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第100話 文化祭へ臨め!

 

 男子たちとの結束を確かなものにした俺は翌日、エリサの元へと向かっていた。


 彼らの賛同を得ることはできた。


 その次に女子たちの賛同を得るには、次のホームルームで仕掛けるしかないが、その前にしっかりと下準備をしておくべきだろう。


 それにきっと、俺たちならばクラスの女子たちも説得できると確信している。


 ということで翌日の放課後。


 俺とアメリアはエリサを以前行った喫茶店へと招待する。そこで、今後についての会議を開くのだった。


「エリサ、よく来てくれたわね」

「う……うん。でも、アメリアちゃんとレイくんはその……なんの用事で私をここに?」

「それは私から話すわ」


 アメリアが真剣な面持ちで、クラスの出し物について語り始める。その声音は既に熱を帯びており、彼女の本気の度合いがよくわかった。


「エリサ。私たちのクラスは、メイド喫茶をしようと思っているの」

「え!? メイド喫茶!?」

「そうよ」

「それって、メイドが喫茶店をするって意味で……いいよね?」

「えぇ」

「で、でも……クラスの子は貴族の人が多いし、反対する人が多いと思うけど……?」


 エリサもまた、自分の意見をしっかりと伝えてくれる。だがその意見は既に対策はしてある。アメリアはさらにエリサに対して話を進める。


「男子の方はどうにかなったわ」

「え? そうなの?」

「レイがやってくれたの」

「あぁ……なるほど。レイくんならやってくれそうだね。うん」


 そして俺もまた、その会話に入っていく。


「うむ。男子全員の賛同は得ることができた。問題は女子だが、こちらはアメリアと既に作戦を練っている。それで、エリサに頼みたいのは……」


 俺はアメリアの方を向いてから、アイコンタクトを送る。


 すると彼女は軽く頷いてから、改めてエリサの方へと顔を向ける。


「エリサには衣装を担当してほしいの」

「衣装……?」

「デザインはこれよ」


 スッと机の上に取り出す資料。


 そこにはアメリアがデザインしたメイド服が描かれていた。装飾はフリルが多めで、さらにはスカートの丈が普通のものよりもだいぶ短い。


 その分、布の消費は少なくなるだろうが……やはりこれを制作するのは難しいのだろうか。


 そう思っていると、エリサがその資料を手にするとじっとそれを見つめる。まるで職人が何かを思い描いているような、そんな表情。


 エリサもまた、入学してから本当に変わったと思う。初めはあらゆることに自信がなさそうだったが、今はこうして自信を持って話してくれる。


 そしてエリサは、その資料を一度テーブルに置くと所感を述べる。


型紙パターン引いて、一からやるとなると……あんまり数は用意できないかも……ただ、既製品を弄るのなら話は変わると思う」

「つまり、エリサはできるの?」

「うん。一人では難しいけど、手伝ってくれる人がいるなら大丈夫だと思うよ」

「よしっ!」


 パァンッ! とアメリアとハイタッチをする。


 元々無理だとは思っていなかった。エリサはあの魔術剣士競技大会マギクス・シュバリエでも衣装を制作をしてくれていたのだ。


 きっと彼女ならやってくれるに違いなかった。


「一応メイド喫茶だけど、円滑に接客するために男子が担当する執事も入れようと思うの。それは既製品に頼るけど、やっぱりメイドは花形だからね。エリサが許可してくれてよかったぁ〜」


 背もたれに寄りかかるようにして、体を伸ばし切るアメリア。


 彼女はここ数日、絶対にメイド喫茶を成功させるという目的のためにかなり奔走していたらしい。


 というのも当日は衣装だけではなく、フードメニューとドリンクメニューも必要だからだ。例年、屋台や喫茶店などを開くクラスはあるのでそれを参考にすればいいが、メイド喫茶はそれ自体は初の試み。


 何が起こるか分からない為、アメリアはそのために全力を尽くしてくれている。


「で、もちろんエリサも着てくれるわよね?」

「え!? 私も着るの!?」

「当たり前じゃない! こんな可愛い服なのに、エリサが着ない道理はないわっ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! これってその脚がよく出るし……それに胸もちょっと目立つし……は、恥ずかしいよっ!」


 顔を真っ赤にして抗議するエリサ。


 だがアメリアが止めることはない。


 彼女の情熱リビドーはそんなエリサの抗議を圧倒的な勢いで潰しにかかる。顔は真剣そのもので、その熱意は本物である。


「エリサ大丈夫よ。私も着るからっ!」

「いやいや、そういう問題じゃないよ……っ!」

「ぐへへ……エリサのメイド服姿、楽しみねぇ……」

「レイくん! なんとかして! アメリアちゃんがやばいよぉ!」


 必死な顔つきで助けを求めてくるが……。


 ──すまないエリサ。俺は既にアメリア側の人間だ。


 それに俺もまた、エリサの愛らしい姿は見てみたいのだ。


 そして、エリサの助けを一蹴しアメリアの援護に入る。


「エリサ。俺も君の美しい姿に興味がある。是非、披露してくれないか?」

「ひゃっ!」


 俺はスッと手を伸ばすと、エリサのその両手を握る。さらに、その目を互いに合わせる。逃さないように、じっとその美しい瞳を覗き込む。


「エリサ。君は自分が思っている以上に、可愛い。それは俺が保証しよう。だから、着てくれないか?」

「う……うぅ……」

「だめか?」

「わ、わかったよ。レイくんがそこまでいうなら……いいよ……?」


 よしっ!


