第196話 翠玉の庭
「強い。というか、強かですね。彼は」
「ふふふ。私が手塩にかけて育てたからな。当然だろう」
円形闘技場。モニターが最もよく見える最前席にいるのは、リディア、カーラ、そしてリーゼロッテだった。
カーラが三人分だけの席を用意し、こうして今は試合を観戦している。
現在は第一拠点をレイたちが全て抑えて、次の第二拠点へと移動している最中だ。
「おそらくレイは、この試合を早期に決めるつもりだろう。それも、完璧な戦術の上でな」
「そうなのですか?」
「あぁ。本当に、私によく似ているな。ふふ」
笑みが溢れる。
しかし、それもそうだろう。リディアはずっと、レイが活躍している姿を渇望していたのだ。今まではストーカー紛いの行為で、覗き見するだけだったが今はこうしてしっかりと見ることができる。
それに、戦い方が自分に似ていることもリディアは嬉しかった。
流石は親バカ……というべきなのだが、誰もそんなツッコミはもはやしない。
「お。次のポイントに入りましたね。それにしても、彼のチームは練度が高い。森での戦いを熟知している感じですね」
「そうだな。レイは当然だが、アメリア=ローズもアリアーヌ=オルグレンもかなり仕上がっているな。おそらく、レイの指導が良いんだろう」
と、冷静に現状を分析する。といっても、レイに対しての評価は依然として高いままだが。
「そういえば、アメリア=ローズはリーゼも少し面倒をみたんだろう?」
「はい。レイ=ホワイトに頼まれて、魔術を指導しました」
「……どうだった?」
その声音は真剣なものだった。
アメリア=ローズ。おそらく、七大魔術師に最も近い魔術師は彼女だろう。
あまりにも強大すぎる、因果に干渉する魔術。
それをどのように指導したのか、リディアは興味があったのだ。
「そうですね。所感ですが、おそらく次の七大魔術師になるかと」
「やはりそうか」
「えぇ。私もそろそろ引退を考えていましてね」
「……もう、来ているのか?」
「はい。先輩方も同じでしょう? リディア先輩は早かったようですが」
視線が交錯する。
その言葉が何を意味しているのか。二人にとってそれは、暗黙の了解だった。
「やはり、仮説は正しいようだな」
「はい。七大魔術師は、巡るのです。同じ周期を持って。例外は存在しますが、基本的な構造は同じでしょう」
「しかし、その原因は不明。分かっているのは、周期だけ……か」
「世界真理に意志でもあるのでしょうか」
リーゼがそう尋ねるが、リディアは軽く肩を竦める。
「さぁ、な。あれを知覚できるのはレイだけだ。それも、あの状態の時にしか知覚できないらしい」
「そうですか。それはあまりにも危険ですね」
「あぁ。あれは触れてはならない。私も、全てを失いかけたからな」
その話題はそこで打ち切り、二人は試合に意識を変える。
「……この試合。レイたちの勝利だな」
「そうですか? 相手もかなり肉薄しているようですが」
「レイがそうさせているだけだな。おそらくは、第四拠点で決着がつく」
「第四? 第三ではなく?」
「あぁ。早期に決めるといっても、相手に一ポイントも与えないつもりではない。おそらくは、今後のことも見据えているんだろうな。本当にレイのチームは練度が高い。おそらく相手になるのは、ルーカス=フォルストのチームだけだろうな」
「【絶刀】ですか……」
【絶刀の魔術師】が引き継がれているのは、すでに二人ともに知っている。そして、先代からの因縁ももちろん理解している。
それが今の【絶刀の魔術師】まで引き継がれているかどうかまでは知らないが……確実にルーカス=フォルストはレイに対して何かしら思うところがあるだろうと考えていた。
「さて、状況が動くぞ」
リディアの言葉と同時に、試合はさらに大きく展開していくことになる。
◇
第二拠点。先に移動されてしまったが、俺たちはすぐに追いつくとそのままポイントを占拠。
その後は、作戦通りに行動を推移させて三人の動きを完璧に封じた。
