第128話 伝説のメイド、爆誕
「えぇ……あれは伝説だったわね」
これは伝説のメイドを追いかけた取材の一部。その存在をいち早く知り、一番初めにサービスを受けたマリア。彼女は伝説のメイドである【リリィー】をこう語る。
「元々そのポテンシャルは理解していたわ。だって、お姉様だもの」
それは自信に溢れていた。まるで、自分の実績のように語るマリアはどこか嬉しそうだった。
──サービスの質は、いかがでしたでしょうか?
その質問に対して、ハッと鼻で笑うマリア。
「サービスの質? そんなこと愚問でしょ。最高よ。最高。リリィーお姉様のそれは……まさに、史上最高のものだったわ」
純白の髪をサラッと掻き上げて、彼女は冷静に語る。
しかしそれはどこか熱を帯びているというか……そんな雰囲気がマリアから醸し出されていた。いつもの彼女らしくはない言動だ。
──伝説のメイド。リリィーに関して、以前からご存知だったとか。
「もちろんよ」
まるで自分こそが最古参なのだと、誇張するようにしてその小さな胸を張る。厚みはない。でも彼女の存在はどこか大きく見えるのは錯覚ではないだろう。
「あれは、夏真っ盛りの日だったわ。魔術剣士競技大会の会場前で、やけに盛り上がっているお店があってね。ふらっと寄ってみたのよ。すると……」
──すると?
「天使がいたわ。いや。あれはもはや、そんな言葉で形容すべきではないのかもしれないわ。リリィーお姉様は、その時から全てを超越していたもの」
徐々に興奮してきたのか、呼吸が荒くなる。さらには、その頬も微かに赤く染まっている。マリアは思い出していた。魔術剣士競技大会で出会ったリリィーのことを。
それはまさに運命の出会い。
彼女は心からそう思っていた。
──なるほど。それで、三日ともに一番初めにサービスを受けた感想は? 日にちによって質の変化は?
「ない……といいたいところだけど。実際はあったわ」
──それは、サービスの質が低下した……という意味でしょうか?
「ばっか。そんなわけないわよ。リリィーお姉様のサービスは、日を増すごとに増していったわ。最終日には、恥ずかしいけど鼻血も出しちゃったし」
マリアはその裏事情を知っていないが、リリィーはマリアに対しては妙に熱のこもった接客をしていたのだ。
もちろん客によってサービスの質を大幅に変えることはないが、人間とはやはり、感情が絡むとどうしても変化してしまうものである。
マリアに対しての接客は、リリィーなりの思いやり。それは慈愛……と言ってもいいかもしれない。愛情を持って接してくれたリリィーを、マリアはさらに敬愛するようになったのだ。
──それではここで終わりとさせていただきます。取材を受けてくださり、ありがとうございました。
「別に……ただ、リリィーお姉様のことちゃんと書いてよね」
後にマリアは、リリィーのファンクラブを設立することになるのだが……それはまだ、先の話である。
◇
「いらっしゃいませ〜☆」
教室に戻った俺は、さっそく接客に入る。この教室に来る際に、かなりの注目を集めてしまったがそれもまた良し。いい宣伝になったのなら、俺としても嬉しい限りだ。
そして、リリィーの接客を受けたいと言うことでずっと待機していたマリアが一人でソワソワとしながら教室内に入ってくる。
キョロキョロと周囲を見渡し、わずかに俯いている。さらに彼女の頬は赤く染まっていて、照れているのだろうか……と思ってしまう。
「マリアさん。ご無沙汰しております」
「あ……ひゃ、ひゃいっ! ご無沙汰してますっ! お姉様……っ!」
マリアを席に案内して、そう声をかけた。
どうやら緊張しているようなので、解きほぐすためにも少しだけ会話をした。マリアがどんな想いで、それもたった一人でやってきているのか、俺はよく知っているからだ。
「わざわざ待っていてくださったのですね。ありがとうございます」
ペコリと丁寧に頭を下げる。
「あ……! その……お、お姉様に会えるのなら私はいつまでも待ちますよっ! あれ? でも今日は髪の色が以前とは違うような……」
「今回は文化祭なので、ウィッグを被っているのですよ。お気に召しませんでしたか?」
「い、いえっ! 以前とその……雰囲気がとても変わっていて驚きましたが、とても美しいです! 流石はお姉様っ!」
