あすなろの木へ、小雪ふる風景(すみれ子Ver.)
《夜道ゆく
あすなろの木を揺らす風
しんしん 刹那に 小雪が止まる》
理由は馬鹿げている
夢を見たから、
逢えるはずもない人との
再会のために
7年ぶりに故郷へ足を運んだ。
音もなく小雪のふり来る空見上げ、
すみれ子に逢うために戻った
一月の夜、
私は故郷の町をひとり歩いている。
出会う人も少なく、
故郷だというのに知った顔を見ることもない。
ただ、顔を刺す突風が私の歩みを止め、
向かう、懐かしい、あすなろの木の下に
温かい人の影を見る。
夢に出てきたままの
懐かしいすみれ子のシルエット。
立ち止まったままで、
ずっと、すみれ子の人影を見続ける。
暗い灰色の空から降り来る、
謝るような繊細な、
そっと聴こえる雪の息づかいも
真綿色の町に吸い込まれ、
ただただ無音で、小雪が降り来る。
まるで、止まった時の世界を
小雪だけが舞い降り、堕ちて、いるように。
私はその時、あすなろの木の下にいる
あなたのまぼろしを立ち止まって見ている。
早くあなたの顔を見たいけれども、
近づけばあなたが、そのまま、
消えていなくなってしまいそうで。
前にもすすめず、あとにも引けず、
動くことを怖れるかのように、
じっとこの場に、立ち尽くしているのだ。