俺とアリアーヌが前線で掻き乱して、後方からアメリアがそのサポートをする。シンプルだが、かなり強力なこの戦法に相手は何もできないままだった。
そもそも、高速魔術に頼り切っていては攻撃力が足りない。そこで、他の魔術を選択しようにも俺たちがその時間を許さないだろう。
大規模な魔術を発動するには、前衛による時間稼ぎが必要だからだ。
そのため、全員が魔術に特化しているチーム:ハートネットは俺たちにとって最も相性の良いチームと言っても良いだろう。
すでに、相手も焦り始めているのか魔術に乱れが見えている。
おそらくは焦るあまり、コードの構築が雑になっている。そんな魔術は俺たちには通用しない。
そして、第二拠点にあっさりと見切りを付けると、チーム:ハートネットはすぐに第三拠点へと移動して行った。
「順調ですわね」
「あぁ。かなり焦ってるようだな」
アリアーヌと現状を話し合う。そして、アメリアの元へと移動する。残り時間は一分。おそらくは、この拠点のポイントも全て占拠出来るだろう。
アメリアの胸から下げられている魔道具には、三分の二ほど真っ赤な第一質料が蓄積されていた。
「アメリア。次も作戦通りに行こう」
「えぇ。分かったわ」
そして、俺たちもまた次の拠点へと疾走していく。
第三拠点へと到着すると、すでに拠点を占拠している三人が俺たちをじっと睨みつける。
じっと目を凝らすと、周囲には遅延魔術が敷かれているようだった。しかし、この行動はすでに予想できている。
「いくぞ。二人とも」
「えぇ」
「分かりましたわ」
そう。俺たちは、元々第三拠点を全て相手に与えるつもりだったのだ。そうして、そのまま無視して過ぎ去ろうとすると、ハートネット先輩が苦悶の表情を浮かべている。
すでに試合は、俺たちが支配していると過言ではない。
その中でポイントをもらえるのならば、ここは獲得しておいた方がいい。
しかし、第四拠点では俺たちが彼女たちのように十分に準備が出来てしまう。
それを阻止するかどうか、それとも第三拠点を全て取り切るべきか……ハートネット先輩たちが悩み切った末に出した結論は、ポイントを取り切ることだった。
それもすでに予想していた。
そうして俺たちは、すぐに第四拠点へと到着するとアリアーヌとアメリアに指示を出して遅延魔術を設置していく。
この試合は、おそらくこの拠点で終わる。
まだ油断はできないが、その気概で俺たちは三度目の戦いに臨む。
「……やってくれましたね」
ギリっと歯を食いしばってやってきたハートネット先輩は、その目に怒りが宿っていた。美しい顔を歪めながら、ギュッと拳を握っている。
「よくもこんな真似を……恥をかかせてくれましたねっ!!」
その怒りの声に向かい合う俺たち。この反応は、アメリアとアリアーヌから聞いていた。
おそらく、彼女は怒りに支配されるだろうと……これも予想通りとは。
本当に、真っ直ぐな人なのだと思う。
「いいでしょう。ここまで我慢してきましたが、本気を出してあげます。光栄に思いなさい?」
瞬間。大量の第一質料が彼女の元へと収束していく。
発動する魔術は、おそらくは大規模魔術か大規模連鎖魔術だろう。
それを阻止しようとすでに動き始めていた俺たちだが、その前にはシャーリエ姉妹が立ちはだかる。顕現するのは、分厚い氷の壁。おそらくは、ここで力を使い切るつもりで、ハートネット先輩の魔術を発動させようとする気なのだろう。
絶対に守り切るという意志を持ったシャーリエ姉妹の魔術は、俺とアリアーヌを以てしてもすぐに突破することはできなかった。
そうして、攻めあぐねている間にも……彼女の魔術構築が終了する。
「さぁ。私の庭で踊りなさい」
その言葉の後に出現したのは、見渡す限りのどこまでも透き通るような深緑の世界だった。
「──翠玉の庭」
試合も大詰め! 次回もお楽しみに!
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