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豊前

―――――――――1555年8月1日 久留米城 北原頼氏―――――――――

「御屋形様、頼氏です」

「そうか、入れ」

「はっ」

戸を開けて一礼してはいる。

「どうだ。この城には慣れたか。城の道はかなりややこしいはずだが」

「もうすでに慣れ申した。配下の中にはまだ慣れていないものもいますが来月には皆迷わずにすむでしょう」

確かにかなり複雑な造りになっていたが一月もすればある程度は把握した。御屋形様の居城なのだ。我らが把握していなければ多聞衆の面目が立たない。


「そうか、頼もしいな。では報告を頼む」

「はっ。まずは大友ですが先日、鑑連殿を総大将に豊前の反乱を制圧しました。城井氏が最後まで抵抗していたようですが豊前の国人たちはほとんど滅びました。その際に宇佐神宮を焼き払ったようで家臣たちの中にはかなり不満を持っている者がいるようです。まだ大友の内乱の種は残っていると言えるでしょう。その中には重臣の一万田一族のものもいます」

「一万田というと高橋の隠居の実家か」

「はい。一万田の当主と嫡男は高橋鑑種の父親と兄です。この二人はもともと義鎮とはうまくいっておらず、鑑種が惟宗に降伏してからはより酷い扱いになったとか。それを知っている反キリスト教派の家臣たちが近づいていったものと思われます」

「そうか、では少しずつ調略を始めよ。こちらに付くと言ったものには伊東と敵対した時に大友が伊東に付くよう義鎮に進言させよ。それから裏切れないというものには敵対しないだけでも良いと伝えておけ」

いよいよ大友を潰すことになるのか。我らが仕官したころにはあり得ないことであったが今ではそれが可能なのか。しかし大友を潰すのはこれまでの大名に比べて厄介だろう。宗教関係で対立しているとはいえ優秀な家臣たちが義鎮に味方するはずだ。たとえ内乱に次ぐ内乱で力が落ちていたとしても油断はできないな。


「それから舅殿は調略せずにおいてくれ」

「よろしいのですか。鑑連殿は大友家臣の中でも群を抜いた戦上手。敵に回ると厄介ですぞ」

「構わん。その代わりにこちらに付いた者に舅殿が惟宗に寝返ろうとしていると義鎮に伝えさせよ。さすればあの義鎮は再び舅殿を加判衆から外そうとするはず。場合によっては領地の没収も行うかもしれん。それを見たほかの家臣たちは不安に思うだろうな。あの大功ある舅殿が領地を取られたのならば自分もいつ領地を没収されてもおかしくないと。こちらの調略も容易になるわ。それに舅殿も後腐れなく惟宗に付こうとするはず。念のため舅殿が殺されないよう監視を付けておけ。これで殺されてはかなわん」

「はっ」

殺されないように監視とは御屋形様はよほど鑑連殿に思い入れがあるようだ。まぁ、御裏方様の実父で大友家随一の名将だ。是が非でも味方にしたいのだろう。


「大友はこの辺りでよかろう。次は伊東の報告を頼む」

「はっ。伊東は当主の義祐は飫肥と真幸院に攻め入りたいようですが木脇祐守きわきすけもりらが反対しているため今のところは動きはございません。しかし大内から密使がきているようです。また、同様の密使は大隅の肝付にもいっているようです。おそらく大内・伊東・肝付が手を組んで惟宗に当たろうとしているのではないかと」

「面倒な。それに大友が加われば九州の大名は皆、俺と敵対するのか」

そう言われているがあまり悲観していないようだ。しかし大友も加われば惟宗とてかなり厳しい戦になるのは目に見えている。果たしてどうなさるおつもりなのだろうか。

「伊東にも調略を進めてくれ。寝返るものが少ないようであればどこの国人が裏切っていると噂を流せ。義祐は苛烈な性格だと聞く。うまくいけば伊東の弱体化につながるだろう」

「肝付はいかがなさいますか」

「監視だけしておけ。伊東か大内が動かん限り動こうとはしないだろう」

「はっ」

御屋形様は肝付の事をあまり評価していないようだな。おそらく肝付が反旗を翻せばすぐに潰されるだろう。


「大内はどうだ。確か毛利とやりあっていたはずだが」

「そろそろ本腰を入れて毛利討伐を行うようです。来月か再来月ほどに厳島の宮尾城を攻めると思われます。どうやら宮尾城の築城は失敗であったとの噂が流れているようで、その噂を聞いた晴賢が随分と毛利討伐の準備を進めるよう指示をしたとか。元就も現在は宮尾城ではなく佐東銀山城にいるようです」

「そうか、いよいよ大内と毛利との間で決着がつくか」

御屋形様はそう言って少し考え込まれる。

「おそらくその噂は罠であろうな」

「罠というと」

「大内を大軍がうまく活用できない厳島に上陸させるためのだ。先の敷折原でも毛利は大軍をうまく使えない場所で大内を破った。今回も似たようなことを考えているのだろう」

「しかしそう二度もうまくいくでしょうか」

「いくだろうな。先の戦に出たのは晴賢ではないしあの元就が手を抜いているとは思えん。偽の内通者でも用意して上陸させるだろう」

「なるほど。すぐに探らせます」

「頼む。毛利との戦が終われば筑前で唯一大内についている麻生に調略を頼む。大内が毛利に負ければ麻生も大内を見限るだろう」

「はっ」

麻生がこちらに寝返れば筑前は完全に惟宗のものになる。いよいよ九州統一も残るは豊前・豊後・日向のみ。御屋形様が家督を継いで20年以上。ようやく御屋形様の目標がかなうのか。必ず成功させるためにもこれまで以上に働かねばな。

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