第218話 冰剣 VS 絶刀
ついに開始となった決勝戦。
ここから先の戦いは、良くも悪くも後のことを考えなくともいい。つまりは、正真正銘の全力で立ち向かうことができる。
すでにアメリアとアリアーヌにも伝えてある。この決勝戦ではきっと、固有魔術を使うことになるだろうと。
それは相手があのルーカス=フォルスト率いるチームだからだ。もちろん、エヴィとアルバートにも注意すべきだろうが……七大魔術師というのはその存在だけでも破格だ。
二人が対抗できる手段があるとすれば、固有魔術に頼らざるを得ないだろう。
それも考慮した上で、この決勝戦がついに幕をあげた。
「さて、どこに向かうか」
三人で疾走して、とりあえずは古城の大広間へとたどり着く。ここから先は、ルート分岐を考える必要がある。
どこに向かうべきなのか。ここから手分けして探すべきか、それとも三人でまとまって行動すべきなのか。
今までのチーム:フォルストの傾向を考えてみたが、フラッグの設置する場所は完全にランダム。おそらくは設置する場所自体は初めから決めていないのだろう。
むしろ、設置した場所を起点として試合を展開しているようにも思える。それはきっと、この決勝戦への布石でもある。
ある程度傾向が出てしまえば、対策されてしまうからだ。
一方でその戦略を取ることができるのは強者の証。どこにフラッグを設置しても、対抗できるだけの実力があるからこそ成り立つ。
そして俺は、この場で知覚領域を展開。知覚領域では、指定した範囲内の第一質料を察知することができる。
フラッグには、第一質料が漏れないように細工が施されているので、それを発見することはできないが、相手がどのような配置で並んでいるかはすぐに理解できる。
「三階に二人。それに、この一階の先に一人……だな」
「考えるとすれば、二人はエヴィとアルバート。一人はフォルスト先輩かしら?」
「そうですわね。わたくしもそう思いますが、レイはどう考えていますの?」
「……どうやら、誘っているようだな」
この先にいる、たった一人の人間。
そこからわずかに漏れる殺気と第一質料。この尋常ではない圧は、間違いなくルーカス=フォルスト。
誘っているのは、すぐに分かった。
「どうやら、俺が一人で行くしかないようだな」
「レイ、大丈夫なの?」
アメリアが心配そうな声を上げるが、この展開も予期していた。といっても、俺とルーカス=フォルストが一対一で対面するのは、もっと先であると思ったが……どうやら、彼なりに俺に対するこだわりでもあるのか。
それとも、別の策略だろうか。
ともかく待っているからには、誰かが相手をするしかないだろう。
「あぁ。おそらくフラッグは、三階にある可能性が高い。二人はそちらに向かってくれ」
「分かりましたわ。レイ、御武運を」
「レイ。負けないでね」
「もちろんだ」
そうしてアメリアとアリアーヌは颯爽と階段を駆け上がっていく。
たった一人でこの場に残った俺は、そのまままっすぐ一本道を進んでいく。すると……その先に見えたのは、やはり彼だった。
長い黒髪を後ろで一本にまとめ、静謐な雰囲気を纏いながらその美しい顔をじっとこちらに向けてくる。
リーゼさんよりは人間味のない感じではないが、それでも精巧な人形という印象は抱いてしまう。
異質な雰囲気を纏い、刀に手を伸ばしている彼はどこか達観して見える。
「やぁ。気がついてくれたみたいだね」
「……正直いって、予想外でした。ここで一対一を望んでくるとは」
「ん? まぁ、まだ第1ラウンドだしね。それほど意外なことではないと思うけど」
「初めから堅実にいくのならば、エヴィとアルバートは俺にぶつけるべきだと思いますが」
「それだと面白くないだろう? 予想通りすぎて」
ただ冷静に、そして淡々とそう述べる彼はやはり、七大魔術師なのだと悟る。
