第213話 恋する乙女たちの戦い
無事にわたくしたちは本戦の二回戦を突破。次の試合は準決勝、そして決勝へと続きます。
正直いって、とても嬉しいのは間違いありませんわ。それはもう、毎試合勝つたびに歓喜に震えています。
けれどやはり……レイとアメリアは、魔術師として完成されているのだと思ってしまうのです。レイはいうまでもなく、規格外の存在。一方でアメリアは、堅実にその実力を伸ばしています。
基本的には、攻城戦では二人で戦うことが多いのですが彼女の魔術の技量はすでに学生の中でもトップクラスでしょう。
おそらくは将来は七大魔術師になると思っていますわ。
そんな二人を見ていると、やはり自分と比較してしまいます。
努力はしてきました。才能も、間違いなくあるのでしょう。三大貴族の血統というのは、そういうものですから。
では、わたくしに足りないものは何なのでしょうか。
大会の最中だというのに、そんなことをふと考えてしまいます。
「はぁ……しっかりしませんと」
と、ため息混じりにそう言葉にすると隣に座っているレイがチラッとこちらを向いて話しかけてきます。
「どうしたアリアーヌ。体調でも悪いのか?」
「い、いえ! 大丈夫ですわよっ!」
今はちょうどレイと二人きりで、本戦の二回戦を観戦しているところです。アメリアというと、今回も席を外しています。
ローズ家は数週間後に行われる聖歌祭で色々と準備をしているとかで、アメリアも大会の最中とはいえ、その手伝いに追われているとか。
わたくしの実家では特に何かをするとは聞いていないので、こうしてレイと二人で観戦していますわ。
けれど、アメリアと別れる際にこのように釘を刺されました。
「いいこと、アリアーヌ。レイと二人きりだからって、変なことを考えちゃだめよ?」
「当たり前ですわっ! そもそも、わたくしは別にレイのことは何とも思っていないとあれほど……っ!」
「まぁ、何回も聞いてるけど念のためっていうかね。それと、レベッカ先輩がどこかで干渉してくるかもしれないから、何かあったら教えてね」
「えぇ。分かりましたわ」
「はぁ……レイってば、本当に鈍感だから大変なのよねぇ」
「それは同意しますわ。確かに、ものすごく鈍感ですが……そんなところが──」
と、自分で何かを言いかけそうになって、すぐに口を噤みます。
「ん? いま何か言った?」
「な、何でもありませんわっ!」
そんなやりとりをして、今に至ります。
レイとアメリアに対して、わたくしは少なからず劣等感のようなものを抱いています。しかし、それと同じかそれ以上にきっと……わたくしは、二人に憧れているのだと思います。
才能だけではない。努力も重ねた上で、二人は今の場所に立っているのですから。
そんな二人が友人で、わたくしはとても誇らしいと思いますの。
だからこそ、レイとアメリアに並び立つためにも……わたくしは、この大会で自分自身を証明したいと、そう思っているのですが。
「なるほど……なかなかにいいチームだな。バランスがいい」
ボソボソと呟きながら、レイはメモを取っています。この大会の間は、彼と過ごすことが多いのですが、彼のこともよく分かってきました。
レイは没頭すると、周りのことが見えなくなります。その集中力は感嘆すべきものですが、逆にいえばそれしか見えていないので危なっかしいところもあります。
「レイってば、前のめりになり過ぎですわ。姿勢が悪いですわよ」
「あぁ。すまない」
「それと、水分も取っておくべきですわ。ちょっと没頭しすぎみたいなので」
「助かる」
レイと二人きりになるということで、彼をサポートするために色々と準備しておいたのです。
彼はおそらく、魔術師の中でも史上最高の天才なのでしょう。それは今まで一緒に過ごしてきて、その片鱗をわずかにですが理解してきました。
そもそも、固有魔術を真正面から打ち破るだけでも異常。
だというのに、おそらくは本気をまだ見せてはいない。
七大魔術師とは本当に恐ろしいものだと思います。それに、その領域に同じ歳でたどり着いていることにも。
一方で魔術には長けていますが、その他の面では心配なところも多々あります。
でもだからこそ、彼をしっかりと支える人間が必要なのでしょう。
べ、別にわたくしがそれになりたい……とは思っていませんが、少なくともこの大会中くらいはわたくしがしっかりとしませんとっ!
