っていたが返ってきたのは予想外の言葉だった。
「さぁ。私には分かりません」
「それは、お前でも理解できないということか?」
「そうですね、端的に言えば。そもそも、コード構築が複雑過ぎます。私が知る中でも、一番複雑な魔術かもしれません それをあの年齢で発現して、魔術領域暴走を起こさずに使っているアメリアはある種の化け物ですね。本人には言ってませんけど」
モニターに映るアメリアの横顔をじっと見つめながら、リーゼは淡々と語る。
アメリアの能力は、七大魔術師であるリーゼから見てもあまりにも異質な能力であると。
「おそらくは、彼の関与があるのでしょうね」
「……奇しくも、上の思惑通りになったということか」
「そうですね。仮説は正しいかもしれません。ただ、まだ伝えない方がいいと思いますけど」
「レイはおそらく、勘付いていると思うがな」
「そうなのですか?」
レイ=ホワイトの存在をどのように利用するのか。それは魔術協会にとっても、一番の課題といってもいいかもしれない。何もレイが学院に入ることになったのは、リディアの一存だけでは無い。
魔術協会で数多くの議論が交わされた後に、決まったことなのだから。
「あいつはいつもそうだ。とても聡いやつだ。しかし、それを決して表に出そうとしない。自分の宿命を理解しているんだろう。それとどう向き合っていくのかは、私たちにはわからない。それはレイの問題だからな」
「そうですか。それでも、この試合には影響は出ないのでしょうか?」
「私のこれがあるからな。問題はない」
そう言って、リディアは自分の頭をトントンと人差し指で軽く叩く。すると、リーゼは「あぁ……」と得心したかのような声を漏らす。
「なるほどのぉ……レイはまだ、お前に縛られているのか」
と、食事を終えたフランが会話に入ってくるが、その声色は真剣さを帯びていた。
「なんだ、フラン。悪いのか?」
「いや。全く。レイには枷が必要なのは、当然じゃろう。しかし、それも後少しで開放するべきじゃろうな」
「……分かっているさ。きっと、レイが進級する頃には……」
そして、三人は改めてモニターを見つめる。
そこにはちょうどレイが映り込んでいた。
一体彼はどこに進んでいくのか。それはおそらく、レイしか知り得ないのだろう。




