第199話 優勝候補
ついに大規模魔術戦が開幕となった。試合も順調に消化されていき、まもなく各リーグの上位チームが確定する。
そんな中で、この大会で優勝候補と言われているチームが一つあった。
それはチーム:フォルストだ。
全戦全勝。また、試合もこれまで一つも時間切れまで戦ったことはない。ほとんどの試合を、第三ポイントで終わらせている。つまりは、完封試合ということだ。
ルーカス=フォルストとエヴィの前線。さらには、アルバートは後方からの魔術支援に特化しているが、超近接距離での徒手格闘戦も難なくこなす。
全てのバランスがかなりの高水準で整っている。
それが、チーム:フォルストであった。
「よし。今回も完勝だね」
静かに納刀。そして、カフカの森の中にサイレンの音が響き渡る。
「勝者はチーム:フォルスト」
そのアナウンスを聞いて、ルーカスの周りにエヴィとアルバートがやってくる。
「やったな」
「おう! 今回も完勝だなっ!」
二人はコツンと互いの拳を合わせると、ルーカスとも同じことをする。
今回の試合もまた完封。全ての拠点でポイントを取り切った。相手には、一ポイントも与えていない。
そもそも今回の予選はその性質上、完封試合をすることは限りなく難しい。それは、次の拠点へのローテーションがあるからだ。
そのため、どれだけ戦力がかけ離れていても、ゼロポイントということはほぼあり得ない。
だが、拠点ではアルバートが待機して、そのサポートをエヴィがする。
一方のルーカスはたった一人でローテーションをして、次の拠点を一人で防衛。そこから二人が合流して、同じように試合を展開していく。
一見すれば、ルーカスの実力が目立つが、大会ではチームとしての完成度も高く評価されていた。決してルーカスだけのワンマンチームではない。
エヴィとアルバートもまた、今回の大会でその評価を確実に上げていたのだ。
「さて、戻ろうか。今日も反省会だ」
「分かりました」
「反省会か……今回は俺がちょっとやらかしたからなぁ〜」
エヴィが頭を掻きながら、そう言葉にする。
確かに完封試合ではあるが、まだまだ改善点は存在する。今回の試合では、エヴィが前に出過ぎたせいで、ルーカスがサポートに回るしかない場面があった。
彼はその性格もあって、つい熱くなってしまう。
頭では冷静に努めるべきだとはわかっているのだが、内部コードで強化した身体は止まることはなかった。
「そうだね。エヴィが前に出過ぎたせいで、僕がサポートするハメになった」
「う……」
「それも含めて、色々と反省点を上げよう」
三人はそのまま、カフカの森の外へと向かっていく。
その風格は、もはや王者のもの。
常勝のチームとして、彼らはこれから先も戦い続けるのだった。
◇
「終わったか」
チーム:フォルストの試合を、三人で観戦していた。モニター越しにはなるが、その卓越したチームワークはよく理解できる。
俺たちと同様に、森での戦いをしっかりと熟知している。
それは三人の立ち回りを見れば明らかだった。
おそらくは、間違いなく本戦へと駒を進めるだろう。
「強いわね」
「えぇ。でも、わたくしたちも負けてませんわっ!」
アリアーヌはそういうが、実際のところは……五分五分といったところだろうか。いや、ルーカス=フォルストだけならばまだしも、アルバートとエヴィの完成度がかなり高い。
チーム:オルグレンには欠点はない……と言及したいが、実際ネックになるのは俺の存在だろう。それは全力を出すことができないからだ。
厳密に言えば、全力を出すことは不可能ではない。しかしそれは、かなりのリスクを伴ってしまう。できれば、基本的な魔術の使用は控えて、内部コードを主軸にして戦っていきたい。
予選ではそれで通じると思っている。しかし、本戦ではさらなる猛者たちが待っている。チームとしての連携も、予選の相手とは比較にならない。
それに、本戦はリーグ戦ではなく、トーナメント形式だ。敗北してしまえば、そこで大会は終了となってしまう。
力を使うにしても、限定的な場面にしたい。
それこそ、自分の能力が遺憾なく発揮できるような……と、考えていると目の前にアメリアの顔が映る。
「レイ。どうかしたの? 考え込んでいるみたいだけど」
「そうだな。二人には共有しておこう」
そして俺は、その場で自分が考えている懸念について話した。すると、声を上げたのはアリアーヌだった。
「大丈夫ですわっ! 私たち二人でサポートしますわっ! それに、いつまでもレイに頼ってばかりはダメだと思いますの」
「アリアーヌの言う通りね」
アメリアもまた、その場で軽く頷く。
「レイはいつも抱え過ぎだと思うの。今回の大会は、レイは確かに頼りになるわ。私とアリアーヌはあなたのことを信じてる。でもね、人を頼るって恥ずかしいことじゃないと思うの。それは、レイがあの時に教えてくれたのよ」
少しだけ顔を赤く染めながら、アメリアは恥ずかしそうに言葉にした。彼女が言っているのは、魔術剣士競技大会の時のことだろう。
あの時は俺も、色々と葛藤していた。
こんな自分が人の心に触れていいのかと。
誰かに寄り添って生きてもいいのかと。
そう思っていたからだ。
しかし、アメリアと出会い、みんなと出会い、少しずつ変わってきていると……思っている。
あの時の行動で、アメリアにそう言ってもらえるとは……本当に俺は、人に恵まれている。
「ありがとう。アメリア」
微笑む。
きっと今は自然な笑みを浮かべることができているだろう。
「そうですわよ、レイ。あなたは私にだって、たくさんのものを与えてくれました。けれど、レイも何か思うところがあるのでしたら、教えてくださいまし。わたくしたちは、チームなのですから」
アリアーヌもまた真剣な表情でそのように語る。
そして、隣に座っているアメリアがそっと俺の手に触れてきた。
「レイ。大丈夫よ。私たちが、あなたを支えるから。だから、絶対に優勝しましょう」
「そうですわっ! わたくしたち乙女に任せてくださいましっ!」
「あはは……アリアーヌの言う乙女は、ちょっとよく分からないけどね」
いつものようなやりとり。そんな些細な会話に俺は、幸福を感じていた。
そして、モニターを見据える。そこには、エヴィ、アルバート、ルーカス=フォルストが映っていた。
あの三人に勝つためにはどうすればいいのか。きっと真正面からぶつかれば、拮抗は徐々に崩れていくだろう。
だがきっと、俺たちなら勝つことができる。
アメリア。アリアーヌ。
二人ともに、その成長をずっと間近で見てきた。
さらに成長しているのは二人だけではない。俺もまた、成長している。それは精神的な面だけでなく、魔術的な面でも。
魔術領域暴走は現状この上ないくらいに良くなってきている。俺の魔術領域は、まだ制限されている部分はあるが、以前と比較すればかなり魔術を問題なく使えるようになっている。
冰剣も数を制限すれば、問題なく使用できるほどには。
「……そうか。いや、二人には助けられてばかりだな」
「そんなことないわよ。レイだって、いつも私を助けてくれるわ」
「そうですわ! でも、わたくしたちを頼ってもいいんですわよ。だって、仲間なのですからっ!」
「あぁ。そうだな。では、今後の話をしよう」
そうして俺たちは、今後の試合についてミーティングを開くことにした。
間も無く予選も終了する。
やってくるのは本選。そこでは、試合のルールも大幅に変わり、戦い方も変化していくだろう。
だがきっと、やり遂げることができる。
俺はそう、信じている──。




