いっときの油断
心地の良いまどろみの中に自分は居た。昨日は動いてばかりだったからぐっすりと眠れ、今は現実と夢の間だ。今の感覚はとても気持ちが良く、ずっとこのままでいいとさえ思えてくる。
ペチペチ
誰かが自分の顔触っている。しかし今は文字どうり夢心地なのだ。その程度では現実には帰っては来れない。
(……ぃ、いつまで寝ているつもりじゃ?お前さんは体毛が薄いんじゃから、今の気温じゃと風邪を引いてしまうぞ?早く起きて薪と朝御飯の調達に行くぞ………駄目じゃ起きない)
スコールは起きないハティを見てため息をつく。そしてふとある事を思い出す。
(ふむ。そういえばこのぐらいの時間じゃったかの?……ククク、ハティ今に見ておれ、お前さんはすぐに飛び起きるじゃろう)
そうスコールの笑う念話が頭に届いてから。そして何故笑っているのかを考える前にそれは起こった。
「ゴォォォケコォッォォォゴォッォォ!!!!」
「いぃぃぃ!?!?!?」
それは正しく轟音だった。余りの煩さに飛び起きて変な声が出てしまう。何が起こったのか辺りを見渡す。そして隣にはスコールがこちらを見て笑うように口を開けていた。
(ククク、お早うさん。ハティ、随分と目覚めが悪かったでわないか?昨日は今日が楽しみ過ぎて寝付けんかったのかの?)
スコールは意地悪笑いながらそう言ってきた。からかわれて少し恥ずかし……いや今はそんな事より状況確認だ。
(スコール!?今の大きな音は何なんだ!?)
(今の音はの。今日狩る獲物魔獣コケッコウの鳴き声じゃよ。朝になると今の様などでかい声を出すんじゃよ。そのためコケッコウ鶏卵場では毎日クレームが来るそうじゃ。なに奴らは朝に一度鳴くと一日鳴かんから安心するんじゃ)
そりゃあんな爆音が朝一に鳴っていたら、苦情が来るだろう。
「へ、へくち!」
(ふむ、やはり朝は冷えてるのう。風邪を引く前に薪を集めるとしよう)
◇◇◇
(うーむ、魚だけでは栄養のバランスが崩れると思うんじゃが)
薪を拾っているとスコールがいきなり言い出した。……っち、この枝も湿気ってる。雨というのが降っていないはずなんだけどな……そういえば栄養って何だ?
(栄養って何?)
(栄養にはな種類があっての炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルの5つじゃこれを五大栄養素と言う。まぁ五大栄養素の詳しい説明は朝飯の時に教えるからの、今ワシらになりないのは炭水化物とビタミンとミネラルじゃな。)
五大栄養素のうち3つが足りていないらしい。残りの2つを言っていないという事は、魚に脂質とたんぱく質があるのだろう。
(ここは森じゃし、木の実の1つや2つは簡単に取れるじゃろう。食後のデザートを追加したいのう)
そう言いながスコールはこちらをチラチラ見てくる。
…………
(まぁ食べれる木の実は気になるし、さっきバランスがどうとか言ってたし良いんじゃない?)
(うむ、決まりじゃな!それでは行くとしよう!)
こうして食後のデザートを求め森の奥へと進むのであった。………薪を置いていきたいけどどうすれば良いのだろうか?
◇◇◇
歩く事数分、スコールが何かを見つけた様だ。
(む、あそこに「ブランブル」があるのう)
ブランブルという木の実は、粒の集合体の様な見た目をしていて、実らせている多くは色が黒く、少し赤いのがある感じだった。
(ブランブルはジャムなどに加工できての。また薬効あり収斂作用や利尿作用、下痢に効くそうじゃby図書館)
スコールがスキルを使っての説明をしてくれた。何やら凄そうな木の実だな。食べれると分ったなら取るとしよう。
(黒いのが成熟しとるからそれを取るんじゃよ〜)
(わかった)
両手一杯に黒い実が取れた。まだまだいっぱい実っているのだが、これ以上は手から溢れてしまう。
(のう?少しここで食わんかの?まだ沢山ある様じゃし、その手に持ってる量ぐらいは良いじゃろ?)
(それもそうだね。そうしよう)
待てないとばかりにスコールが言ってきた。自分も腹が空いているので、誘惑に耐えきれずスコールの案に乗ってしまう。いい感じに大きな葉に木の実を置き、木にもたれかかる様に座り食べ始めた。
(すっぱ!?涎が大量に出てきたんだけど!?)
(うむ程よく酸味が効いて中々に美味じゃの)
一度食べると中々止まらない。初めて酸味の効いた実は正しく禁断の果実だ。
……だがこの時忘れていた。ここが魔物達のいる森だという事に、安全なのは月の雫の周辺だけだったという事を。
ピヨピヨピヨ
気づくとそこには黄色い生物が居た。
(?スコール何か気付いたら黄色い生物が居たんだけど?)
(む?あぁ其奴は今日から予定の魔獣コケッコウの幼体………イカン!!其奴から離れろ!!)
スコールの怒鳴り声に驚き仰け反って転んでしまう。だがそれは幸運だった。
ズドン!!
強靭な脚から繰り出される蹴りで、先程まで頭あった所が無残に抉り取られていた。
(………)
突然の出来事で言葉を失ってしまう。
蹴りを繰り出した魔獣は体長2メートルを優に越し、白い羽が体を覆っていた。顔は怒りで満ちておりそれを表すかの様に赤いトサカが揺れしてこちらを睨んでいる。
スコールは威嚇をする様に低く構え、喉を鳴らしていた。
「グルルルル」
(クッ、子に危害を加えたと勘違いしておるな、不味いぞ逃げようにも彼奴の方が脚が速く追いつかれてしまう。……ハティ今ここで腹を括れ、でなければ死んでしまうぞ)
嘘……だろ……こんな奴に今から挑むっていうのかよ……
こうして一体の魔獣と小さな狼達の死闘が幕を開けた。
詳しくは描いてませんがハティは全裸です