今度はしっかりと視線が交差する。マリアのその瞳は、真剣そのもの。きっとリリィーに会うことを心待ちにしていたに違いない。
「ふふっ……ありがとうございます。それでメニューはいかがいたしますか?」
「え、えっと……」
メニュー。
そこにはオーソドックスなメニューしかないと思うだろうが、違う。リリィーが登場した時だけ存在する裏メニュー。それはメニュー表の正午より、一時間限定と書かれているものだ。
「こ、この……『萌え萌えオムライスセット』っていうのは? お姉様がいる時間だけ限定? いや、リリィーお姉様限定って書いてありますけど」
流石、お目が高い。
それは俺が提案して取り入れた独自のメニュー。あらゆる文献を読み込んだ上で、閃いたのだ。今回の文化祭では無理を言って、リリィーを解禁してもらった。ならば、それ相応のサービスを提供するべきだろう。
アメリアもやってみたいと言っていたが、こればかりは他の生徒に止められた。
これに限っては、俺にしかできないからだ。
満を持して、プロフェッショナルの実力を見せる時が来たようだ。
「それは、私が出勤している時間のみの特別メニューです。注文しますか?」
「は……はいっ! お願いしますっ!」
「かしこまりました」
マリアから『萌え萌えオムライスセット』の注文を受けて俺は、それを厨房へと通す。
「『萌え萌えオムライスセット』、一つ入りました〜☆」
「了解した……」
「ついにきたか……」
「ヤベェよ……ついに出るのか……」
厨房にいるアルバート、エヴィ。それに俺と入れ替わりで入ってくれた男子生徒たちが神妙な面持ちで調理に入っていく。
「よし。上がったぞ」
アルバートから差し出されたオムライスとサラダ。それに飲み物もつけて、一つのプレートに納めてからマリアの元へと運んでいく。さらに、ケチャップはまだかけてはいない。
「お待たせしました〜☆ 『萌え萌えオムライスセット』になります」
「あ、ありがとうございますっ!」
俺はそこから、このメニューの説明に入る。
「さてこちらのメニュー。召し上がっていただく前に、私が魔法をかけちゃいます」
「……ま、魔法ですか? 魔術ではなくて?」
「えぇ。とっておきの美味しくなる魔法です」
そして、ケチャップをハートの形にして描くと俺は気合を込めて……伝家の宝刀を抜いた。
「美味しくなぁれっ! 萌え萌え、きゅ〜ん☆」
しなやかに伸びる綺麗な右脚を曲げるようにして、高く上げ、両手をハートの形にして注ぐ想い。それはきっと、マリアに届くに違いない。
このポーズにするに至っては、恥ずかしさなどはない。
なぜならば、俺はプロでありスペシャリストだからだ。
これが俺の提案した『萌え萌えオムライスセット』である。
リリィーにしかできない芸当だ。まずこれをするにあたって、恥ずかしさは見せてはいけない。至極真面目な顔で、本気で取り組む必要があるからだ。
「──────────ッ!!」
そしてそれを受けたマリアは……途端に鼻を押さえ始めた。
「大丈夫ですか? どこか優れないところでも?」
不安になり、声をかけるがマリアは俺に向かって静止するように手をスッと上げた。
「だ、大丈夫です、お姉様。つい、感極まってしまいまして……」
「そうですか。それならよかったのですが」
「お姉様」
「はい。なんでしょうか」
笑みを浮かべる。
今の俺はレイ=ホワイトではない。メイドの一人である、リリィー=ホワイトだ。
そして、マリアにメイドとして向き合う。きっとこれが、少しでも彼女の癒しになればいいと……そう思っているからだ。
「とっても美味しそうなオムライスになりましたっ! 本当にありがとうございましたっ!」
頭を下げるマリア。そんな彼女に向かって俺はこう告げた。
「そう言ってもらえて、私も嬉しいです。それでは失礼します」
「お姉様。三日間、全て一番乗りできますっ! 朝から並びますっ! だから明日も、よろしくお願いします!」
「……ふふ。ありがとうございます。マリアさん」
くるりと翻ると、わずかにスカートがふわりと浮かぶ。
マリアに向かって最高の笑みを浮かべると、俺は次の接客へと移行する。とりあえずは、滑り出しは好調。
この調子で、残りの時間も最善を尽くす!




