嫌なことは数えても減らない
嫌なことは数えても減らない。
むしろ、数えることによって憂鬱になるだけだ。
気分転換のために僕は出掛けることにした。
しかし、五分も立たない内に雨に降られる。
ツイてない。
そう思いうつむいた瞬間、雨が止んだ。
いや、見慣れない傘が雨から僕を守っていた。
「何してるの?」
「絶賛雨に降られ中。ツイてないよ」
「私はツイてたかな」
「どうして?」
「雨が降ってくれたからお気に入りの折りたたみを使えたし」
「使えたし、何?」
「急な雨のおかげでこうしてキミと相合傘できる。うん、悪いことばっかじゃないよ!」
肩を並べて歩く。
他愛もない話をする。
やがて、嫌なことは数えても減らない、という話題に行きつく。
「そんなこと考えてたんだ。キミらしいと言えばキミらしい、のかな?」
でもさ、と繋いで僕の瞳を覗き込むように、彼女が僕を見上げる。
「どうせ数えるなら楽しいことの方がいいじゃない?」
そう言って彼女は柔らかに笑う。
僕にはただひたすらに、そのお日さまのような笑顔が眩しかった。