 と心の中でガッツポーズを取ると、隣に座っているアメリアが俺の足を蹴り飛ばしてきた。


「どうしたアメリア。痛いじゃないか」

「別にっ! 分かってたけど、分かってたけどっ!」

「? まぁエリサも着てくれるということで、あとの問題は……」



 そして俺たちは、ついに運命の日を迎えることになる。



 ◇



「では、今日のホームルームでは文化祭の出し物を決めます。誰か意見のある人!」


 アメリアが黒板の前に立つ。


 その言葉が合図だった。


 このクラスにいる男子生徒、アメリア、エリサは既にこちら側の人間。


 残りは女子生徒を納得させるだけでいい。


 その重要な役目は俺に任された。


 ならば、俺はその任務を全うするだけだ。


 ちなみに教室の隅でニコニコと笑いながら俺たちの様子を見ているキャロルもまた、既にこちら側である。キャロルには衣装の調達に協力してもらおうと思っているからな。


 そして俺は、この静寂を切り裂くようにしてスッと右手を勢いよくあげる。


「はい。じゃあ、レイ。どうぞ」

「メイド喫茶を提案する」


 その言葉を認識した女子たちは、一斉に声を上げた。



『え────────っ!?』



 そこから先は俺に対する罵詈雑言。圧倒的な罵倒が、俺に降り注ぐ。


 しかしそれは想定内。後はここから援護射撃が入るからな。


「ちょっと、どう言うこと!?」

「そうよ! どうしてそんな侍女の真似事なんて!」

「どうせ、いやらしい目的なんでしょう!」

「ほんっと。男っていやらしいんだからっ!」

「そうよ! そうよ!」

「これだから男子はっ!」


 甲高い声が教室を支配している中、低音の声がそれを跳ね返すようにして響きわたる。


「俺はいい提案だと思うが」


 その声はアルバートだった。


 ここで男子全員が賛同しても、ただのいやらしい目的に同調するということになってしまう。しかし、このクラスでもアメリアについでの上流貴族であり、さらには硬派な印象で通っているアルバートがそう述べた事で、この情勢は大きく変化することになる。


 俺とアルバートは視線を交わすと、フッと微笑を浮かべて予め用意していた会話を繰り広げる。


「レイ。お前はどのような意図で、メイド喫茶を提案したんだ?」

「このクラスには可愛い女子、美しい女子が多いだろう。それを最大限に活かすためには、これしかないと考えた次第だ。何も全員に強制したいわけではない。だが、俺はうちのクラスの素晴らしさをメイド喫茶を通じて表現したいだけだ。それに、メイド喫茶はまだこの学院の歴史の中で誰も行っていない。俺たちのクラスが、そのムーブメントを作れたらいいと考えている」


 その後、アルバートがクラスメイトの女子一人一人の名前を挙げてから、俺がその一人一人の素晴らしさを述べた。と言ってもその内容は俺が感じるままに述べていいとのことだった。


 その指示に従って、俺はクラスの女子全員の美しさとメイド喫茶が素晴らしい相性だということを話した。


 ただ今まで思っていたことを、あるがままに伝えた。


「なるほど。だ、そうだが。女子たちはどうだ?」


 既にアルバートが仕切っているこの場は先ほどに比べて、静かになっている。そして反発していた女子たちが、再び声を上げる。


「ま、まぁそこまで言われて悪い気はしないけど?」

「べ、別にそんな可愛いとか思ってないけど? 言い過ぎじゃ無いのっ?」

「ホワイトのことだから、そんなことだろうと思ってたけど……」

「あいつってマジに天然なのね……いや、真面目でいいんだけど……」

「別に、嬉しく無いけど? まぁそう思うのはいいんじゃない? うん。まぁやってもいいかなぁって……」


 と、風向きが変わってきたところでトドメと言わんばかりにアメリアがその口を開いた。


「いいんじゃない? 私はレイの提案に賛成だわ。接客はやりたい子がやればいいと思うし、メイド喫茶なら給仕以外の仕事もある。いいと思うわ」


 さも初めて聞いて、俺の提案に賛成しているようなアメリアだが、実際は彼女が発端となって始まった企画である。


 ある種のマッチポンプのようなものかもしれないが、今回ばかりは仕方ないだろう。印象に付いては嘘を伝えたつもりもない。


 全員の意志が一致してこそ、最高の文化祭になるのだから。


「じゃ、メイド喫茶に反対の人」


 アメリアが決を取る。もちろん、この流れで反対する人間などいなかった。


「お〜☆ 決まったね〜☆ いや〜、いいと思うよ〜? キャロキャロは皆ならきっと、と〜っても可愛いメイドさんになると思うよっ! うんうんっ!」


 キャロルが拍手をしながら立ち上がり、クラスの担任の了承も得ることができた。それに従って、みんなもまた拍手によって賛成の意を示す。女子もまた、賛成しているようで本当に良かった。


 こうして計画通りに事を進めた俺たちは、メイド喫茶という企画を持ってこの文化祭に臨むのだった。

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