アメリアは実家のことや、自分の魔術のことで大変なようですし。
もちろん、わたくしも自分のことで手一杯なのですが、レイと過ごすことで見えてくるものも多いです。決して、嫌ということはありませんのよ。
「終わったな。いい試合だった」
「ですわね。流石にここまでくると、練度が高いですわね」
「そうだね。学生の中でもトップクラスだな」
「では、行きましょうか」
「あぁ」
そうして今日の試合は終了したということで、二人で立ち上がって円形闘技場から出ていきます。
すると……アメリアの予想が当たったのか、ちょうどパタパタとレベッカ先輩がこちらに向かって走ってきました。後ろにはマリアもいるようです。
そして、レベッカ先輩の顔はそれはもう……とびきりの笑顔でした。
「レイさん!」
「レベッカ先輩」
「準決勝進出、おめでとうございますっ!」
「ありがとうございます」
すでにレベッカ先輩はレイしか見えてないようですわ。彼の手をギュッと握ると、嬉しそうに微笑みかけています。なんというか……ちょっと妖艶な印象を、同性の私でも抱いてしまいますわ。
後ろでそんな二人の様子を見ていると、マリアがコソッとこちらに近寄ってきます。
「やほ、アリアーヌちゃん。久しぶり。大会、順調そうだね」
「マリア。お久しぶりですわ。そうですわね。大会は無事に準決勝まで来ましたわ」
マリア=ブラッドリィ。
彼女とは特別仲が良いわけでも、悪いわけでもありません。けれど、その距離感がわたくしは好きでした。
マリアはレベッカ先輩と比較されることでその容姿を変貌させ、ちょっとグレてしまっていたのですが……最近はどうにも、明るくなったような気がします。
相変わらず、前髪は斜めに切り揃えられていて、後ろは刈り上げと奇抜な髪型をしていますが、よくお似合いですわ。それに、両耳にあるピアスも綺麗だと思います。
逆にここまで徹底できるマリアが、少し羨ましいですわ。
「それにしても、見てよアレ」
「えぇ……ものすごく、ハートが飛んでますわね」
「ね。お姉ちゃんもよっぽどだけど、あれに気がつかないで冷静に対応してるレイも相当よね」
「ですわねぇ……」
二人で、レイとレベッカ先輩の様子を見つめますが……ものすごくハートが飛んでいますわ。
もちろんそれは、比喩的なものですが、あれだけ好意を示されて気がつかないのはレイの凄いところですわ。
彼の過去を考えるとそれも仕方のないことだと思いますが、いつかレイは刺されてもおかしくないですわね……。
まぁ、レイに刃物はきっと通用しませんが、色々と大変なことになる未来が見えますわ。
「それにしても、マリアはレイと仲が良いんですの?」
「えっ!!?」
急にマリアの表情が驚いたものに変わります。
ん? これはもしかして……?
彼女は慌てた様子で、わたくしの肩をグイッと掴むとそのまま後ろに無理やり連れて行かれます。
「ちょ、ちょっと……! そのことはあんまり大きな声で言わないでよねっ!」
「な、何かあるんですの?」
二人から距離を取ると、マリアが耳打ちをしてきます。
あまりにも真剣な様子なので、少しだけ身構えてしまいますの。
「……お姉ちゃんがね、私とレイが仲が良いのを、ちょっと心配しているみたいだから」
「あぁ。そういうことですのね。でも、仲が良いのは否定しませんのね」
「う……ま、まぁ……別に悪いわけでもないし? それに、あいつとは意外と話が合うし?」
あら? あらあらあら?
何ということでしょう。わたくしは内心でため息をつきます。
全くレイは、どれだけの乙女を魅了すれば気が済むのでしょう。まぁ……彼が魅力的なのはわからなくもないのですけれど……。
って、わたくしは何を考えていますのっ!!?
「う〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「うわっ! どうしたの、アリアーヌちゃん!?」
わたくしはその場に思い切りしゃがみ込みます。
決してこれは、そのような感情ではありませんわ!
そう心の中でわたくしは、否定し続けるのでした。
試合、試合に集中しますわよっ!!