その雰囲気が、その言動が、纏っている第一質料がどうにもヒリついていくような感覚。
これは懐かしいと思うと同時に、危うさのようなものも感じる。
「僕としても、堅実にいきたい気持ちはあった。けどやっぱり、始めは盛り上げた方がいいだろう? きっと今頃、観客たちは湧いているよ」
「……そうでしょうね」
「しかし、やはり……君に興味があると言った方がいいかな。今までの試合を見てきて思ったよ。レイ=ホワイトの技量は尋常ならざるものだってね。それに、どうやら魔術領域暴走も良くなっているみたいだしね」
「……」
そこから先は、もう言葉など必要なかった。
彼は腰に下げている刀をゆっくりと抜くと、深呼吸をする。
刹那。
その場で体がブレたと思った矢先、その鋭い刀は俺の眼前へと迫っていた。
「さて、見せてもらおうか。当代の【冰剣】の力とやらを」
俺はすぐに、コードを走らせる。
《第一質料=エンコーディング=物資コード》
《物資コード=ディコーディング》
《物質コード=プロセシング=減速=固定》
《エンボディメント=物質》
発動するのは、冰剣。ただし、相手の刀の質量も考えて今回はその強度をかなり高めておいた。
キィイイインという音が、この空間に響き渡る。
刀と剣が交差することで、甲高い音を広げていく。
「はははっ! 今のを間に合わせるのかっ! 面白いね!」
その後、始まるのは縦横無尽の剣戟だった。互いに魔術師としての特性は、超近接距離での戦闘に特化している。
といっても、【冰剣】である俺は別に他の距離でも十分に対応できるだけの魔術は保有している。
その一方で、【絶刀】は違う。
元々、【絶刀の魔術師】という名称ではあるがその本質は魔術師というよりも、剣士に近い。
いや確か、語源はサムライというものだった気がする。それは師匠に昔聞いた話だが、【絶刀の魔術師】のベースはその圧倒的な剣技。
あくまで魔術は身体強化をサポートするものに過ぎない。
その剣技があまりにも真に迫り過ぎ、やがては魔術を超え、その剣技の果てにたどり着いたのが【秘剣】という話だ。
【秘剣】は、全部で十に分かれているらしい。またその一つ一つが、固有魔術に匹敵する。厳密にいえば、固有魔術を超えているとも考えていいだろう。
七大魔術師が持つ、固有魔術。
しかもそれが、十も存在する。それだけでも厄介過ぎる存在だ。
「……クッ!!」
「……ハアアアアアアアアッ!」
互いに息をする暇もないほど、戦闘に没頭する。意識を潜り込ませるようにして、ただただ集中力を切らさないように剣戟にのめり込んでいく。
この感覚は久しぶりだった。自分の感覚を研ぎ澄ませる。
今の自分は魔術師であると同時に、剣士でもある。魔術はあくまで補佐的なものに過ぎない。この体を使って、凌ぎを削る。それこそが、この剣戟の本質。
しかし、どうやら痺れを切らしたのか、彼は一旦後ろに大きく後退するのだった。
「……すううううううう、はぁあああああああああ」
納刀。
さらに深呼吸。
隙があるように、見えるがそれは錯覚。納刀したということは、抜刀術に切り替えたということだろう。
一撃必殺の抜刀術。それは、魔術剣士競技大会の決勝でレベッカ先輩に使った【秘剣】を想起させる。
俺もまた、自身の手に持っている冰剣を新しいものに変化させる。大体の攻防で理解したが、冰剣の強度はそれほど高くなくてもいい。
どうやら、あの刀は軽いようでどちらかというとスピードに特化させているようだった。
睨み合う。
適性の距離を保ちながら、円を描くようにして俺たちは互いの様子を見つめる。
一挙手一投足。その全ての動きを逃さないようにして、神経を集中させる。握る冰剣を軽く動かしながら、自分の感覚をさらに研ぎ澄ませていく。
そして、彼がボソリと呟いた瞬間。
俺の視界は──暗転した。
「第八秘剣──残照暗転」




