厳島の戦い
―――――――――1555年10月10日 大友館 奈多鑑基――――――――
「なにっ、大内が毛利に負けただと!?」
御屋形様が驚いたのように声をあげられる。儂もこの知らせを倅から聞いた時は大声を上げてしまったものだ。
「はっ。厳島の宮尾城を陶晴賢殿が攻めているところを毛利が奇襲で破りました。結果、晴賢殿は自害し約4000もの兵が討ち取られたと」
「義長は出陣していなかったのか」
「幸いにも大内館にいたようです。しかしこれから毛利が大内の領地を狙うでしょう」
「そうか、しかしまずいな。毛利討伐が終わり次第、大内と惟宗討伐を行うつもりだったというのに。伊東や肝付も乗り気になっていたところだったというのに、これであの者たちがやめにすると言いかねんぞ」
御屋形様が頭を抱えて蹲る。昨日まではこれでようやく忌まわしい惟宗を潰すことができると喜んでいたというのに。それが毛利のせいで台無しになってしまった。
「ま、待てよ。もし惟宗に今回の計画が漏れていたとしたら・・・」
計画というと大内が筑前に攻めったところで肝付が大隅・薩摩を、伊東が肥後を、我らが筑後を攻め取るというものだ。もちろんほかの重臣たちには相談もしていない。御屋形様と儂と倅だけで計画していた。大内には毛利討伐後に話を通すつもりで準備をしていた。もちろん儂も倅も実際に実行するつもりはなかった。適当なところで鑑連殿なり鑑続殿なりに知らせて止めてもらうつもりだった。そうすれば計画は頓挫するし御屋形様は自分の言うことを聞く儂や倅を重用するようになると思っていたのだが。うまくいかないものだな。特に惟宗が絡んでくるとそうだ。
「御屋形様、たとえ惟宗に漏れていたとしても実際には我らは何も行動しておりませぬ。つまり惟宗が今攻めてくればほかの大名や国人は惟宗は信用できないと思うでしょう。成り上がりの惟宗が最も気を付けていることは信用を失わないことです。なので当分は何もしてこないでしょう」
「だが間接的には何かしてくるのではないか」
「だとしても御屋形様は毅然とした態度でいて下さればよいのです。間接的にしてくるということはそれ以外にする方法がないということですので」
実際に横領などのをするときに手がなくなった時は同じようなことをした。それが少し大きくなっただけ。当分惟宗は伊東や肝付にかかりきりになるだろう。それまでに準備を整えるなり惟宗と協調する道を選ぶなりすればよいのだ。それより鑑連殿の噂の事を御屋形様の耳に入れていた方がよいな。そっちの方が出世できる。
「そういえば御屋形様は鑑連殿のうわさをご存知ですか」
「鑑連のうわさだと?いや、聞いたことはないが」
「鑑連殿が惟宗に通じているという噂です。ただの噂だと思いますのでお気になさらず」
「なにっ。鑑連が惟宗に通じているだと」
おや?意外と食いついてこられたな。
「あくまで噂にございますぞ。あの忠節名高い鑑連殿が通じているとは思えませんが」
「しかしその噂が事実であれば惟宗が攻めてきたとき、厄介なことになるのは間違いないぞ」
いちおう惟宗とは同盟を結んでいるのだからそう簡単に攻めてくるとは思えんのだが。御屋形様は何度も内乱を起こされ、そのたびに惟宗には苦い思いをさせられた。そのせいで疑心暗鬼になってしまっているのだろう。
「そうだ、簡単なことではないか。惟宗から仕掛けられるから厄介なのだ。儂から仕掛ければよいではないか」
「御屋形様、それは・・・」
「鑑基。すぐに鑑連が惟宗に通じているという証拠を見つけ出せ。それから惟宗の動きを監視するのだ。惟宗が伊東・肝付に攻め入ったのと同時に惟宗を攻めるぞ。それからあの者を呼び出せ。戦の準備だ」
「しかし皆は従いましょうか。皆、惟宗と協力して大友家を大きくしていくべきと考えている者が多いですぞ」
中には惟宗の下に付き惟宗家臣として繁栄させた方がよいというものまでいるというのに。御屋形様はそれでも惟宗と敵対する道を選ぶのだろうか。意味が分からん。
「惟宗と協力したところでどうせ少しずつ領地を削られ最後には服属を強いられる。ならば敵対して対等な関係でいた方がよいのではないか」
「それはまぁそうですが」
「それからすぐに毛利と連絡を取れるようにしたい。毛利が大内討伐を終え次第、惟宗領を攻めるよう掛け合うのだ。条件は大内討伐の黙認。毛利もわしが大内に力を貸すことを恐れているに違いないからな」
「義長様を御見捨てになられるおつもりですか!?」
「大友家を守るためだっ」
実の弟を見捨てるとは。それで家臣たちがついてくると思っておられるのだろうか。まぁ、ついてこない家臣が増えればその分わしの発言力が増すだけだから良いのだがな。
「見ておれ、国康。必ずや貴様の頸を取ってくれるわ」
しかし、いったい何が御屋形様をここまでさせるのだろうか。先代から国康殿と比べられていたとかだろうか?まぁ、儂の出世にはあまり関係ないか。




