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引っ越し

――――――――――1555年5月20日 大内館 陶晴賢――――――――――

「ふん、島津はもう降伏したのか」

「はっ」

返事をしたのは野上房忠だった。

「島津の領地は鹿児島郡だけとなり当主も貴久殿から若い義辰殿に変わりました。また有力な分家も軒並み独立して惟宗の直臣となったため当分の再起は無理でしょう」

「どいつもこいつも使えんな。せめて毛利を潰し終えるまで粘ると思っていたのだが」

「国力の差を考えれば仕方のないことかと。私としましてはむしろなぜ敵対しようとしたのかが不思議です」

「おおかた惟宗が成り上がり者だからだろう。島津ほどの名門であればあまりいい思いはしなかったはずだ」


それにしてもうまくいかん。相良はこちらの誘いに乗って来なかったし、九州のことにかまけていると毛利の老狐が調略の手を伸ばしてきよった。幸いにも毛利と戦う前に粛清をすることができたが他にも調略されたものがおるやかもしれん。房忠は父の代から仕えている忠臣だから大丈夫だとは思うが念のため毛利との戦の際は後方に置いておくか。


「過去のことはその辺りにしてこれよりはどう動きまするか?我らが兵糧の援助をしていたことはすぐに発覚することと思いますが」

「義鎮様はどうなっている」

「先日、豊前制圧に向けて出陣したとのことです。惟宗を襲うということはないかと」

「ならば大隅の有力国人はどうだ。確か肝付とかいうのがいたであろう。あれと伊東が協力すればあと2年ぐらいは持つのではないか。それから土佐一条家。あそこは琉球との交易で力をつけていたはず。惟宗に坊津を取られるのは不安だろう。その三者を結びつけよ」

「はっ」


土佐一条家は当主がまだ幼かったはずだ。有力な家臣に適当に金を積めばすぐに味方すると言ってくるだろう。餌はそうだな、琉球との交易の独占を幕府に掛け合うというのはどうだろうか。惟宗を潰すことができれば天下に大内と並び立つ大名は三好ぐらいになるはずだ。幕府も三好を追い出すために認めるはず。うむ、うまくいきそうだ。そのためにもまずは毛利だな。毛利を叩き潰せば吉見を潰すことなど赤子の手を捻るようなものよ。

「あとは毛利と惟宗が手を取り合わないようにしておけ。成り上がりどもが手を組んだら流石に厄介だ」

「はっ。すぐに領内の監視を強化いたします。国人たちにも指示をしておきましょう」

「うむ、頼んだぞ」


――――――――――――1555年6月1日 塚崎城――――――――――――

「御前様、あれはどこに置いておいたでしょうか」

自室で荷造りをしていると少しお腹が大きくなってきた政千代が入ってきた。

「あぁ、あれはもう向こうに送っている。それより硯を知らんか。あれがないと向こうに付くまで仕事ができんのだが」

「知りませんわ。勝良か小姓が知っているのでは?」

「小姓たちはほかの部屋の荷造りをしているからなぁ。あとで聞いておこう」

しかし結婚してもう十年以上になるのか。あれとかで話が通じるようになるまでになるとは思わなかったなぁ。前世では高校生で死んだせいで結婚とか無縁の話だったもんな。


なぜこのような会話をしているかというとこの間、篠原城の改築が終了した。改築というか一回城を完全に壊して新しく作り直したからほぼ新築だな。たぶん史実の戦国時代を含めても九州最大の城になったはずだ。いや、さすがに熊本城にはかなわないかな。小学校の時に一度だけ見たことがあるだけだから記憶があいまいだ。どうだろうか、比べてみたいとは思うけど向こうに戻ることはできないだろうし、戻れたとしても熊本城はまだ復興の途中だろう。出来ることなら早く元の美しい姿を取り戻してほしいな。


「しかし篠原城というのはどのような城なのでしょうね。この城より大きな城と聞いていますが」

「あぁ、城の名前は久留米城に改名したがな。たぶん天下を見渡しても並び立つ城はそうないだろう。近くを流れる川の流れを一部変えて城の堀に流れるようにしている。それも3重にだ。中心に本丸がありその西側には二の丸、三の丸がある。それから曲輪が東西南北すべての方角に数多くある。城の内部は複雑な造りになっていて初めて入った者は絶対に本丸にたどり着けないだろう。それに櫓もあちこちにあるから敵はそれに気を付けながら攻めなければいかん。正直あの城が落ちるところが想像できんな」

なにせ縄張りの段階からかなり口を出したからな。出せるアイディアはどんどん取り込んだよ。


「まぁ、御前様でも落とせませんか」

「今の惟宗では落とせんだろうな。兵糧攻めをしようにも非常用の食糧が壁に埋め込まれているから無理だ。10万の兵で1年以上囲めば勝てるだろうがそのようなことができる大名は今のところおらん」

「今のところということは、いずれはそのようなことができる大名が現れるということですか」

「おそらくな。ま、それが惟宗であるかもしれんが」

「もしそうなったら大出世ですねぇ」

本当だな。もともとはろくに米が取れない対馬のなんちゃって大名だったのに今では三津七湊のうち博多と坊津を領有する天下でも有数の大大名だ。


「そういえばそろそろ都都熊丸の傅役を決めねばならんな」

「そういえばそうですね。どなたにするか御決めに?」

「まぁ、一応はな。勝利と尚久と頼安にしようと思っている」

「まぁ、譜代の方ではないのですか?」

「不安か?」

「御前様が選ばれたのですからさぞ優秀な方なのでしょうね」

「そうだな。勝利が武術を、尚久が戦術を、頼安が内政を教えることになるだろう」

それにこの3人は惟宗に仕えるまでに多くの苦労をしてきた。そういった経験もあるからいい傅役になるだろう。

「あの子が元服して惟宗家を継ぐ頃にはどうなっているのでしょうね」

「どうだろうな。俺としては九州を統一してから継がせようと思っていたがどうやら元服より先に九州統一になるかもしれん」

「ふふっ。楽しみですね」

「あぁ。そうだな」

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